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30、利

「丈治に私の親戚を紹介するのが、恥ずかしいのです。」


一昨日、氷室の新年の集まりに俺が一緒に行くと言った時に、渋った綾乃が口にした言葉――


その時は、何言ってんだ・・・そう思っていたが。

今、こういう状況になってみて、綾乃が言わんとした事の本質が漸く分った気がした。

そして、綾乃が本当に求めているというものが、今まで素直に信じられなかったけどよ。

俺がもってるもんで、良かったんだって・・・実感できた。


だから。

悲しそうな、傷ついた顔をした綾乃をぎゅっと抱きしめて、楽にしてやれるのも俺なんだって。

俺でいいんだって、腹の底から、実感できた。



タローが言うところの高校のダチで、マシンを運転していたトモリンってヤツは・・・2m近くあるプロレスラーみたいな男だった。

坊主頭でツリ目だから、どう考えても悪人顔だが。

花が好きで、将来展覧会に出すような大輪の菊を作りたくて、湊学園農業科に入ったらしい。

まあ、オツムの出来もあんま良くないのは事実だが。

つまりは。

見た目は厳つくて悪そうなツラだが、実は心やさしい高校生で。

名まえは・・・旭谷友則――

鎌倉に家があると言っていたが、鎌倉で一番デカいマンション・・・アサヒヤマンションのオーナーの、息子だった。


タローから、綾乃がアサヒヤマンションで見つかったと聞いて、先に親に連絡を入れてくれたらしく。

広瀬のジジイらが着いたのと同時に、友則の親父も慌てて飛んできた。

友則の親父は、広瀬のジジイやクソジジイとも知り合いらしく。

綾乃が連れ去られた事は聞いていて、だけどまさか自分のマンションの住人が犯人だったとは思わなかったようだ。



「駐車場では何ですから、うちの集会所を使って下さい。エントランスの奥にありますから。どうぞ、ご案内します。」


友則の親父が気をきかせてくれ、俺らは集会所に向かった。

神崎組の頭と幹部3人が残り、捜索部隊は解散となった。


きっちり、真相を聞いて、きっちりオトシマエをつけなきゃなぁ。

紐で縛られた男2人を、ギロリと睨みつけた。

男2人が俺を見て、ブルリと震えた。


綾乃は後方からついて来ているが、駆け付けた祖母さん、両親に見てもらっている。


ノリオは、涙が止まらない魚富士のババアに「綾乃ちゃんに、お、俺ヒーローだって言われたっ。か、格好いいって、言われたっ!!」と、嬉しそうに何度も同じ事を言い続けていた。


ババアはそのたび、涙を流しながら頷き。

ヤスオは、「すげえな、ノリオ」って、相槌を打っていた。

双子の親父は俯き、その後について歩いていた。


タローは、「ノリオ君、すげぇっ」と、その後に続き、興奮していて。

その隣には、プロレスラーのような友則が黙って歩いていた。




集会所は、とても広かった。

管理組合の会合をここで行ったり、このマンションの住人が亡くなった時はここで告別式もできるようにと考えての作りだそうだ。


部屋に入るなり、男2人を詰問した。

だけど、2人とも、何故か一言も口を利かない。

名前すら、言わず。

俺はキレかけ、2人の襟首をつかんだ。

それを、クソジジイが止めやがった。


「丈治、落ち着けっ。何のためにお前を捜索に向かわせなかったのか、わかんねぇのかッ!?お前が、キレて、取り返しのつかないような事にならないためだっ!綾乃ちゃんを幸せにすんだろっ!?」


そう言われたら、そのとおりで。

俺は手を離し、舌打ちをすると、椅子にドカリと腰かけた。


すると、森村が、満面の笑みで。


「質問に答えたくないなら、結構です。もう、身元はわかっていますから。鎌倉学院大学、スポーツ学部栄養科の河合勇気と、米本光也ですね?・・・米本、君があのワンボックスカーの持ち主で・・・綾乃さんをストーカーしていたのですね?」


森村の言葉に、皆驚いた。


「ええっ、私全然気がつきませんでした。」


綾乃も驚愕の声を出す。


だけど。


「本当に、そうですか?皆さんの勘違いではないのですか?」


木島が、冷やかな声を発した。


「どういう事ですか?勘違いとおっしゃるのは。」


俺がキレかかったのがわかったのだろう、綾乃が素早く木島に質問で返した。

俺っと一緒にいる時は完全にスイッチがオフで、ボケッとして、どんくせぇ癖にこういう時は、素早い行動をしやがる。


「いえ、客観的に見てですね・・・この方たちが取り押さえられていたのは20名近くの・・・どう見ても堅気とは思えない、迫力のある方々でしたので。とても、あーちゃんに何か危害を加えようとかしたとは・・・それよりも、浜田さんの方で過剰に反応されて、一般市民を脅したように見受けられるのですが。」


