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34、招

「おいっ、丈治っ、俺にビールきてねぇぞっ。つうか、グラスがねぇっ。」


戸田のジジイがうるせぇこと言いやがって。

もともと、今日よんでねぇし?


ムカついたから、スルーしてやった。

ぎゃぁぎゃぁうるせぇけど、無視を続け、綾乃の親父さんにビールを注いだ。

綾乃のお袋さんは、何故か魚富士のババアとあれ以来気が合ったようで、話しこんでいるし。

ノリオとヤスオはクソジジイに指図され、蟹鍋の用意をしている。



米本の事件があってから、10日程経った。

綾乃の親父さんが明日イギリスに戻るということで、今日は俺と綾乃の住むマンションに綾乃の両親を招いて、蟹鍋をすることになった。

つうか、綾乃が親と飯を食いたいと言ったのだ。


綾乃の両親は最初から俺達の結婚を承諾してくれていたのだが、米本の件で綾乃に会社の事を考え、我慢をさせようとした事を物凄く後悔したらしい。

まあ確かに、俺もあり得ねぇって思ったけどな。


結果、氷室の祖母さんもきっちり説得してくれて、晴れて俺達は夫婦として認められた。

だけど、綾乃の小学生の頃の病気の件といい、今回の件といい、綾乃の両親は酷く綾乃に対してまた負い目をもったようで・・・多分、綾乃はガキの頃からいい子だったんだろう。

我儘も言わないで、出来のいい物分かりのいい子供を通してきて、親の方も今更何を話していいか・・・きっと、綾乃の好物も知らねぇんじゃねぇかって思うほど、綾乃達親子の間には距離が見てとれた。


だから綾乃は、親父さんがイギリスに戻る前に会いたいと我儘をあえて言ったのだろう。

これまた、気を遣って我儘言うっていうのも、どうかと思うが。

それだけ綾乃の親子関係は、ギクシャクしているんだろう。


それならと、おせっかいババアが皆で飯を食おうと言いだして。

となると、勿論。

綾乃は満面の笑みで、『蟹鍋』をリクエスト。

で、クソジジイが張り切り出して、また北海道からすんげぇ高級ガニを取り寄せた。

綾乃は、大喜び。

更に、クソジジイが鼻の下を伸ばして、気合を入れて準備をする・・・。


まあ、今日は綾乃の両親を招いているから、汚くてクソ狭ぇ魚富士の6畳の居間ってわけにもいかず。

俺達の家にもまだ来てもらってなかったから、急きょ家で蟹鍋となった。


まあ、それは、いい。

ムカつくけど、クソジジイが来るのはしかたがねぇ。

ノリオもヤスオも、魚富士のババアも亭主も綾乃の両親とは面識があるし、いい。


だけど、何で戸田のジジイがいるんだよっ!?


はあ・・・ウゼェ。

つうか。

こんだけ皆そろってんのに、綾乃がまだ戻ってこねぇ。

まあ、今受験シーズン終盤で忙しいのはわかってけど。


とりあえず、あとどれくらいで帰れるかと、メールを打つ。


「丈治~、なんだ?愛しの綾乃ちゃんにメールかぁ?ラブラブだなぁ、こいつー。」


俺が、メールを送信するなり、戸田のジジイが冷やかしやがった。

ムカつくが、綾乃の両親の前だ。

言い返さずに、無視を決め込んだ。




暫くして、携帯の着信音が鳴った。

だけど、俺のじゃねぇ、ノリオのものだ。


チッ。


綾乃はあんま、メールが得意じゃねぇ。

だから、返信に時間がかかっているだけだ。

そう、自分に言い聞かせた。


というのに・・・。


「ジョージッ。タローがい、今、駅にいるんだって。」


突然、ノリオがすげぇ勢いで、俺にタローの居場所を報告してきやがった。


「そうか。」


俺はタローの居場所はどうでもいいし、聞いてもいないのだが面倒でそう答えたんだが。


「アッ、アイスクリームッ!!買ってるって!!」


甘いもん好きのノリオは急にテンション高く、タローの行動を報告してきやがって。

アイス食おうが俺には関係ねぇし、スルーだ・・・と、そう思ったが。

次の瞬間、聞き捨てならない事をノリオが言った。


「タローあと、ちょ、ちょっとで、こ、こっちへ着くってよ。」


「おいっ、何でタローがこっち、来るんだよっ。」


タローなんてよんでねぇし!


