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31、謝

「『米本記念総合病院』って・・・ええっ、じゃあっ、あなた光君!?」


衝撃の真相に俺らは、固まっていたが。

綾乃が、ハッと何かに気がついたようで、米本を見て叫んだ。


知り合いか?


「やっと、俺だって、気がついてくれたんですね?あーちゃん。」


また、『あーちゃん』呼ばわりかよっ。

だけどそんなことより、綾乃は驚いた顔のまま、米本を見つめている。


「何で、こんな事を?普通に声をかけてくれたら、よかったじゃないですか?」


「だって、あーちゃんは俺に気がついてくれないし。一生、結婚はしないって言っていたのに、そんな男と結婚しちゃうし・・・こうなったら、奪うしかないって思ったんだ。絶対に、そんな男より、俺の方があーちゃんのこと幸せにできるし!だから、行動に出たんだ!だけどっ、そいつが!バカな癖に、邪魔ばっかするからっ!あーちゃんは、俺のものなんだ!本当は、ずっと家庭教師してほしかった!!頼んだのに!!あーちゃんは、俺を裏切った!!」


はあ・・・やっぱ、ストーカーだな。


俺は綾乃を抱きしめ、米本を睨みつけた。


「アホか。綾乃は、俺のもんだ。バカはお前だろ。こんなことする奴が、綾乃を幸せになんかできねぇだろっ!やっぱ、警察サツだな。アサヒヤのおっさん、悪ぃけど、110番通報してくれ。」


「まって、下さい!証拠はあるのですかっ!?彼は、綾乃さんが家庭教師をしていた時の、生徒さんです。綾乃さんの教え方がうまいと、夏休み、冬休みに芦屋にもどった綾乃さんが彼に姫路まで教えにいっていたのです。そんな親しい方が、綾乃さんを拉致なんて・・・そんなはずはないです。」


木島が、正論とばかり勝手な事を言い出した。

だけど、見た目で判断されたら、俺ら不利だよな・・・。


ギリリと、奥歯を噛みしめた。

だけど。


「拉致したかどうかなんて、わかるぞ。防犯カメラを見ればな。」


クソジジイが、さらりと簡単に答えた。

集会所内が、一瞬、シンとした。


「そ、そんなっ、あんな腐った商店街に、防犯カメラなんて置くはずないだろっ!?」


バカにしたように、米本が怒鳴った。

だけど、クソジジイは余裕でニヤリと嗤って見せた。


「腐った商店街でも、置いてんだ。クソが。」


「まさか、ハッタリだ!!」


叫ぶ米本に、魚富士の、ババアが立ち上がった。


「本当だよっ。綾乃ちゃんが横須賀に来てから、間違いがあっちゃいけないって、浜田さんが自腹で綾乃ちゃんの通る道や、出かけそうな場所全部に、防犯カメラを設置したんだっ。それに、今日出張ってたもん皆、人相は悪いけど、皆綾乃ちゃんの事大好きで、いつだって綾乃ちゃんのこと見守ってんだよっ。だから、横須賀界隈で綾乃ちゃんに危ない事はないんだよ、普通ならっ。あんたみたいな余所もんがバカなことすっから・・・あんたっ、こんなことしてちゃんと親に顔向けできんのかいっ!?あんたの事、ここまで大きくしてくれたんだよっ。いいかい、親って言うのはねぇ・・・・。」