「なっ・・・・。」


さすがの綾乃も立ち上がって、怒りをあらわにした表情を見せた。


「それは、私達を疑うと言う事ですか。綾乃ちゃんも含めて。」


クソジジイが丁寧だが、いつもより低い声を出した。


「いえ、そんな大げさなものではないです。ただ、私達一般人とそちらとは考え方も、受け取り方も大きく違うのでは、ということです。それに、米本さんも河合さんも喋らないのではなくて、いかにも堅気ではない方々に囲まれて、委縮しているのではないでしょうか?普通一般人で、強面の指がない人が目の前に何人もいるという状況は、ありえないのではないですか?」


つまり、ヤクザに囲まれて、ささいなことを大ごとにされ、脅されていると言いたいのか。


「おい、あんた。自転車に乗っていた綾乃がいきなりワンボックスカーに連れ込まれて、攫われたんだぞ?しかも、綾乃をかばったノリオは殴られてあんな顔になってんだぞ?」


俺はそう言ったが・・・何か、おかしい。

綾乃が心配で、取り乱して駆けつけてきた祖母さんが、さっきから一言もしゃべらねぇ。

見ると、綾乃の両親も困った顔をしている。

そう言えばさっき、この集会所に入った時に木島が何か祖母さんと綾乃のお袋さんに耳うちしていたな・・・。


クソジジイも広瀬のジジイも、その事に気がついたようだ。


「とりあえず、弁護士に連絡していいですか?」


どんな質問をしても答えなかった米本が、突然謝罪でもなく自分の権利を主張してきた。

自分のやらかしたことは棚に上げて、か?

怒りで体が震えた。


綾乃は祖母さんとお袋さんに挟まれて座っていたところで立ち上がったという状態だったが。

我慢できないという顔で俺のところに来て、俺の腕にしがみつき顔をつけた。

僅かだが、体が震えている?


多分、綾乃は祖母さんとお袋さんの様子が変わった事に気がついて、その理由もわかってんだな・・・。


ったく、しょうがねぇなぁ。


俺はしがみつく綾乃の腕を振りほどき、素早く胸にかき抱いた。


「丈治っ・・・。」


綾乃の声も震えていた。


許せねぇ。

誰であろうと、綾乃を泣かせるやつは。


俺は、米本という下衆野郎を正面から睨み上げた。

そして。


「おう、いいぞ。弁護士でも、かーちゃんでも呼んでみろや。まぁ、その前に、お前ら警察に突き出すしなぁ。こっちは、逃げねぇ様に拘束しただけだ。拉致ったのも、ノリオにあんな暴力ふるったのも、綾乃に手ぇだそうっていう目的なんだろ?んじゃ、強姦目的だな?おい、広瀬のジジイ、警視総監が大学の後輩だっていってたよな?よろしくなぁ?」


「ひっ・・・。」


俺の言葉にビビったのか、米本は情けない声をだした。

河合は顔面蒼白だ。

だけど。


「そんなっ、拉致なんて・・・証拠がないじゃないですか。証言といっても、堅気の方ではないですよね?そういう方の言い分を信じてもらえると思いますか?」


木島の言葉に、俺の腕の中の綾乃がピクンと反応した。


「正義を捻じ曲げてまで・・・タカ・・・いえ、木島さんはその人達の肩をもつのですか?その人達は、私を必死でかばうノリオ君を面白がって、コカコーラの入ったペットボトルで何度も殴ったんですよ?」


何だと?コーラのボトルって、硬くてそこがボコボコだろ・・・それで殴られたら・・・まあ、あんな風に顔がボコボコになるだろうな・・・。

痛かっただろうに・・・。


「やだな、あーちゃん。肩を持つなんて・・・。俺はただ――「そうですね、姫路の『米本記念総合病院』っていったら、大病院で、『氷室製薬』の大口の取引先ですよね。」


木島の言いわけを遮り、森村が冷たい声で真相を言い放った。


結局、可愛い綾乃よりも・・・利を選ぶのか?

それは、ちょっと。

ないんじゃねぇか?





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