44、由
2泊3日で行く予定だった、韓国のライブも前日の夜に入国してそのままリハをし、翌日ライブをしてくるという、1泊2日のタイトなスケジュールに強引に変更した。
まあ、原因は綾乃と離れる時間を少しでもなくしたいというシンプルなものだが。
だけどせっかく帰国したのに、空港から直接事務所に連れてこられて、家に帰れず俺はイライラしていた。
「お前っ、いい加減にしろよっ!?お前の我儘で、どれだけの人間が迷惑を被ってるかわかってんのかっ!?」
ケッ。
女1人口説くのにも、女からチョコを待ってなんていうダセぇことやっている腰ぬけに、こんな説教なんてされたくもねぇんだけど?
どうせ、ビビってまだ、ヤッてねーんじゃねぇか?
散々遊んできやがったくせに、ダセェな、オイ。
だけど、社長と、船津五郎が目の前にいっから、あんま身も蓋もねぇことはいえねえし。
だから。
「ああっ、うるせぇよっ。はっきり言ってなぁ?費用随分浮いたろうがっ。人件費だって3日分が2日分で済んだんだよっ。ホテル代だって1日浮いたし!?渡航費だってなぁ、ビジネスあいてなくてエコノミーにしたから、お前の高給分くれぇでたろうがっ。」
俺がそう言うと、ケータのアホもさすがに黙った。
ふん、文句ねぇだろ。
と、思ったが。
「紺野君。」
船津五郎が静かな声で俺を呼んだ。
げ、この、パターン・・・。
あんま、よくねぇって、パターンか?
「君が、スケジュールを詰めたって、決して手抜きはしない事はわかっているし、経費を削減してくれた事はとてもいいことだと思う。だけど、今回の事で1つだけ、私は君に注意をしたい。」
やっぱな・・・。
静かな声で話すその作り笑顔が怖ぇよ・・・。
正月の綾乃の黒焦げ炭化ウインナーより怖えぇ。
いやいや、あれも相当だったな・・・。
なんて、あのフライパンのテフロン加工までダメにした炭化ウインナーを思い出していたら。
不意に、あの時の泣きそうな綾乃の顔が浮かんできて・・・。
あれは、すげぇ、キタ。
あの顔を思い出すだけで、おかずとして、3回分はイけるし?
いやいや、おかずにすんなら、もっといい顔あったよなぁ・・・。
あれだ。
丈治の全てが好きですぅーっつって、俺の腕にスリスリする綾乃の上目使いか?
いや、まてよ。
それより、あーーーーー、そうだっ。
テレビを見る時っ、コテン、と俺の膝に頭乗せてきてッ、下から見上げる顔とか?
あー、だったら、モロやってる時の顔の方が、ダイレクトか?
いや、それじゃぁ芸がねぇか?
それより・・・「紺野君・・・紺野君!!聞いているのかね!?」
気がつくと船津五郎が俺を覗きこんでいた。
とりあえず、ハイ、と返事をした。
だけど。
「嘘、こけっ!お前。綾乃ちゃんのこと思い出していたろっ。」
バレてたか・・・。
あまりにもケータがうぜぇから舌打ちをすると、頭を叩かれた。
「何すんだよっ。」
そう言ってケータの頭をはたき返した。
そして、ケータが俺の足にケリを入れ、俺がケータのケツにケリを・・・。
気がつけば、軽く乱闘になりかけていた。
「いい加減にしろっ!!」
突然。
すげぇ、デケェ声で船津五郎が怒鳴った。
腹の底から出るような、あたりに響く声に、俺もケータも動きが止まった。
そして、社長から何故か俺は携帯を渡され。
え、出ろ、ってことか?
仕方がないので。
「もしもし?」
電話に出ると。
『丈治っ、何をしているんですかっ!?』
って、突然、俺の大好きな可愛い声が・・・。
「うおっ、あ、綾乃っ!?」
『今、船津社長からお電話を頂いて、丈治本当はもう1日前に韓国入りする予定だったんですって?それに、帰りの時間も勝手に早めて――「それは、早くお前に会いたいからに決まってんだろうがっ。お前と離れていたくねぇんだよっ。悪いかっ!?」
って、ダサ男のくせに、俺の言葉聞いて噴き出してんじゃねぇよっ、ケータの糞野郎!!
