42、希
関東の小学校の入学試験の時期が、私の認識不足で実際と異なっています。申し訳ありませんが、ストーリーの展開上、時期を修正できません。ご理解のほどよろしくお願いいたしますm(__)m
正月が終わり、神戸から帰ってきて、あっという間に2月になった。
綾乃の方も全ての受験が終わり、結果が出たようだ。
まあ、綾乃の笑顔を見れば、結果は良かったのだろう。
自宅に帰ってきてまで鳴るスマホの会話の様子で、綾乃の言葉も表情もはずんでいる。
綾乃の普段の頑張りをみているから当然の結果とは思うかたわら、素直に人事ながら良かったと安堵する俺もやっぱ、随分綾乃に感化されたのだろう。
リトミックも結局今年度は3回やったし、ガキどもとも顔見知りになったから、人事と思えないところもあるしな。
何はともあれ、めでたいことだ。
そして、2月・・・俺は今までこんなに2月を楽しみに待ちわびた事は、かつてなかった。
何を待ちわびているかというと。
まあ、つまり・・・2月14日のイベントだ。
いい年して、ケータに乙女かよ、と突っ込まれそうで言えねぇが。
乙女だっていい。
今年は・・・滅茶苦茶楽しみだっ。
綾乃はどんなチョコを俺に選んでくれるんだろうか?
綾乃のことだから、手作りなんてことはハナっから期待しちゃいねぇ。
だけどよ・・・まあ?
俺達にとっちゃ、初めてのバレンタインだし?
そら、嫌でも盛り上がるってもんだろ?
だから去年から、俺はグランドヒロセ銀座のフレンチと、スイートルームを予約していて。
もう・・・滅茶苦茶楽しみだっ!
って、綾乃もそうだろ?
俺が1週間前からテンションが高いのを不思議そうな顔で見ているのは、綾乃なりの演出だよなっ!?
まったく、いつからそんなとぼけるのが上手くなったんだよ!?
こいつめ・・・。
本当に、綾乃は小悪魔だよ。
チョコレートもきっと用意してあるんだろうけど、完璧に隠しきってやがるし。
ふっ。
明後日が、たのしみだぁぁぁっ!!!
だけど、夜かかってきた社長からの電話で、俺はキレそうになった。
つうか、キレた。
「あ?悪ぃけど、無理です・・・・・つうか、そんな事情知らねぇしっ。こっちにだって事情っつうもんがあるんでっ。」
電話をブチ切った。
あ・・・。
あまりの勢いに、今電話が、バキッ・・・とイったよな?
げ、液晶画面割れてんじゃねぇかっ・・・・。
まずいっ、使えるか?
慌てて、もうすぐ帰ってくるであろう綾乃の番号を発信履歴から選ぼうとするが・・・映んねぇし・・・直接番号いれようと思っても・・・電話が音がしねぇ・・・つうか、電源が入らねぇ・・・・。
はあ・・・やっちまった。
仕方がねぇから、家電から綾乃にかける。
話し中だ・・・。
俺はがっくり項垂れた。
「丈治っ!?何かありましたか?駅に着いたので電話したのですが、丈治の携帯、電源が入っていないってアナウンスが・・・・・・あら。」
帰ってくるなり慌てた顔で質問してくる綾乃に、割れた携帯を見せた。
「社長がとんでもねぇ、明後日知り合いのレストランでピアノ弾けって無茶言いやがるから、キレて電話切ったらこうなった・・・。明日午前中に携帯買ってくるから、悪ぃな?」
俺の割れた携帯を手に取り、驚きながらまじまじと見る綾乃の髪にキスを落としながらそう言った。
「いきなり明後日なんて言われるのは、よほどのことなのではないですか?」
綾乃が可愛い顔で俺見上げる。
「ああ、出演予定のジャズ歌手がインフルエンザにかかったんだと。」
「ええっ、大変じゃないですかっ。困っていらっしゃるのではないですか?」
そら、困るわな。
バレンタインのレストランライブでチケットはもう売れているだろうし。
客も楽しみにしているはずだ。
だけど、バレンタインだぞ?
俺だって俺のバレンタインを楽しみにしてるんだぞ?