「え、と、友則っ、も一緒だぞ?」


「はっ!?何でっ?」


なんで、あのバカ高校生達がここへ来るんだよっ!?


「え、だって・・・綾乃ちゃんと一緒だから・・・。」


「・・・・・・。」


やっぱ、綾乃だ。

俺の返信が面倒で、メールの返事をタローに頼んだんだな?

しかし、タローは俺が怖ぇ。

で、ノリオへ伝言・・・。


はあ・・・。

綾乃、紛らわしい事、してんじゃねぇよっ。


よくわかってる。

よお~く、わかっている。


お前はただ、返信が面倒だったんだよな?


そう、思いながらも。

俺はガックリ、うなだれた――






不思議なんだけどよ。

何で、蟹食ってる時って、皆黙りこむんだ?

いや、こいつだけはうるせぇけど。


「しかし、ウケるよなぁ?浜田が鼻の下伸ばして、女の子に蟹むいてやる姿、見られるなんて…ブッ…ククッ…。」


呼んでもいねぇ、戸田のジジイがテンション高く、クソジジイをからかう。

クソジジイは無言で、ビールの王冠を戸田のジジイに投げつけた。

ビュンという音がしたから、クソジジイも戸田のジジイにかなりイラついているんだろう。


あぶねぇだろっ!と涙目で戸田のジジイが叫んでいるが、クソジジイは無視で綾乃に蟹をむき続けていた。


「ありがとうございます。でも、浜パパも食べて下さい・・・私にばっかり、じゃなくて。」


綾乃がさすがに申し訳なさそうだ。

クソジジイはさっきからずっと、綾乃の世話をやいているからな。


「もう、腹いっぱいか?綾乃ちゃん。」


「いえ、まだ食べられますけど・・・浜パパがこれでは食べられませんし・・・後は、大丈夫です。」


チラリと綾乃がビビりぎみで、俺の顔を見た。


わかってんじゃねぇか。

いい加減、ムカムカしてたんだよっ。

綾乃は俺の嫁なのに、クソジジイが綾乃をかまい過ぎで腹が立つ!

なのに、クソジジイは俺の顔を見て喉の奥で、クッ、と笑いやがった。


「何だ、丈治も、俺に蟹むいてほしいのか?お前、ガキの頃から蟹むくの下手くそだったもんな?」


「うるせぇよっ!蟹ぐらい、むけるしっ!うぜぇこと言ってんなっ!」


俺はクソジジイを睨みつけると、蟹の足を1本手に取った。

・・・確かに、俺はあんま蟹むきが上手くねぇ。

基本、器用なんだが昔から蟹の身をとるのは、下手くそだった。

蟹は嫌いじゃねぇが、だからあんま好きでもねぇ。

ガキの無邪気な頃は、クソジジイにねだっていつも蟹をむいてもらっていた。

ムカつくことに、クソジジイは何に対しても器用だ。

今だって無駄のない動きで素早く、蟹の身を殻からそぎ落とす。


チッ。


「ほら、綾乃。蟹の身出たぞ。」


そう言って、綾乃に渡した蟹の足は、身が上手くできっていなかった。

綾乃の、眉間にシワが寄った。


「ありがとうございます・・・でも、私は大丈夫ですから、丈治が食べて下さい。」


言葉は丁寧だが、綾乃はこれを拒否りやがった。

そして。


「ノリオ君!」


そう言って、ノリオの所へ移動しやがった。


「・・・・・・・。」


あいつ、あくまでも人に蟹むきをやらせるつもりだな・・・。


ふと視線を感じると、クソジジイと戸田が俺を見てゲラゲラ笑っていた。


「丈治ー、使えねぇ男は、嫌だってー。」


戸田が冷やかした。

俺はムカつきながら、自分の向いた蟹の身を口に入れた。


はあ、確かに。

身がボロッとしていて口当たりもそんなによくねぇし、中途半端だ。

まあ、綾乃が拒否るだけあるか・・・。


ガックリうなだれていたら。


「本当に、ありがとうございます・・・綾乃の事をこんなに可愛がって下さって。」


綾乃の親父さんが、クソジジイと俺を見ながら頭を下げてきた。


「いえ、頭をあげてください。こちらこそ、礼を言いたいくらいです・・・綾乃ちゃんが来てくれてから、明るくなったっていうか・・・皆前より楽しくなって。なにかっつうと、こうやって飯を食ったり、集まったりしているんです。」


