第4話
「これ以上のモノは・・当家には、ない・・」
がっくりとうなだれるリリーをよそにユウジは状況が掴めずにいた
(なんだこりゃあ? なんか感謝されてるっぽいぜ。これはもしかしたら・・)
「あの・・へへっ。もしお礼とかなら水と食い物の1つでもよこせ・・いや、くれれば」
「なんとっ」
この家といい身なりといい、こいつら明らかに支配者層の何かだ
貴重な食い物だって、ちょっとくらいもらってもバチは当たらねえだろ
支配者の男はいないみたいだしなっ
ユウジがこう邪推していると、リリーはおろか、後ろにいる緑髪の少女・・ラミーもその場でフルフルと固まっていた
(まずいっ。流石に食い物は欲を張りすぎたかっ!?)
「なんと欲がない御仁だ・・」
「は?」
「とにかく直ぐに食事を用意させてもらうっ! 礼の話はそれから改めて、だ」
そういうとリリーはドタドタと奥のほうに走り去った
と思うと振り返り
「もちろん礼がこれで済むとは思ってもいないからなっ」
「は、はあ」
(食い物には・・ありつけるのか?)
ユウジが難しい顔をしているとラミーが寄ってくる
「えへへ」
「おい緑のガキ・・さっきの姉といいお前んとこ髪の・・ブリーチ流行ってんのか?」
「?」
「いや、今はそこじゃねえだろ! ・・おいガキ、てめえ何した? さっきの金色のゲートはなんだあ?」
「ガキじゃない。ラミー」
「あ?」
「ラミー!」
「は?」
「15歳!」
「・・・」
ユウジは言葉に詰まってしまった
そしてある事に気付き青ざめた
「いや、ちょっと待て」
「?」
「お前・・頭から血ィ流していたよな? なんで、なんで治ってんだ!?」
「えっ? 回復魔法?」
「・・・」
ラミーはその場で1回転し
「大っ地の精霊につっぐー。我アスモデーの使者にしってー」
「歌い始めた!?」
「癒しのひっかりーを我にそっそがんー。アースヒーリングフォウルウ」
ラミーは楽しげにその場で歌い始めた
端からみたら無邪気な光景も、ユウジにはひどく不気味なものに見えた
(この家、支配者がいなくても充分ヤベエな。やっぱりだ。早くここから出ないと・・)
ユウジがうつむき、考えているとラミーは急に顔を近づけ言った
「ユウジは詠唱しないで魔法使えるのっ!?」
「どわあ!」
「ご・・ごめん」
「おい、ラミー。ユウジ殿を困らせるな」
「あっ姉さま」
「食事が出来たぞ。すまない、急なもてなしでこれしか・・」
見ればテーブルには豪勢とはいえずとも、それなりの種類の食べ物が並んでいた
「ううっ! あれはチーズ!?」
ユウジが驚くのも無理はない
食品加工が極めて難しいトウキョウにおいてチーズを食べたことなど生まれて数回しかない
しかも全部市民が持っていたのを運よく略奪したに過ぎなかった
「おいおい・・果物ってマジか」
「ユウジ殿?」
ユウジはその場で驚きの余り固まってしまった
恐らくあれはブドウ
支配者がよく口にしているのは見ていたが、ユウジは口にしたことは、なかった
「と、とにかくユウジ殿が喜んでくれているようで嬉しい」
「食べよ食べよ」
「パンにスープに腸詰め・・ソーセージ!? どうなってやがる」
これを食わされたら、俺は殺されるんじゃないか
そう考えつつも目に余る高級食の数々の前には意志の弱いユウジは抗えなかった
「い、頂きます」
「どうぞ」
ユウジは遠慮がちに食事を口にした
特に食卓の真ん中にあったチーズには、何度も何度も断りを入れて念入りに確認を取りつつ口に入れた
(何よりこんな新鮮な水を飲めるなんて! 俺やっぱ死ぬんじゃないか!?)
「す、すごい食欲だね・・」
「フフッ。ユウジ殿、酒とかもイケる口か?」
「ふえっ。酒っ!?」
「ああ、いや。とっておきの酒があってな。特別な日にしか開けないようにしてたんだ。そして今日は特別な日だ」
「と、とんでもねえ! 酒とか飲んだことねえですっ。こんな水だって初めてで・・」
「なんとっ」
ユウジはパンを口に入れながら興奮気味に話した
「その全身の傷といい・・ユウジ殿は余程厳しい修行を積んできたみたいだな」
「へっ?」
「しかしまあ、旨そうに水を飲む。やはりラミーの水は世界一だな」
「あっ」
ラミーは顔を赤らめ手をさすりながら下を向いた
ユウジは意に介せず夢中に食べている
ガタッ!
その時ドアが開いた
(ヤバッ! 支配者かっ!?)
「で・・出ていけ」
ユウジの前には剣を両手で持った見知らぬ赤い髪の女が立っていた
(なんだ。女か。てか震えているじゃねーか)
「今すぐ・・ここから出ていけ」
「こらっシュラ。客人に失礼であろうっ」
「えっ? リリねえ?」
「あ、はい。これ食ったら出ていきまース」
「えっ? ユウジ殿」
なんかよく分からんが助かった
これで都合良く、この家から出れるってもんだ
腹につめるもんはつめれた訳だし願ったりだ
しかしこの家の支配者は何人愛人を囲ってやがるんだ?
ユウジがそう考え急いでパンを食べていると
「こんな上半身裸の汚い男が客なんて。リリねえウソでしょ!?」
「こらっ」
「ユウジさんはねえ。私を助けてくれたんだよ?」
「・・・」
しばらくシュラという女は考えこみ、そして剣を高く掲げこう言った
「リリねえにどう取り入ったのかは知らないけれど!」
「は?」
「私の家族に手出ししたら許さないんだから!」
「・・・」