表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/49

45、揃

『みのり』を臨時休業にして、商店街の店主らを一気に集めた。



俺と綾乃が住んでいるマンションの隣は、カフェだが。

その反対側の隣には、『ロイヤル』っつうパチンコ屋と、その裏には『ゴールデンキャッスル』っつう、城の形をしたラブホがある。

両方とも40年以上建っている年代もんだが、補修はきちんとしているせいかまあまあはやっている。

ここら辺はかなり環境が悪ぃから、需要もあるんだが。


その両方を経営しているのが、金平っつうジイサンで。

見た目、背はそんなに高くはねぇがゴッつい体躯に、スキンヘッド、体毛が薄いのか眉毛はなく、すげぇ細い目に四角い顔、前歯は金歯。

見るからにヤバめのジイサンだけども。

これがまた陽気で、話の分かるスケベで。

ここいらの男どもは勿論、俺やヤスオ、ケータ、シュウはかなり世話になった。

ガキの頃から、よくタダでパチンコを打たせてくれた。

万引きとかカツアゲするより、ずっと健康的だとか言って



中坊の思春期真っ盛りの時は、内緒だぞ?と言いながら、俺らを新宿のストリップへ連れて行ってくれたり。

いや、俺らはまだガキでどうリアクションとっていいかわかんなくて固まっていたのによ、結局ジイサンが一番楽しんでやがった。

まあ、それだけじゃなく。

俺らの環境の悪さも理解していて。

表立ってではなかったが、細かい気遣いをよくしてくれた。



初めて――

俺が酔いつぶれた母ちゃんを飲み屋に引き取りに行った帰り。

俺を不憫に思って、家まで母ちゃんを運んでやると、商店街のオッサンどもが口を出してきやがった。

だけど、母ちゃんがこうなった元々の原因は、クソジジイなわけで。

で、商店街のオッサンどもは、皆クソジジイに頭があがんねぇ。

小学生のガキの俺には、酔った母ちゃんは死ぬほど重くて何もかも放り出して帰りたいほどだったが。

だけど、負けるわけにはいかねぇし。

何に負けるのかなんて、上手く説明なんて出来ねぇけど。

絶対に、負けたくなかった。

だから、頑なに救いの手を拒んだ。


「俺1人で大丈夫だっ。余計なことすんじゃねぇっ。」


そう怒鳴った俺に。


「丈治、小学生のガキで酔った女の介抱できんの、お前ぐらいじゃねぇか?やるじゃねぇか。あ?お前、いい男になるぞ。今から楽しみだなー。」


惚けた口調で、だけどそれは。

何となく、ガキの俺の意地っつうもんを守ってくれた。


「あー、だけどよっ、その、抱え方がちょっといけねぇなぁ?こうだ・・・ああ、おしい・・・

おしいなぁ・・・・・よし、ちょっと、かせ・・・あ?・・・・お前、見てんじゃねぇよっ、そっちちゃんと抱えてろっ。お前、将来モッテモテになりたくねェのかッ!?・・・ボインのねぇちゃんとウハウハだぞっ!?」


てな感じで、気が付いたら家に着いていた。

結局、金平のジイサンに運んでもらったわけだ。

だけど、何故か。

負けた気にはならなかった――




「金平のじいさんっ、倒れたって!?・・・大丈夫なのかっ!?」


そして、血相を変えて『みのり』に飛び込んできたのは、ケータ。


その後に息を切らせながら店の入り口に立ったのは、秋にケータがLAから戻ってきたら結婚をすることになった、ケータの女・・・日向野椿・・・大学を今月卒業して俺の所属する船津プロに勤める事になった、ドン癖ぇけど、あの志摩アイナを手なづけた強者だ。


日向野は、取り乱すケータにそっと寄り添い、手を握った。

ケータも、多分金平のジイサンにはきっと・・・あの惚けた口調で、助けられたこともあったに違いねぇ。

取り乱すケータの顔を見ただけで、どんだけ金平のジイサンがケータにとっちゃ大事なのかがわかる。


「丁度、大畑のバアサンが来てたんだ。金やんとここで久し振りに飲む約束をしていたらしい。だから、急に金やんが倒れた時にバアサンがいたからすぐに救急車の手配と、早い処置をしてくれたから・・・脳梗塞だったらしいが、初期だし、後遺症もねぇって。退院も、3日くらいで出来るらしい。」


