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5、妬

入籍してから、1ヶ月が過ぎた。

もうすぐ8月も終わりだ。


綾乃は、ずっと夏期講習があり、土曜日も休み返上でかかりきりだった。

それも今日で漸く終了し、明日から5日間連休をとった。

それは、スゲェ嬉しい。


俺も結婚をしてからこの1ヶ月の間、レコーディングと、都内で6日間ライブがあって本番当日だけではなく、リハーサルもあり、多忙だった。

しかも、来月早々にNYで3日間ライブが入った。

俺は、日本でよりも海外での方が客の入りはいいらしく、演奏会場は結構デカいホールだ。

まあ、だからそれなりに待遇もいいんだが。

リハーサルと時間的余裕を考えて、1週間留守にしないとなんねぇ。

本当は断ろうと思ったのだが、俺が所属する事務所の方がどうしても行けと言いやがる。

それでも渋ると、とりあえず俺の家に今から行くから話をしようと言われ。

綾乃を見せたくないがため、仕方なくついさっき承諾をした。

一応入籍した事は事務所には報告してあるが、まだ綾乃を紹介してねぇ。

何故なら、事務所のスタッフに1人、綾乃がタイプだと言いだしそうなやつがいて。

絶対にそいつに会わせたくねぇ。


そいつというのは、シュウの兄貴だ。

いわば、昔から目の上のたんこぶ的存在だった。

しかも、何気に俺と好みがカブる。

それは女に関してと言うだけではなくて。

音楽とか、服とか、車とか、酒とか、食いもんとか・・・いいな、と思うと大抵あいつもそう思っている。

まさかとは思うが、念のため綾乃には会わせたくねぇ。


・・・とりあえず、オファーは受けたが。

ハッキリ言って、新婚ほやほやの状態で、綾乃と離れたくないのが本音だ。

綾乃なしで、 1週間耐えられるか、自信がまったくねぇ。

だけど、1週間NY行きがさっき決まったと綾乃に告げるとあっさり。


「頑張って下さい。」


と、言われた。


その、あまりにものあっさりぶりが、カチンときて。


「何でそんなあっさりしてんだよっ!俺がいなくても平気なのかよっ!?」


と、綾乃にくってかかった。

ホント、ダセェと思いながらも、俺に対してあっさりしている綾乃に腹が立つ!

何で、嫁さんにしたのに、まだ全然たりねぇんだ!?

とにかく、綾乃にさびしいってちっとはゴネるくらいはしてほしいし!

すると漸く、綾乃が本音を漏らした。


「大丈夫なわけないじゃないですか。1週間も、なんて凄く不安ですよ。」


ため息をつきながら弱々しい声を出した綾乃に、やっと満足した。


まあ?

そうだよな。

綾乃だって俺の事が好きだから、結婚したんだもんな。


ふと、ベッドの中での綾乃の甘えぶりを思い出しニヤける、俺。

やっと、気持ちに余裕が出来て綾乃の腕を引き、ぴったりと隙間なくソファーに座った。

肩を抱き寄せる。


「大丈夫だ。お前以外の女に興味ねぇから、安心しろ、な?」


やっぱ、妻の不安を取り除くのは夫のつとめだよな?

そう、思いながら安心させる言葉と、背中を撫で安心させる態度を示した

だけど。


「女?・・・・興味?」


綾乃がキョトン、とした。


え・・・。


「・・・・・。」


今度は俺が不安になって、無言になる。

何が不安かというと。

綾乃の不安が、この様子じゃ、浮気の心配ではないだろうということだ。


つまり。

今までのパターンで。

俺の予想外の、不安を抱えているということだ。


「あの・・・丈治の言っている安心が、よくわからないのですが・・・それより、この辺にコインランドリーってありますか?」


「はっ!?」


ほらな、俺の想定内をはるかに超えた質問だ。

俺は、寛大な心で、綾乃の不安を聞いてみた。



はあ。

そういうことか、と。

妙に納得する自分と。

ソコ、かよっ!?って突っ込みたくなる自分・・・。



要するに。

綾乃の一番の心配事は。

結婚する際に買った、最新式の洗濯機の使い方がわからねぇんだと。

1週間洗濯をどうしようかと真剣に考えていたらしい。

ダメ元で取説を見せたが、あからさまに嫌な顔をした。

絶対に、読むのが面倒くせぇって思ってるだろ。

仕方がないから、簡単操作だけ教えようと思ったが・・・壊しそうな予感がして、断念した。


俺は大きくため息をつくと、下着だけ手洗いしろとこの場合一番無難な方法を口にした。

そして、後は帰ってから俺がやると言ったら、あの顔をした。


あの顔とは。

俺が引っ越しを代わりにやってやると言った時に、俺に向けた表情だ。


はあ。

何だか空しくなってきた・・・。

俺って一体何なんだよっ。


ダメだっ。

こうやって考えていると、またイライラして綾乃にあたっちまう。


俺は、昔遊びの女から口調がキツイと言われた事をふと思い出し、そう言えばキツイ口調で綾乃を泣かしかけた事があったと気づきへこむ。


ダメだっ。

気分転換しよう!