クソジジイが綾乃の親父さんに、慌てて声をかけた。


「・・・本当に、母親失格です・・・綾乃が、蟹があんなに好きなんて、知りませんでした。」


今度はノリオにくっついて、蟹をむいてもらっている綾乃を見ながら、お袋さんが肩を落とした。


多分、綾乃が何を好きなのか、きいてもわかんねぇだろうな。


だけど、クソジジイは、綾乃のお袋さんを正面から見据えて、首を横に振った。


「俺は、息子の丈治の・・・好きな食べ物とか、嫌いなもんとか、癖とか知ってますが・・・こんな、はみ出しもんですから、尊敬どころか親として認めてもらえてません・・・だけど、綾乃ちゃんは、たとえ、お父さんお母さんが自分の好きな食べ物、嫌いな食べ物を知らなくても、お2人をとても尊敬しています。背中を見てきたからでしょう・・・母親失格なんて事、綾乃ちゃんに言ったら、綾乃ちゃん悲しみますぜ。」


まさか、クソジジイが、そんな風に思っているなんて知らなかった。

確かに、尊敬どころか、親として認めてなんかいなかったが。

改めて、クソジジイの口からそう言われると何となく、柄にもなく。

・・・・悲しくなった。


「そんなことっ、浜田さん。そんなふうに、丈治君は思っていませんよ。親とも思っていないなら、今日こうやって私達を招いてくださるのに、浜田さんに鍋の用意なんてまかせないですよ。」


綾乃の親父さんが、クソジジイにそう言った。

だけど、クソジジイは首を横に振り。


「そう言って下さるのは嬉しいですが、俺は親として何にも丈治にしてやっていないです・・・むしろ結果的に俺の犯したバカな事が、丈治の足を引っ張っているんですから。」


淡々とした声で、綾乃の親父さんの言葉をクソジジイは否定した。


何とも――

言えなかった。


クソジジイの言っている事が、そのとおりだ、とも。

そんなことねぇよとも・・・言えなかった。


ただ、黙って、ビールをあおった。


だけど、そんな時。


「そんなはずは・・・ねぇ、です。」


突然、魚富士の浮気亭主が、会話に入ってきた。

綾乃の両親が向かいに座り、こっちは端からクソジジイ、綾乃、俺、そして俺の隣には魚富士の亭主が座っていたのだった。

魚富士の亭主の向かいは、ババア。

つまり、綾乃のお袋さんの隣がババアってことで。

だけど、ババアは、綾乃がノリオの所へ蟹をむいてもらいに行った事で、ノリオ達の鍋へ追加で蟹を入れに行っていて、ここにはいなかった。


「ヤスシ、いいんだよ、俺のことは。」


クソジジイが、魚富士の亭主に静かにそう言った。

魚富士の亭主は名まえをヤスシという。

ちなみに、ババアはノリコだ。

つまり、双子は2人から名まえをとったということで。


「よくないですよ。俺とちがって、浜田さんは丈治を第一に考えてきたじゃないっすか。そりゃぁ、色々事情があったけど、結局・・・浜田さんが大切にしてきたものって、丈治だけですよね?そうだろ?丈治?」


