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33/49

33、結

ノリオとヤスオが生まれた時、体重差は1,200グラムもあった。

ヤスオは健康体で生まれたが、ノリオは仮死状態で生まれ、一命は取り留めたが、1,500グラムに満たない未熟児で、生後半年入院を余儀なくされた。

それでも、どうにか退院しそれなりに育ち始めた矢先、ノリオは痙攣、意識障害を起こすようになりまた入院となった。

精密検査の結果、ノリオは先天性の病気があることが分かった。

丁度、双子が1歳になる頃の話だ。


どうやら、体の中で糖分を吸収する力が通常より半分以下らしく、痙攣、意識障害、発育不全はもちろん、放置し続けると最終的には死に至ると言われたらしい。

結局、投薬での治療しか方法が無く、ノリオはガキの頃から1日3回薬を飲み続けている。

その上できるだけ頻繁に糖分を摂取した方がいいと言われ、もともと甘いもんの好きなノリオはポケットにチョコレートや飴をいつも持っていた。

近所のヤツらはそんな事情も知ってっから、ノリオが道を歩いていると、たい焼きやらこんぺいとうやら大福やらをよくくれた。

だから、俺もヤスオもガキのころからおやつには苦労しなかった。


病名は小難しくて、良く覚えちゃいねぇが、つまり。

ノリオは薬を飲み続けなくちゃいけねぇことと、なるべく間食で甘いもんを食う事をいつも周りは意識していたわけで。

だけどそれを綾乃にはまだ、言っていなかった。



ノリオが倒れた時。

俺らは、糖分不足で意識障害を起こしたとすぐわかったから、ヤスオがノリオを抱き上げ病院へ運ぼうとするのを慌てず見守っていたが、綾乃が騒ぎ出した。

そりゃあ、目の前で倒れたんだからな。


「大丈夫だ。ノリオは持病があんだ。こういう時は、病院で点滴するんだ。点滴すれば回復すっから。な?大丈夫だ。」


綾乃を落ち着かせようと、そう説明した。

広瀬のジジイが自分のリムジンで鎌倉学院大学病院へ行けと、ババアに言った。

ババアがその言葉に慌てた。


「しゃ、社長!?そんな、もったいないっ。私ら、タクシーでいきますからっ。」


「何言ってんだ、女将。あんたは、ガキの頃から丈治を自分の子供と同じように可愛がってくれたじゃねぇか。丈治だって、あんたの息子らの事、兄弟のように思っているはずだ。そしたら、俺にとったって、ノリオもヤスオも息子同然だ。遠慮するな・・・それから、鎌倉大学病院の理事長は、俺良く知ってっから、その息子の医局長も俺の飲み友達だ。電話しておく。気にすんな。それより、早く行け。ノリオを楽にしてやれよ。」


広瀬のジジイの言葉に、ババアが涙ぐんで、頭を何度も下げた。


そして、集会所をヤスオが出ようとした時。

クソジジイが、ヤスオが抱きかかえるノリオの顔を覗きこんで頭を撫でた。


「苛められて、泣いてたガキが、一丁前の男になりやがって・・・・・女将、後の事は俺に任せてくれるか。悪いようにはしねぇから、よ?」


クソジジイの言葉に、ババアが頷いた。


「ええっ、浜田さんにすべてお任せします。宜しくお願いします・・・あ、うちの亭主、こちらに置いていきますか?一応こんなんでも、ノリオの父親ですからねっ。亭主置いておいた方が都合いいんじゃないですか?」


ババアの言葉に、クソジジイが喉の奥でクッ、と笑った。






それからは、案の定。

森村の独壇場だった。

木島側も今までの話を録音していたが、勿論森村も録音していて・・・いや、録画だ。

この集会所には録画機能がついていたからだ。

バカな米本が自分のやった事を、自分で認めていることも撮れていて。

森村のなめらかな隙のない喋りは、木島はもちろん、氷室の祖母さんも口をはさめねぇ。


「氷室会長・・・若輩者の私が、偉そうなことをと、思われるかもしれませんが。言わせて頂きたい。私にも娘がおりますが、いくら仕事を円滑にするためだといっても、危険な目にあったことを絶対に許せません・・・そういう順序を間違えるから、米本みたいな人間ができるのです。見た目で判断を誤ってはいけません、ノリオ君のような正しい心で判断をしないと、企業も必ず行き詰まる時が来ます。結局最後は、人は情でつながっているのです・・・金だけのつながりなんて脆いものです。愛社精神が、思いやりが、企業を支えているのです。愛社精神は、順序を間違えては育ちません。今回、一番傷ついているのは綾乃さんですよ?」


いつも慇懃無礼な、完璧人間が。

珍しく人間臭い事を言いやがった。



おまけに、ノリオが治療に向かった先は、米本らの在籍している『鎌倉学院大学病院』で。

理事長は広瀬のジジイ、森村の懇意で、息子の医局長は飲み友達・・・まあ、その言葉を聞いたあたりから、木島、米本は顔色が青くなっていたが。


極めつけは。

アサヒヤマンションの親父が・・・マンション経営は副業で、一応社長は奥さんで。

本業は・・・鎌倉署の署長だった事が、そのあとパトカーがやってきた事で分かった。

しかも、米本の父親とは学生時代の同期で、米本の父親から素行の悪い米本を頼むと言われ、アサヒヤマンションに受け入れたらしい。

知らぬは、バカ息子の米本だけで。


「お前の親父からは、今回は見逃さなくていいと言われている。」


そう言って、パトカーに米本と河合を押しこんだ。



それから。

アサヒヤのオヤジは、携帯を取り出しどこかへかけ、2、3言話しをした後、氷室の祖母さんに携帯を差し出した。


「米本の親父です。氷室会長に代わって欲しいという事です。」





何となく、終結にむかったようだ。


ホッと、息をつくと。

綾乃が、俺の腕にしがみついてきた。


「大丈夫か?」


声をかけると、綾乃が涙目で。


「丈治、私・・・もう、限界です・・・。」


俺を見上げてきやがった。


な、なんだよっ。

いきなりかっ。

ま、まあ?

怖かったよな?

襲われそうになったんだしな。


だ、だけどっ、綾乃の親も、祖母さんもいるじゃねぇかっ。

しかたがねぇから、耳元で、あとでたっぷりな?と、ささやいてやった。


だけど。

その声がクソジジイに聞こえていたのか。


「ぶっ。」


噴き出しやがった。

そして。


「オラ、クソガキ。お前の頭ん中は中坊かよっ・・・ククッ、綾乃ちゃんは、腹減った、つってんだよっ。何も食ってねぇンだろっ?」


「・・・・・・・。」


綾乃・・・。


紛らわしい、言い方すんじゃ―――

ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!



腹いせに。

爆笑広瀬のジジイに、蹴りを入れた事は言うまでもねぇ。






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