音楽の女神の祝福
『瑞希ちゃん』
「幸輝さん……!」
その年も明け二月も末の真夜中、幸輝さんから突然、国際電話がかかってきたのだ。
『明日。コンクール本選なんだ』
「ええ……」
『今度こそ。絶対に入賞するから』
それは、力強い言葉だった。
「幸輝さん。幸輝さんなら、大丈夫。瑞希は信じています」
噛みしめるように、呟いた。
『ありがとう』
たった一言ではあったけれどその言葉には、幸輝さんの決意と自信が滲んでいた。
「幸輝さん。必ず、帰ってきて……」
『ああ』
お互いそれ以上の言葉はなかった。
ただ、お互いに結果を信じていた。
必ず。
必ず、幸輝さんはコンクールを制覇する。
確信に似た強い想いで、私はただ祈った。
そして────── ・・・
成田国際空港。
ゲートで私は、ラベンダー色のシフォンのワンピース姿で、胸元まで伸びた髪を春風に靡かせながら待っている。
ルフトハンザ航空の正午丁度に到着する便を待っているのだ。
「お! 到着したぞ!」
にわかに、周りが騒がしくなった。
私は、人並みに押されて、前が良く見えない。
しかし、サングラスを掛けているが、確かに幸輝さんが姿を現したのだ。
「宮田さん、「エリザベート国際音楽コンクール」優勝おめでとうございます!」
「帰国して今のお気持ちは?」
幾人かの報道陣が幸輝さんを囲み、私は近づくことが出来ない。
しかし。
幸輝さんは、彼らには見向きもしなかった。
そして、まっすぐに私の方へと歩み寄ってきた。
「ただいま。瑞希」
「……お帰りなさい。幸輝さん」
私達はしっかりと抱き締め合い、お互いを求め、優しく口づけた。
音楽の女神が私達に確かに微笑んだ。
了
本作は、梅田彩さま(退会済み)から大まかな原案を頂き2018年2月に投稿したものを、一部改稿したものです。