俺はテーブルの上のリモコンをとり、テレビをつけた。


バラエティ対談番組の『ムッシュー居酒屋』がやっていた。

司会のムッシュー山田は、人気のあるお笑い芸人だ。

この番組長寿番組ですげぇ人気あるんだよな。

まあ、これ見てちょっと和むか・・・。


綾乃も黙って、テレビを見ていたが。



「!!!」


っつうか。

っつうかっ!!

何だ、こいつ・・・・。


急に、コテン、と。

俺の膝にっ。

頭、のせてきやがったっ!!


これって。

これって。

これってっ、甘えてんだよなぁっ!?

う、う、う・・・・。

嬉しいじゃあねぇかっっ!!!


綾乃の髪を震える手で撫でる。


「あ・・・私、楽なのですが。丈治、重くて、嫌ですか?」


やめろっ、そんなに下から可愛く俺を見上げんじゃねぇっ!

俺は嬉しくて首を横に振る。

まあ、ちっと。

「楽」って言葉が気になるけど、そこはあえてスルーだっ。


俺の反応にホッとした様子で、綾乃はテレビに向き直った。

丁度、番組はゲストを迎える前に一旦CMに入った。

柔軟剤のCMが流れ出した。

すると、また。

綾乃が下から俺を見上げた。


う・・・・。

か、可愛い・・・。

そ、そんな目で見たら、襲うぞっ!

いや、綾乃は今日疲れてんだからっ、風呂入ってゆっくりしてからじゃねぇと、可哀想だしなッ。


つうか、今ヤったら。

絶対に、こいつ寝ちまって、朝まで起きねぇだろうし。

まだ、飯食ったばかりの7時半だしっ。

そんな葛藤をしていたら。


「丈治、お願いがあります。」


そんな殺し文句を言って来やがった。

って、この状態でそのお願い断ることできねぇだろうがっ。


「な、何だよっ?」


「きれい好きの丈治に・・・こんなことをお願いするのは申し訳ないんですけど―――」


綾乃のお願いを聞いて、俺はもう我慢できなくなった。

我慢できなくて、腰をかがめて、綾乃の唇を奪った。


綾乃のお願いは・・・1週間俺がいないのはさびしいから、俺のパジャマを着て寝たい。

だけど、洗濯したら柔軟剤の匂いで俺の匂いが消えるだろうから。

今日から、同じパジャマを着て、出張に行くまで洗濯しないで欲しい、と!!!


そんなのお安い御用だっ。

ま、まあ。

6日も洗濯しねぇのはあり得ねぇけど、この場合、大歓迎だっ。

何だよ、綾乃も俺がいないのはさびしいんじゃねぇか。


ま、まあ?

あたりまえだけどなっ。

俺は、綾乃の最愛の男だしっ。


しかたねぇ、このままベッドにいくか。

お互い気持も盛り上がってきたしな・・・舌を絡ませながらそんな事を思っていたら。


突然、綾乃が唇を外した。


え?


そして、あり得ねぇ事を言いやがった。


「あっ。瀬野将!私、大ファンなんですっ。昔からっ。」


え。


CMが終わって、ゲスト紹介になっていた。

今日のゲストは、人気俳優の瀬野将だった。

『抱かれたい男NO.1』を連続でとって、殿堂入りになったイケメン俳優だ。

今年の正月に結婚をして、春に披露宴をやった。

クソジジイが披露宴に出るから、俺は出なかった。


「・・・そんなに好きなのかよ?」


「はい、子供のころから好きで。サンタさんへのプレゼントのお願いの手紙に、『瀬野将君に会わせて下さい!』って書いて出した事もあるんです。」


嬉しそうに下からほほ笑む綾乃の顔は滅茶苦茶可愛いけど。

俺の甘い気持ちはもう・・・萎んでいた。


確かに、綾乃・・・シュッ、としたイケメン好きだよな。

俺とは違うタイプの・・・スマートなイケメン。


いつか、シュウに見とれていた事を思い出す。

ギリリ、と奥場を噛みしめた。


そして、決心した。

絶対に。

絶対に。

言わねぇ!

俺の所属する事務所が。


瀬野将と、同じ事務所だってことを!!



そう、誓いを立てた時、携帯が鳴った。

綾乃が気を利かせて頭を浮かす。

ちょっとまってろ、と言って携帯を手にし、キッチンの方へ行く。

綾乃が瀬野将の会話に釘付けだからだ。


着信欄を見て。

ため息が出た。

キッチンから寝室へ向かう。

そして、寝室へ入るや否や。


「あ、何だよっ。ケイタッ!」


喧嘩口調で、話し出す。

相手は、木村啓太。

シュウの兄貴で、俺が所属する事務所のスタッフ。


で、あいつの仕事は、俺のスケジュール管理もするが。

メインは。

瀬野将のマネージャーだ。


絶対に、綾乃には言わねぇ!!


あ。


シュウにも、口止めしとかねぇとな・・・・。


綾乃・・・あんま、俺を。

妬かせんな――






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