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-1話「夢で見るあなたは誰?」

あと1話だけ、シェルマ(ヒロイン)視点になります。

「はあ……」

 自然と大きなため息が出た。


「あっ、ため息は幸せを逃がすよ。ていうか、私を見ての溜息?」


「違うわよ。今、そこで言い寄ってきた人がいたの」


「おおっ。てことはフルコンプだ。さっすがシャルマ」


 サクイは機嫌よさそうな顔で、立ち上がりお尻に着いた砂を払う。あたしより少し背が小さくてもちもち肌で、モクモでも可愛さ5本の指に入る女の子。ピンクの髪は遠くからでも結構目立つ。そしてかなりいい子だ。


「いちおう聞くけど、何の用?」


「もちろんお料理のお勉強しに。女子力は上げておかないとでしょ。いぇ~い」


「仕事終わり早くない?」


「今日案内所の機器メンテだから。今回、私メンテ担当じゃないし。カルミさんも来るってよ」


「そこで会ったわ」


 玄関を開け、もう一度後ろを振り返りながらサクイを入れてさっとドアを閉めた。


「……まだ気になるんだ……」


「そんなわけないでしょ……何作りたいの?」


「ええっとね、今日はパスタが食べたい気分」


「えっと、食べたいのと作りたいのどっちなの?」


「えっ、どっちもだよ。もしかして潜って疲れた?」


 また溜息をつきそうになったが、なんとか抑えた。


「うんうん、そこまでじゃない。シャワー浴びてくるから、鍋にお湯だけ沸かしておいて」


「一緒に浴びようか?」

 サクイはあたしの体をじろじろ見る。


「なんでよ?」


「シャルマの肉体を観察したいのと、胸とかどのくらいの柔らかさなのか確認したくて。いいなぁ、どうやったらそんな理想ボディになるんだろ?」


「ここにも変態が……妄想してなさい。あっ、カルミ以外中に入れないでよ」


「了解」


 シャワーを浴びながら、今日一日のことを思いだし、頭をリセットする。


 サクイの奴……悪気はないんだろうけど、余計なこと言って……


 背後は気になるわよ、いきなり何の前触れもなく入ってきたのよ! あたし1人だったら……恐怖以外何にもないんだってば。


 考えちゃダメ! 記憶の奥底にしまい込んで二度と出てこないで!


 不安と恐怖は常にあたしに付きまとっている。少しでも強くならないと。誰も守ってなんてくれないんだから……


 サクイやカルミの前ではちゃんとしていないと。余計な心配をかけてしまう。そうなればあたしはまたそれを思い出すし……


 流れてくる涙はシャワーで一緒に流す。

 弱いのかな……あたし。


 ネガティブな思考がよぎり、素早く首を横に振る。


「大丈夫。あたしには希望があるんだから……ダーリン、名前なんて言うんだろう?」


 たまに見る夢にその人は出てくる。名前も顔もわからないけど、その時だけが妙に落ち着くし、安心するし、ドキドキして目を覚ます。何か言い合ったり、いちゃついたり、甘えたり……