延々と続く、魚富士のババアの説教を聞きながら。

俺は、呆然とクソジジイを見た。

まさか、そこまで綾乃の事を考えてくれていたなんて・・・。


「浜田さんっ・・・。」


突然、綾乃のお袋さんが泣きだした。

親父さんも肩を震わせている。


「そこまで、綾乃の事を大切に思って下さっていたなんてっ・・・。」


だけど、クソジジイは、首を横にふった。


「いや・・・申し訳ない・・・今回綾乃ちゃんを危険な目に会わせてしまいました。そいつがどんなバカ野郎でも、結局守りきれませんでした。」


そう言って、クソジジイが綾乃の両親に頭を下げた。

なんで、クソジジイが謝んなきゃなんねぇんだよっ。


「おい、悪いのはそいつだろっ。なんで、謝るんだよっ!?」


俺が、クソジジイに吐き捨てるようにそう言うと、バカ野郎!と、怒鳴られた。

その怒声に、ビクッと腕の中の綾乃が震えた。

あわてて、大丈夫だと、背中をさする。

それを見て、一瞬バツの悪そうな顔をしたクソジジイ。

ったく、綾乃にはとことん甘ぇんだからよっ。


だけど、次の瞬間にはキツい目で俺を見据えた。


「大切な・・・大切な、お嬢さんをこんなバカ息子に頂いたんだ。どんな事があったって、綾乃ちゃんを守んなきゃいけねぇんだ。今回の事は、想定出来なかったうち側の責任だ。地元のもんは綾乃ちゃんが大好きだし、綾乃ちゃんに危害を加えるようなヤツなんていねぇから、地元にいりゃあ安心だって、気が緩んでいたんだ。バカな余所もんが入ってくる事も、想定してなきゃなんなかったんだよっ。こんなに可愛いんだ、こういう、変態もいるっつうことだ。今回は、ノリオが頑張ってくれたから、無事だったが・・・ノリオがいなかったら、マジでヤバかっただろ?」


確かに、そう言われればそうだ・・・。

本当に、大切な娘を俺はもらったんだからな。


綾乃を抱いている腕をほどき、俺は綾乃の両親に向き直ると、深く頭を下げた。


「大切なお嬢さんを、危険な目に会わせました。申し訳ありませんでした。今後はこういうことが、決してないよう、気をつけます。」


隣にクソジジイが立ち、同じように頭を下げる気配を感じた。


頭を上げると、綾乃の両親は首を横にふり、そんな事はないです、充分綾乃は大切にして頂いていますと、そう言ってくれた。


綾乃は後ろから、俺のジャケットの裾を強くつかんでいる。


ったく・・・しょうがねぇなぁ。


俺はジャケットをつかむ綾乃の手を取って、ギュッと握ってやった。

綾乃もギュっと握り返してきた。


ああああああっ、もうっ。

何で、こんな時に、こんな可愛い事すんだっ!?

押し倒したくなるだろうがっ。


そう叫びたいのを、必死で耐える。



と、その時。

氷室の祖母さんが突然、ありがとう・・・と言った。



え?


驚いて、祖母さんを見ると。

目に涙を溜めていた。


「あーちゃん、大事にされてるんや・・・ありがとう、な?」


俺と、クソジジイに向かってそう言った。


何となく、わかってくれたのか?

俺らの気持ちを・・・と、安堵の気持ちで祖母さんを見つめた。


だけど。


「感謝するけどなぁ・・・あーちゃん、堪忍な・・・やっぱり今回、警察沙汰はなしや。」


理不尽な言葉が告げられた。


「おかしいだろっ、そんなことっ。綾乃は拉致られたんだぞっ!」


大企業の会長だか何だかしらねぇけどっ、もう敬語も何もとっぱらっちまって、その理不尽さを叫んだ。


大声を出す俺の隣で綾乃は、俺とつないでいた手を外すと、静かに祖母さんに向き直った。


「・・・・・・分かりました、私の件は警察には訴えません。」


冷静というべきか・・・冷めた声で、綾乃が信じられない言葉を言い放った。


「綾乃っ、おまっ、何言って・・・!?」

「綾乃さん?本気ですかっ!?」


俺と、神崎組の頭が同時に綾乃に詰め寄った。


綾乃は1つため息をつくと、そんな俺らに深々と頭を下げた。

それは、クソジジイや、森村、広瀬のジジイ、神崎組のやつら、魚富士の家族、そしてマンションのオーナーの旭谷のオヤジ、タローに友則にも・・・。


「今回の件では、大変ご心配をおかけして、私のために骨を折って下さって・・・心から感謝しています。どう考えても、今回の件は犯罪ですが・・・被害者が私ですので・・・事情を考え、警察沙汰には致しません。」


信じられない気持だった。

だけど、クソジジイや広瀬のジジイは理由が推察できるらしく、苦虫をつぶしたような顔をしている。

ただ、森村だけはいつも通りポーカーフェイスだ。


どうして・・・と詰め寄る俺に、綾乃は悲しい顔を向けた。


「『米本記念病院』は、全国展開の『米本堂』というドラックストアも経営しています。氷室製薬にとっては、かなりの上得意先なのです。その関係で、学生時代無理な依頼でしたが、姫路まで家庭教師に通っていたのです。」