大畑のバアサンっつうのは、医者で・・・っつても、スゲェ偉い大先生らしいんだけど、ガキの頃から俺が具合が悪くなると、ぶっとい注射打ちに来たり・・・ああ、そうだ、母ちゃんの最期を看取ってくれたのもこのバアサンだったな・・・まあ、俺らにとっちゃただの口の悪ぃ、飲んべの医者、って感じなんだけど。


「はああぁ、ったく。金平のジイサン・・・心配させんなよぉー。」


クソジジイから金平のジイサンの様子を聞いて、ケータは靴を脱ぐと座敷に上がり、どさりと大の字になって、ため息とともに叫んだ。

そんなケータを優しく見つめ、ケータの脱いだ靴を綺麗にそろえて置き直した日向野。

それも、この一連の動作をさりげなくするってことは、やっぱ日向野、志摩アイナが気に入るのもわかるような気がした。


まあ、綾乃はこういうことは、絶対に。

しねぇけど?

つうか、靴をそろえるのは、俺だし(笑)




金平のジイサンが大事に至らなかったっつうことで、俺も安心し、頭ん中でそんなのんきな事を考えていた。

だけど。


「でも、金平さん・・・退院されたら、やはり安静が必要なのではないですか?」


綾乃が静かな声で、クソジジイに尋ねた。


え、そうなのか?