 ちょっと考えられないけど。


 Tシャツに赤のロングスカート。その上にエプロンをまとい、準備完了で台所へ。


 サクイは言われた通り、お湯を沸かしてお料理の本を読みながら火を見ていた。あたしに気づいて、鍋を指さし、可愛らしい笑顔を作る。

 冷蔵庫を除き、具材やソースを考えることに。


「そうねえ……トマトとなすにガーリックを効かせて……塩と黒コショウで味を調えよう。ツナも入れよっか」


「うわ~、聞くだけで美味しそう。野菜を切るのは任せて。包丁さばき練習しないと……パスタの茹でる時間って目安通りでいいの?」


「茹でたあと絡めるから、目安より短めの方がいいかも。アルデンテの方がどっちかといえばあたし好みだし。食べたい人の気持ち次第かな」


「なるほど……」


 サクイはメモを取る。ほんとに料理が上手くなりたいんだなあ。現時点でも決して苦手でもないと思うんだけど、志が高い。


「シェルマは料理も上手ですごいなぁ」


「振舞う男の子いないんだけどね」


「またまた、いつか出逢う夢の旦那様がいるじゃない」


 サクイだけには、夢の話をしてしまっている。


「ちょっとカルミに話したら、許さないからね」


「わかってるって。シェルマがど真ん中な女の子だってわかっているのは私だけだよ」


 料理が出来るタイミングを見ていたかのように、カルミはやってきた。

 テーブルにはサラダとパスタ。それに冷やしたアイスティの入りのグラスが並ぶ。


「うまそうだな。いただきます」

 よほどお腹が減っていたのか、勢いよく食事を始めるカルミ。


「いただきます」

 サクイの方は作った料理をFCS内に保存して、ゆっくりと食べ始めた。


「そういやシェルマ、30階クリアしたらしいな」


「まあね……」

 あたしはフォークに巻いたパスタを口に入れる。なかなかの味。


「単独でよくもまあ攻略できたもんだ。さすが最強女剣士」


 いつのまにか、モクモ1の剣士にはなれたけど……


「カルミ、ペア戦闘でのイベントやめてくれない。あたし誰とも組むつもりないし」


「それは無理な相談だ。そもそも単独攻略を想定してプログラミングしていない。それにクマアファミリアは一人だけじゃどうにもならないだろ。強い駒はより多く必要だ」


 クマアファミリア、悪魔族って呼ぶ人もいるけど、女神を恨んでいて、そしてあたしを妃候補に勝手にピックアップしている敵だ。


「だったらカルミ、ペア組んでよ」


「開発者の僕が参加するわけにいかない。わかるだろ……みんな断って、シェルマはどういう子がタイプなんだよ?」


「わかんないわよ。ただ会えば絶対自分で気づくと思う」


 サクイはそれを聞いて、吹き出しそうになるのを必死に耐えているようだ。


「モクモは女の子の比率が高いからな。女神はみんな女の子だし。男の子はみな軟弱で戦力として計算できない。選べないのもわかるけどな」


「カルミって地上と海底の代表者とたまに話し合いしてるんでしょ。男の子いないの?」


「海底はここよりも女性の数の方が多い。地上はそうでもないが、モクモのことを知るものは皆無と言っていい。地上の代表者は元モクモ住民だし、みんな女性だ」


「そうなんだ……」


 食事中もお構いなしで、あたしの目の前にとある物件情報がウインドウで表示された。

 アイスティに口を付けながら、詳細情報を閲覧してみる。


「それ、今日完成した一軒家だぞ。金額達成してるみたいだな。常設イベとはいえ、30回到達した時点で金持ちだからな」


 広いお庭にプールまで付いてる……

 あれ、確か……自分の勝ち誇った顔と、悔しそうな男の子の顔が思い浮かぶ。

 水着姿のあたしに、ちらちら視線を飛ばし恥ずかしそうに俯く顔。

 一瞬でいくつもの未来が頭をよぎった。


「あたし、この家買う!」


 グラスを置いて、両手でウインドウを操作し、セキュリティレベルをMAXに変更だけして、購入確認画面へ。


「ちょ、シェルマ落ち着きなよ。一度見学してからの方が」


「誰かに買われちゃうかもしれない。あたし、この家に住んでないとダメなの!」


 購入ボタンを押し、新築の物件は今あたしの所有物になった。


「よしっ、買えたわ」


 頑張って貯めた資金はほとんど消えてしまったけど……


「躊躇しないのは長所だけどな。あの家、かなり広いぞ。一人で住むには贅沢過ぎる」


「いいでしょ。頑張ってる自分へご褒美」


「シェルマ、この家は?」


「サクイ、ここに引っ越しなさいよ。好きに使って」

「いいの。わ~い」


 おしゃべりしながらの食事を終え、後片付けも済んだとき、ウインドウが自動で開き、警戒音が鳴り響いた。


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