だからって・・・。


「だからって、綾乃が泣き寝入りするのかっ!?そんな事は、間違っているだろっ!!」


まさか、綾乃までそんな事をいうなんて、俺は愕然とした。

そんな俺に、綾乃は泣きそうな顔で・・・。


「恥ずかしいです・・・こんな不正を認めるなんて・・・。」


「だったら!!」


俺は、綾乃の肩をつかんだ。

だけど、クソジジイが止めろ!と、俺を抑えつけた。

綾乃の頬を涙が伝う。


「・・・私も、悔しいです。でも、丈治・・・氷室製薬には、関連会社も含めて1万人以上の人が勤めています・・・その方達には家族もいらっしゃいます・・・会社の経営を悪化させて、その方達を路頭に迷わせるわけにはいかないのです。」


「・・・・・・。」


綾乃の口から、俺が考えもしなかった事が伝えられた。

その口調からは、悔しさもうかがえて・・・。


経営者側の、責任・・・・。

俺は、そんな事まで考えつかなかった。



「と、いうことだからー、俺達、帰ってもいいかな?あ、防犯ビデオもこっちで処分するから、渡してほしんだけどー。氷室のおばあちゃん、いいよねぇ?」


突然、米本が饒舌になった。


こいつ・・・信じらんねぇ。


「あーちゃん、分かってもらえたんだね?」


木島が、ホッとした顔で綾乃にほほ笑んだ。


こいつも、信じらんねぇ!

綾乃が連れ去られて襲われるところだったんだぞ?


怒りがこみ上げどうしようもなくて、拳をギュウッっと、握りしめた。

だけど、そのこぶしを綾乃が両手で包みこんで、木島を睨みつけた。


「はい、自分の立場も状況も理解できています。そして、改めて私は、自分の生まれ育った環境を恥ずかしいと思いました。」


綾乃の言葉に、集会所内が静まり返った。


「あーちゃん・・・。」


氷室の祖母さんが悲しい顔をした。

綾乃は顔を上げ、凛とした態度で言葉を続けた。


「木島さんが昨日おっしゃった事・・・お祖母さまが良く思っていらっしゃらなくて、私を丈治と別れさせようと思っていらっしゃる事・・・原因は、氷室の家とは格差がある事、浜田の父に前科があり、水商売をしている事。丈治の両親が正式に結婚をしていなくて、しかもお母さんはお酒が原因で亡くなった事・・・世間体が悪いと思われての事だと思います。そして、神崎組の皆さんや繁華街で働いていらっしゃる方を普通じゃないっておっしゃっていましたけど。普通って何でしょうか?いきなり私を攫い、暴行しようとして・・・それを必死でかばってくれたノリオ君を、笑いながらコーラーのボトルで殴って・・・いざ警察へと言う事になったら、仕事の事を楯にそれをもみ消そうとする・・・それを、そうするべきと判断をする・・・身内の私が被害者なのに!ええ、理由は嫌というほど理解しています!でも、それは、間違っている事です!お祖母さまや木島さんが蔑んで見ている方達の方が、間違った事をしていません!!間違ったものが、正しい行いをしている人を、そう言う目で見る・・・理不尽です!人として、恥ずかしいです!!」


綾乃が叫び・・・肩で息をしている。

頭に血が上っているのか、ぐらり、と体がゆれ、慌てて支えた。


こんなに激しく怒っている綾乃は、見た事が無い。

多分、他のやつらもだろう。

祖母さん初め、両親、木島も目を見開いている。


そして、綾乃は息を大きく吸うと。


「謝って下さい!!蔑んで見た方達を!!神崎組の方たちは不動産業と、街の管理と、お祭りの仕切りや、テキヤさんの手配とか・・・暴力的な行為は何もしていません!!普通ではない事をしているのはどっちですかっ!?・・・でも、私はいいです。氷室の人間ですから・・・でも、ノリオ君に関しては、警察に届けて頂きます!!」


綾乃の言葉に、米本が慌てだした。


「ちょ、それは・・・ないんじゃない?それ、警察に行ったら、全部バレちゃうし!氷室のおばあちゃん、まずいよぉ。」


米本に言われ、氷室の祖母さんは木島に目配せをした。

木島が、ノリオのところへ行った。

穏便にすませようと話すのだろう。


汚ねぇ・・・。




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