他のやつらも俺と同じ様に思ったらしく、綾乃の質問にきょとんとした。

でも、クソジジイだけは、眉を寄せ俯いた。

そして、決心したように顔を上げると、口を開いた。


「今日、皆に揃ってもらったのは、金やんからの頼みを・・・皆と相談しようと思ってな。」






『みのり』は、一気に重苦しい空気に包まれた。


「私が買います!」


そう言って、突然綾乃が立ち上がった。

皆、一瞬綾乃が何を言っているのかわからなくて、ただ綾乃を見た。


「綾乃、何いって―――「だから、金平さんのパチンコ屋さんと・・・・ラ、ラブ・・ホテル・・・を私が買い取ります。」


ようやく綾乃の言わんとすることが理解できたが、今度は皆が慌てた。


「ちょ、ちょっと待てっ。綾乃ちゃん、金やんの店・・・買い取って、綾乃ちゃんがパチンコ屋やったり、ラブホ経営していく気なのか?」


クソジジイが綾乃を問いただす。

当たり前だ、ラブホテルっつう名称さえ、言い淀む綾乃がラブホなんかやっていけるわけねぇだろうが。


「そ、そいうことじゃなくて・・・私は経営できませんけどっ・・・建物は・・・残したいのですっ。」



金平のジイサンは80を超えていて。

若い頃に結婚をしていたらしいが、今は家族もいねぇし。

今回病気になったのを機に、商売をやめると言い出したそうだ。

で、クソジジイにパチンコ屋とラブホを売りに出したいと、相談してきたらしい。

クソジジイは、商店街のやつらを集め、商店街のど真ん中のその跡地をどういう風にするかという相談を始めた。

クソジジイとしては、ただ金平のジイサンの店の土地を売って金に換えたらいいとは考えていなくて。

いや、金平のジイサンの店の跡地がどうなるかで、ここの商店街の雰囲気はがらりとかわるからだ。


「・・・綾乃ちゃん、金の問題じゃねぇんだ。パチンコ屋とラブホの後を、この街のためになるように使ってほしいって、金やんにたのまれたんだよ。」


クソジイの言葉に、綾乃は困ったように黙り込んだ。

皆も、黙り込んだ。


「あの・・・・。部外者なんですけど、ちょっとよろしいですか?」


「ああ、ケータの・・・いいぞ、何かあるなら言ってくれ。それに、あんたの事を部外者だとは思ってねぇ。」


突然日向野が控え目に話しを切り出した。

クソジジイがそれに頷く。


「あの・・・・ここでそういうお話をするということは、ここの土地の方だけで解決したい・・・他から資本を入れたくないということですか?」


日向野の言葉にクソジジイが驚いたように頷いた。


「そうだ・・・言い方はよくねぇが、よそもんは入れたくない。これは・・・俺のエゴかもしれねぇが・・・昔・・・色々あってな・・・。」


「浜パパッ。私だって、今の商店街が大好きです。だから・・・。」


綾乃がやけにあの土地にこだわるのが、少し不思議な気がした。

まあ、金平のジイサンと綾乃はいつの間にか仲良くなって、マンションの隣のカフェで会うと、よく一緒に飯を食ったりしていたそうだが。


「丈治、お前んとこのマンション、最近引っ越す奴が増えたって、言ってたよなぁ?」


綾乃に気をとられていたら、魚富士の亭主が口を開いた。


「おう、俺んとこも補修はしてっけど、古いからなー、この間下の階で配管が壊れて水が出たらしいんだよ。まあ、それまでにも結構ガタがきてエレベーターが止まったりとかあったしな。今12戸中、入ってるの5軒くれぇか?」


もともと俺の住んでいるマンションは、クソジジイの持ち物で。

俺が住んでいる部屋は、母ちゃんが俺を産むことになったときから、クソジジイが用意した部屋だ。

話をクソジジイに振った。


「おう、5軒だ。」


ジジイが答えると、魚富士は決めた、と言った。


「あ?」


「じゃあ、浜田さん。丈治が住んでいるマンションぶっ壊して、パチンコ屋とラブホの方にマンション建てて下さい。」


「あっ!?」


「うちもガキ2人でかくなったし、綾乃ちゃんがこっちに住んでからはよくうちにあそびにきてくれるし。手狭なんで・・・今の家は店だけにして、マンションに住みますから。で、丈治たちも住むだろ?で、金やんだって住むだろうし・・・そのうちノリオもヤスオも所帯持つだろうし・・・ついでにマンションに集会所つくってくれたら、皆あつまりやすいし・・・。

ああ、カフェでやっている丈治のライブとか・・・今のマンションの跡地に作ればカフェとくっついていて飲み食いとか楽だろう?ガキとか集めて、よくやってる・・・ダンスみたいなのも、いつもカフェに入りきらねぇけど、そういうのやったらいいんじゃねぇですか?

うちの店だって、どうせ午前中でおわるから、カーちゃんとノリオとかがいりゃぁ、ガキそこで預かってやって、若ぇ母親たちが商店街の中でゆっくり買い物できたり、美容院いったり、ああ・・・たしか『サロン・ド・ふたば』のばばあんとこの娘が出戻りで店の2階でネイルサロン開いてんだよな?そういうのとか・・・友達と茶飲んだりってできるんじゃねぇかと…商店街の中で買物するなら子供預かるっていうサービスつくりゃぁ、商店街に人が集まるんじゃねぇかって思うんですけど?」


普段はしゃべらねぇ魚富士の亭主の意見は、驚くほど的を得ていて、商店街の店主たちの全員賛成をとった。


「じゃあ、決まりだな?金は俺が出すからよ、心配すんな。」


クソジジイが、上機嫌でそういうと、皆嬉しそうな顔をした。

だけど。


「私、今の部屋から立ちのきませんよ?」


突然、思ってもいない綾乃の反対意見が出た。

驚いて皆綾乃を見た。


「綾乃ちゃん?」


クソジジイが困った顔をした。

だけど、それに対し綾乃は笑顔で。


「条件が揃えば、私、引っ越しますけど?」


「条件?」


「1つは丈治のライブハウス兼子供のスペースは私がお金を出しますので、オーナーは私にやらせて下さい。そしてもう1つ。新しく建てるマンションの私達の隣の部屋には、浜パパが住んで下さい。それが条件です。その条件が揃わなければ、私は引っ越しません。」


コイツ・・・。

確信犯じゃねぇかっ。


俺とクソジジイが固まる中。


魚富士の亭主が、笑いながらつぶやいた。



「よし。条件は、揃ったな。」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