驚いた・・・いつも、無口で人にむかって意見なんて言わない魚富士の亭主が、こんなにハッキリと物を言うなんて・・・。

俺は思わず、頷いてしまった。

まあ、あながち嘘じゃない・・・。


クソジジイが、俺の頷きにかたまった。

だけど表情は・・・目を見開き、顔を歪めている。

俺たちの婚姻届の保証人になれと言った時と、同じ表情だ。

つまり、泣きそうってことだ。


これは、ウゼェ。

勘弁してくれ。


「浜田さん、よかったですね。」


魚富士の亭主がクソジジイにほほ笑んだ。

そういや、この亭主、クソジジイの舎弟みたいなことしてたって言っていたよな。


「いや、お前だって。そんなことねーし。」


と、とりあえずクソジジイが気休めを言った。

必死で、表情を戻しながら。


「そんなことねぇです。あいつら、俺がよその女にうつつを抜かしてんのよく知ってますから。」


さびしそうに、魚富士の亭主がそう言う。

まあ、確かにその通りだから、何とも言えねえし・・・。


だけど。


「違うっ!おっちゃん、違う、それは。いつもっ、ノリオ君、おっちゃんのこと尊敬してるって言ってるぞっ!」


俺らの座っている場所をすり抜けてトイレに行こうと思っていたタローが、突然そんなことを言った。


「えっ。」


突然の、タローの発言にも驚いたが。

それよりも、その内容に驚いた。

ノリオがそんな事を言うなんて。

だけど、それは本当らしくて。


「ノリオ君っ、おっちゃんのこと、浮気ばっかしておばちゃん泣かせて困ったもんだけどっ、魚を見る目はすげぇ、って。魚富士がはやってんのは、おばちゃんのおかげでもあるけどっ、魚を見る目があるおっちゃんが選んだ魚だから、売れるんだ、すげぇだろって、いつも俺に自慢してんだよっ。」


タローの言葉に、魚富士の亭主が泣いた。

そして、何故か。

クソジジイも肩を震わせた。



やけに湿っぽくなって、たまんねぇ雰囲気でどうしようかと思っていたら。


「丈治ー、ノリオくんがいっぱい蟹むいてくれましたよー。ノリオ君やっぱり、魚屋さんだけあって凄く上手ですー。」


皿に円形に並べてのせた沢山の蟹の身を持って、綾乃が上機嫌でこっちへ戻って来る。

その後にノリオも笑顔でついてきて。


だけど、途中で綾乃が座布団に引っかかり、体勢を崩した。

慌てて体を抱きとめるが、皿まではどうにもできず、あっと思った時には・・・。

ノリオがヒョイ、と皿をおさえていた。


「ああー、よかったですぅ。ノリオ君ありがとうございますっ。おかげさまで蟹が無事でしたー。」


綾乃が心底ホッとした声を出した。


って、やっぱ、蟹かよ・・・。


「あ、綾乃ちゃんっ。ちょ、ちょっとは、落ち着こうよっ。」


綾乃に散々蟹をむかされたのだろう少しゲンナリとしたノリオが、皿を持ちながら綾乃をたしなめた。


おいおい、ノリオに注意されてんのか?


だけど綾乃は気にもせず。


「だってー、ノリオ君すごいんですよっ。この、プロっぽい蟹のむき方と、並べ方・・・もう見たらテンション上がってしまって!見て下さい!ノリオ君凄いでしょう!?」


そう言って、ノリオが持つ皿を俺達に見せた。


「おぅ、確かにすげぇな、ノリオ。」


クソジジイが褒めるほど、確かに蟹は見事に並べられていた。

戸田のジジイもすげぇと言っている。

そりゃぁ、確かにそうだが、魚屋だしな。


そう思っていたら、綾乃が1つ口に入れ、おいしい、おいしい、と食べ始めた。


って、なんだよ・・・その無邪気な顔。

お前いくつだよ。

ま、まぁ?

そういう顔の綾乃が好きなんだけれども?


「綾乃ちゃん?おいしいかい?」


ババアがまたこっちにきて笑顔で綾乃に話しかけながら、鍋に野菜を入れだした。


「おいしいですー。本当に幸せですぅ。」


綾乃は、本心でそう言っているという顔をした。

その無邪気な様子に、クソジジイと戸田のジジイがケラケラと笑っている。


「あー、まったく。本当に、綾乃ちゃんはかわいいねぇ。ノリオにもこんな可愛いお嫁さんが来てくれたら、いうことないんだけどねぇ。」


ババアも綾乃の可愛さに、ヤラレタようだ。

当然だ。

俺が一目ぼれした女だからな。

そう、心の中で自慢したのだが。


「ええっ。か、かーちゃんっ。お、俺っ。あ、綾乃ちゃんはかわいいけどっ、お、俺はっ。かーちゃんみたいにっ、料理が上手いコがいいっ。あ、綾乃ちゃんは嫁さんにしたくないっ。綾乃ちゃんは、む、無理だっ!」


「・・・・・・。」


可哀想だな、綾乃。


お前、ノリオに、無理って・・・言われたぞ?






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