第7話
「た、たしかにメシは沢山食べたけどよお。お前の姉さんも帰れって言ってるしよ」
ラミーは涙目になりながら肩を震わしている
「だ、大体おれは、ここにいるつもりじゃ・・」
「逃げて!」
「えっ」
「もう魔力残ってないんでしょ!? 昼間わたしを助けたために」
「は」
「ユウジは裏口から逃げて! わたしが何とかするから!」
そして涙を拭き、先のリリーのように深く頭を下げ
「助けてくれて・・ありがとうございました」
と一礼した
「お、おう。じゃあな」
予想外の反応にユウジは気まずくなり逃げるようにその場を去った
「チッくそが」
ユウジはエルシュナー家を飛び出し外を走りながら、一言吐いた
途中何匹かの犬が襲ってきたがユウジはイライラしながら頭部を足蹴にしながら走っていった
『大人達が襲ってくるぞっ!』
クソ・・クソッ!
『ユウジ! 逃げるんだ! 俺がなんとかする!』
『でも・・でも!』
『早くいけ!』
ユウジは不機嫌になりながら少年時代、昔のことを思い出していた
「胸くそわりーぜ」
こういう時は暴力に限る
そもそも腹こそ満たしたユウジではあったが、ここがどこかも分からないし明日の食べ物さえ持ってはいない
今の状況が理解出来ないまでも、初めの目的
水や食べ物を強奪する、という行為はユウジにとって気分的にも将来的にも合理的に思えた
「しかしあぶねー臭いがプンプンする場所だぜ。せめてはぐれのガキか老人でもいれば・・」
「んっ」
「あれは! 老人かっ!?」
ユウジが逃げ出したエルシュナー家を眺める老人が遠目に見える
横にはまたも、犬が居るようにみえた
「やってやるぜ・・こっちはムシャクシャしてるんだ」
普段警戒心の強い慎重なユウジだったが
今はとにかく、この嫌な気分を晴らしたい一心で飛び出していた
「へっ汚い格好だぜ」
「誰だっ!?」
「ワオンっ!?」
「へっへっへっツイてるぜ俺は」
ユウジは不気味にニヤッと笑った
しかし相手の老人はユウジを見て不敵に笑い返した
「ほぉー。これはこれは。神の恵みですかねえ」
「ワオンっ」
「んー。フギンもそう思いますかー。あの肉体ならヘルハウンドまでイケるかもですねえー」
「おいジジイ! 何をワケわからんこと話してやがるっ!」
「イキもいい・・ヒヒ」
またか
ユウジは内心怒り心頭であった
昼間のガキといい、全く俺の事をナメくさってやがる!
俺は・・俺は!
「奪う側に回ったんだ!」
「速い!?」
ユウジは即座に老人の喉元を掴んだ
「ワオンっ! ワオンっ!」
老人の横にいた犬がユウジに向かって吠え続ける
「ググ・・なんという握力。私の防御魔法を貫通してきますか」
「おいジジイ! このまま死にたくなかったらなあ! 食い物と水を残らずよこせ、ってんだ!」
そこでユウジはあることに気付いた
(なんだこのジジイの首! 鉛みたいにずっしりした感触だ)
老人は首を掴まれながら、またも不敵に笑い
「これは・・良い血になりそう・・ですね」
「はあっ!?」
ゾク・・・
その瞬間ユウジの背筋に寒気が走った
「闇の神グレンダルに告ぐ。我、漆黒の従者にして闇を信奉せし者。その闇の手により生者の心臓を潰したまん・・ア・カース・クルデムア」
「ヒッ!?」
「闇魔法! トライデントバニッシュ!」
「ヒッ・・急に息が苦しく!?」
ユウジは急にがくっ、と膝をついた
動悸が激しくなり、目まいがする
「ヒヒ・・あなたの血、大切に使わせて頂きますよ」
「俺に何をしたああ!」
息が出来ない
ユウジはパニックになり更に強く老人の首を握りしめた
「ググ・・まだ絶命しないとは。なんという生命力・・!」
「ワオンっ! ワオンっ!」
「こ、殺してやる!」
ユウジは力一杯老人の首を絞めた
老人の首とは思えない固い異物のような感触だったが構わず絞め続けた
「ググ・・最上級の防御魔法がまるで・・」
「ワオンっ!」
「あり得ない・・このわたしが・・」
「おらあああ!」
気づけばユウジの手には既に死骸となった老人がそこにはいた
体の異変も既になく元通りとなっていた
「へっ! ざまあみろや!」
「ワオンっ! ワオンっ!」
老人の横にいた犬は必死にユウジに吠えている
そして死骸となった老人に気づき奇声をあげた
「ク! クゥーン・・クゥーン!」
ユウジは叫ぶ犬を無視し死骸となった老人を物色し始めた
「宝石に変なビンに金貨・・なんだよ! 何もねえじゃねえか!」
トウキョウにおいては宝石や金などは実用性のある鉄や硫黄より遥かに価値を持たない
つまりユウジにとっては石ころ同然であった
「いや」
「そーいやひとつだけあったなあ。残してったなあ。食い物になりそうな物を」
「ワオンっ!?」
ユウジは横にいた犬を見てニヤッと笑った
犬はその場から飛び退き、ユウジに対して急にシッポを振りはじめた
「ワオンっ! ワオンっ! クゥーン・・」
ゴキッ・・!
辺りもすっかり暗くなり、ユウジは死骸と化した犬を肩に抱えながら明かりを求めて歩いていた
「とりあえず肉屋に売ればイモくらいにはかえられるか? 最悪明日食っちまうのもアリだしな」
「そしたら『犬しゃぶ』だぜえ」
ユウジが軽足で歩いていると横から声が聞こえてきた
「しかし、解体する道具がないのではないか?」
「だ・・誰だっ!」