だけど、やっぱ、綾乃で。
「私、丈治のピアノが聞きたいですぅ・・・でも、こんな突然では、難しいのですか?」
「あ?明後日だから、愛の曲でも弾いときゃ、かまわねぇだろ?・・・つうか、お前聞きたいのか?」
綾乃は俺のピアノ好きだからな・・・。
だけど、バレンタインだぞ?
「えっ、愛の曲?・・・・丈治・・・それ、全部。私の為に弾いてほしいです。」
「・・・・・・。」
赤い顔で、そんな風に可愛い事お願いされちゃ、了解するしかねぇよなぁ?
ま、まあ、レストランだし?
綾乃に飯食わせて、綾乃の前で愛の曲を弾くってのも・・・悪くねぇか・・・。
いや、案外、夜盛り上がるか!?
よし!!
俺は家電から事務所に電話を入れた
「綾乃。」
晩飯に作ったビーフシチューの鍋を覗き込む綾乃を後ろから抱き締めた。
「すごくおいしそうですぅ。」
もう、夜も8時近い。
腹が減っているんだろう。
だけど。
「おい、お前がお願いすっから、明後日引き受けたぞ?だから・・・明後日は、期待してるぞ?」
「はい。丁度よかったです。今年度の受験も終わりましたし。明後日は昼間本社で取締役会があって、本年度の報告をして、懇親会にでたら、1週間の休暇になりますから。そのまま東京に泊っても構いませんし。丈治と久しぶりにゆっくりできますぅ。」
な、何だよっ。
綾乃もその気だったんじゃねぇかっ。
それなら、話は早ぇな。
俺は口元が緩むのをこらえながら。
「実は、あさってグランドヒロセ銀座のレストランと部屋とってあったんだが・・・レストランはキャンセルだけど、部屋はそのまま使えるな・・・・。」
そう言うと、綾乃は感心した顔で。
「丈治、すごいですね・・・とても段取りがいいです。」
「おう、俺はお前との時間が何よりも大事だからな・・・・。明後日楽しみにしてるぞ?とりあえず、飯の前に、明後日の前払いしてもらうかな・・・。」
そう言うと俺は綾乃を抱き上げた。
綾乃は突然の事で、驚いた声を出したが、すぐに。
「はい、私もすごく楽しみですぅ。」
そう言って、俺の頬に自分の頬をすりよせた。
なのに。
これは、何だよ!?
俺は目の前に出された、ロー○ンのレジ袋を見つめた。
確かお前、「はい、私もすごく楽しみですぅ」って、言っていたよな?
ライブが終わり、グランドヒロセ銀座にチェックインして。
綾乃の好きな白ワインで乾杯して、綾乃のチョコレートを食おうかと思っていたのによ。
何で、バレンタインギフトにコンビニのレジ袋なんだ?
いや、持ちやすいからという理由で、もしかしたら中はちゃんと包装されているのかもしれねぇ。
僅かな望みをかけて自分を励まし、そおっと、レジ袋の中をのぞいた。
「・・・・・・。」
はあ・・・これ。
そのまんま、チロルチョコ箱買いじゃねぇか!
つうか。
「お前、完全に、今日がバレンタインデーだって、忘れてたろ!?」
「・・・はい、実は・・・店の前で、さっきバレンタインデーだって気がつきました。
すみません。やっと、なんで今日丈治がホテルやレストランを前から予約していたのか、理由がわかりました。」
「・・・・はぁぁぁ。」
そこからかよ。
もう、ため息しかでねえ。
そんな、落ち込む俺に綾乃が必死で声を張り上げた。
「で、でもっ。きょ、今日の、メ、メインはっ、チョコレートではありません!」
「あ?」
何で、綾乃、顔赤くしてんだ?
「今日のっ、メ、メインは・・・・わた、し・・・ですからっ・・・・チョコ、よりも・・・美味しいはずです・・・・。」
「・・・・・・・。」
ま、まぁ?
俺の、希望は叶ったから。
ヨシとするか・・・。
そう言って、俺はチョコよりも旨いってもんを、頂くために。
綾乃を見つめ、舌なめずりをした――