『・・・気持ちは、私も同じです・・・でも、社長から伺ったんですけど、ビジネスが空いてなくてエコノミーで帰ってきたそうですね?何でそんな事をしたのですかっ。それについては社長も、注意されるっておっしゃっていましたが・・・。』
「あ?エコノミーだってかまわねぇだろうがっ。」
何だ、そんなことを注意するつもりだったのか?
だけど、船津五郎が話しに割り込んできた。
「いや、君は分かっていないね。君はあまり自覚がないようだが、世界的に有名になっているんだ。コンサートやライブの興行の数や、CDの売り上げをみたって、わかるだろう?自分がそのつもりでなくても、トラブルに巻き込まれたりしないともかぎらない。だから、なるべくそういう機会を作らないように気をつけなくてはならない。これは職業上、割り切ってもらわないといけないことだ。わかるかい?」
まあ、言わんとするこたぁ分かるけどよ・・・だけど。
「俺だって、そこら辺は気をつけてる。」
なるべく外では、大人しくしているし。
「いや、実際手が早いだろうが?」
ケータが俺の頭を小突く。
「ああっ、さっきだってお前の方からしかけたんだろうがよっ。」
「あれは・・・お前が簡単に挑発に乗るか・・・調べたんだっ。」
それ、絶対に、こじつけだろ?
でも、俺はニヤリと笑って言ってやった。
「ああ、確かに?俺は手が早ぇかもなぁ。一目ぼれした綾乃に、速攻でその日のうちにモノにしたもんなぁ?」
俺がちょっと自慢を交えてそう言うと、ケータは一瞬悔しそうな顔をしやがった。
って、やっぱ、まだヤッてねぇのかよ。
ダセェ。
・・・って、ちょっと優越感に浸っていたら。
『丈治っ!何を恥ずかしい事言っているんですかっ!?』
「ああっ、俺とお前の愛し合った歴史だろうがっ。恥ずかしいことなんてねぇだろうっ。」
『・・・・・・。』
「綾乃?」
『・・・はぁ・・・とにかく、エコノミーは止めて下さい。』
「大丈夫だってばよ。俺だってバカじゃねぇよ。心配すんな。」
『・・・心配します。だって、エコノミー席って、くっついているじゃないですか。』
「あ?」
『・・・丈治の隣に、綺麗な女の人が座ったら、嫌です。』
「!!!」
って、それって、それって・・・。
やきもちかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
ヤバい、ヤバいじゃねぇかっ。
『丈治?約束して下さい、もうエコノミー席は・・・特に私と一緒でない時は、使わないって・・・。』
「ああっ、わかった!!エコノミーはもう座らねぇっ。」
俺の発言に、船津社長も船津五郎もギョッとしていたが。
ケータだけ、こめかみを押さえていた。
『それから・・・。』
「何だ?まだあんのか?」
『木村さんから伺ったのですが・・・実は私、毎年東洋テレビの夏のチャリティ番組はテレビが映らなかった3年間以外はずっと観ているのです。』
そういや、今年も何だか観ていたよな?
って、募金もしてたよな?
「・・・・もしかして、オファーの話、聞いたのか?」
『ええ。あの番組に丈治が大きく関わることなんて・・・私、丈治を尊敬します。』
まだ、オファー受けてねぇけど?
つうか、面倒で断るつもりだったんだけどよ。
そ、尊敬か・・・。
『それから・・・。』
「ま、まだあんのかっ!?」
『早く・・・会いたいです。直ぐに、帰ってきて下さい。』
キタ。
これは、キタッ。
俺は携帯を速攻切り、社長達に帰りますっ、と言って荷物を手にした。
「こ、紺野君っ!?」
ああっ、面倒くせぇっ。
これ以上足止めくっちゃたまんねぇから、俺は自分から宣言した。
「東洋テレビの、チャリティ、俺やるんで。どうするか、そっちで適当に決めてもらっていいですから。もう、いいでしょう?今日はっ、早く帰らせて下さいっ。」
そう言って、もうこれ以上難癖つけられないように、俺は足早に事務所を飛び出た。
綾乃―――――――――
待ってろ、今帰るぞっーーーーーーーーーーー!!!!
俺がいなくなった事務所で、全員がしてやったりとほくそ笑んでいたことは、知る由もねぇ。




