序章
「っ・・!」
激しい頭痛と共に目が醒める
一体どれくらい寝ていたのだろう
「ハッ! 俺は・・秘孔を突かれて!?」
前後の記憶がどうもハッキリしない
思い出すのは何にも変えがたい恐怖、畏怖。
こういった感情だけだ
そしてぐるっとあたりを見回す
「草・・原!? オアシスか、ここは!?」
男が意識を失う前までいた荒廃した土地とは似ても似つかぬ風景
放射能の匂いさえしていた時とは比べ物にもならない空気
『大自然』と形容できる環境にその男はいた
男。
名前はユウジ
トウキョウ・・と呼ばれていた場所に住んで20年かそこらか
外見はというと上半身裸に肩パッド
髪はオレンジのブリーチをたっぷりつけたモヒカン
これがユウジにとっての普段着である
「クソッ・・まだ頭がガンガンしやがる」
ユウジは激しい頭痛を我慢し、起き上がる
そして現状を考え始めた
ここは間違いなく何らかのオアシス。
しかしユウジがいたトウキョウのオアシスでは・・なさそうだ
明らかに風景や空気が違い過ぎている
まるで核の影響を受けていないかのような・・
「まあ、ともかくだ。 オアシスといえばやることは1つ」
元々考えることが苦手だったユウジは思案をあきらめ食欲のため歩き始めた
食糧の乏しい世紀末において常に渇き、飢えていたユウジにとってオアシスは絶好の標的だった
ユウジと同じような無法者達とともに数え切れないトウキョウのオアシスで弱い者達から略奪、暴虐の限りを尽くしてきた
「とはいえ・・エモノが無え! ナイフの一本でもなけりゃあ一般人相手でも流石にマズイか!?」
仲間内では強くも弱くもなかったユウジであるが
武器が無い、仲間もいないとなると、途端に弱気になる
略奪は出来る状態じゃねえ。
せめて、はぐれの老人か女でもいりゃあ追い剥ぎの1つでも・・
と、思案していると
「おっ」
「おあつらえむきのはぐれのガキじゃねえか」
辺りには子供1人の他にだれもいないのを確認すると
ニヤッと笑いユウジは威勢よく黒いローブをきた子供の前に立ち塞がった
「ヒャッハ! ここは通さねえぜ」
「えっ・・!」
驚きでその場に固まったその子供は既に頭から顔にかけて血を流しており、みたこともないような洋風の黒いローブはボロボロ
おまけに息も切らしている
「なんだぁ!? 既に手負いじゃねえか! あーん」
「・・・」
ユウジは子供を物色し始めた
こんな草原にはぐれでいるんだ
少なくとも食い物、水の1つは持ち歩いているだろ
それに首からさげているグリーンのペンダント
不思議な光を放っていやがる
これは奪って売れる・・!
「へへっ」
ユウジは不気味な笑みを浮かべ何百回も言いなれたお決まりの言葉を口にした
「大人しく食糧と金目もの全部・・」
「・・げて」
「あ?」
「逃げて!」
子供が何か喋った
「い。いや。逃げるのはお前のほうなんだけど」
「早く逃げて!」
バサッ!!!
その時!
子供の後ろにあった茂みから勢いよく獣が飛び出してきた!
「ガルルッ!」
「うおっ! や、野犬!?」
「マズイッ!」
子供はすぐさま姿勢を反転し両の手で印の形を結ぶ
手がほんのりと光はじめ
そしてすぐ様何かを詠唱し始めた
「大地の精霊に告ぐ。我、アスモデーの使者にして大地を使役するもの。願わくば我に力を貸さん・・エル・サミューザ・トリスタン・・」
「最上級地魔法! ガイアフォースクリスタル!」
ゴゴゴッ・・・!
「ガルッ!?」
獣の目の前に岩っぽい何かの壁が突如出現した!
「は?」
状況についていけないユウジは目をまんまるくする
何もないところから壁?
て、手品!?
急にここで手品!?
「今のうちに早く!」
子供はユウジのほうを向き息を切らせながらそう叫んだ
とほぼ同時に鈍い音が鳴った
ドゴッ・・・!
「そん・・な・・」
獣が壁に穴があけた、かと思うと先程あった壁は今までその場になかったかのように静かに消えてしまった
「最上級魔法が足止めにすらならないなんて・・」
子供はへなへな、とその場に座り込んでしまった
相当消耗したようで目を開けているのもやっと、というところだ
「伝説級魔獣フェンリル・・人間なんかが絶対手を出してはいけなかったんだ」
「グルルッ!」
獣は子供によって『攻撃された』と認識し、怒りに任せて飛び掛った
「お父さん・・お母さん・・!」
もう『力』は残っていない
絶対的強者による理不尽な死
遊び心で触れてはならないモノに手を出してしまった
後悔と恐怖の中、死を覚悟し目を閉じたその時
「ヒャッハァ!」
「キャン!」
子供が目を開けると先程の獣が横たわり、男が足蹴にしている
「えっ・・・」
「犬の分際で人様の獲物を横取りとはいい度胸だなあ、あーん?」
「い・・一撃」
ユウジは獣の足蹴に飽きたのか子供のほうに振り返りニヤニヤと話始めた
「野犬の邪魔が入ったが・・話の続きだ。まず、へへっ。水と食い物を残らず寄越せ」
「・・・」
子供は状況を理解出来ていないらしく茫然としている
「き、聞いてるのかっ!」