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『アサヒヤマンション駐車場、車発見』


と書かれただけの、ヤスオからのメール。

俺はメールを見るなり立ち上がり、そのまま大股で出口へむかった。


アサヒヤマンションは、鎌倉で一番デカイマンションということで、有名だ。

綾乃がそこにいるってことか?


「おいっ、丈治!?」


俺がいきなり部屋を出て行こうとしたからだろう、クソジジイが俺の腕をつかんだ。

俺は、話をする時間も惜しく、クソジジイに携帯を見せた。


「・・・あいつら、オセェよ。やっと、見つけたんだな。おい、丈治。いくぞっ!・・・あ、氷室さんご一家は、ここで待機していただいてもいいですか?」


クソジジイが、そう言って俺を促したが、綾乃の両親と祖母さんに向かっては、同行ではなく此処にいろと言った。


そりゃぁ、そうだ。

今、綾乃を探し回って、出張っているのは神崎組や、繁華街で裏稼業のヤツラばっかだしな。

ヤスオは鎌倉に来た神崎組の連中や『養老軒』の親父らと合流して、捜索に出ていたらしい。


「何を言っとう!あーちゃんの一大事やっ。行くに決まっとうっ!!」


「そうですっ、綾乃の無事な姿を見るまでは・・・っ。」


「丈治君、我々だけ留守番はつらい。早く、綾乃の無事を確認したいんだっ。」


祖母さん、綾乃のお袋さん、親父さんが口々に異論を唱えた。


「いや、でも・・・随分危険だと―――「いや、ご一緒頂きましょう。」


さっきまで木島と挨拶を交わし、名刺交換してしていた森村が、さらりとそう言った。





「丈治、乗れっ!」


グランドヒロセ鎌倉の玄関には、いつの間にかバイクが用意されていた。

クソジジイのケツに乗るのは、甚だ不本意だが。

この場合、バイクの方が早いのは明らかだ。

俺は、ためらうことなくクソジジイの後ろに乗った。


つうか。

クソジジイのバイクのケツに乗るなんて、小学校以来のことだ。

まあ、ガキの頃は何も知らねぇし、クソジジイのバイクの後ろに乗るのが好きで、色々なところへ連れて行ってもらった。


「ジョー、氷室家の皆さんや魚富士は俺がお連れする。アサヒヤマンションだな?」


「ああ、頼むぞ?マツ。」


広瀬のジジイがエンジンをかけるクソジジイに声をかけると、クソジジイも言葉少なに答えた。


素っ気ないようだが、なんとなく、そこには。

信頼関係のようなものが見て取れた。

いつもは名字を呼ぶのに、下の名前を呼んでいる。

無意識だろうな。


「タロー、サンキュウな。」


ふと、森村に話しかけられているタローが目に入り、自然と言葉が出た。

バカだけど、こいつなりに綾乃の事を思って一生懸命動いてくれた。

偶然とはいえ、車に乗っている綾乃達の写真まで撮った。

これは、証拠になる。


俺にはいつもビビっているタローが、俺の言葉を聞いてぶったまげた様子を目の端にとらえながら、バイクが発進した。





「丈治っ!!」


バイクを飛ばしながら、クソジジイが怒鳴った。

だから、俺も怒鳴り返す。


「何だ!?」


「・・・心配すんなっ!!」


「あっ!?」


「綾乃ちゃんは絶対、大丈夫だっ!!」


「・・・・・。」


唇をかみしめた。



ガキの頃は。

何となく。

クソジジイが「大丈夫だ」って言えば、大丈夫な気がしていた。


俺が、熱を出して苦しい時も。

歯が痛くなった時も。

ピアノを習って、初めての発表会の時も。

ノリオが入院した時も。

さみしくて、夜眠れなかった時も―――



・・・・・・・・俺は、クソジジイの腹に回している腕に。

1度。

力をいれた・・・・。



これはガキの頃、バイクに乗った時のサイン。

力を入れるのが、1度なら、イエス。

2度なら、ノー。



グラリと、車体が揺れた。


・・・やっぱ、やりやがった。

これも、サインだ。


蛇行運転は、俺の返事を承諾したという、クソジジイのサインだった。


・・・・・バカ野郎。

いい歳しやがって。

まだ、覚えていやがったか。



ふいに。

目が熱くなり、俺は。

いっそう、強く。

唇をかみしめた。






俺らがアサヒヤマンションに着いた時には、もう綾乃は助け出されていた。

つうか。

男が2人取り押さえられて、囲まれていた。

その、囲んでいる奴らが・・・神崎組や繁華街の連中だから、一見どっちが悪者かわかんねぇけど。

『養老軒』のオヤジが、座り込んだ綾乃に一生懸命話しかけている。

その綾乃を守るように肩を抱いて、一緒に座り込んでいるノリオが目に入った。

顔が、ボコボコに腫れている。


「綾乃っ!!」


バイクが止まる前に、飛び降りた。


あぶねぇだろっ!と、叫ぶクソジジイの声を無視して、綾乃のところへ一目散に駆け寄った。


俺を見て。

綾乃とノリオが泣きそうな、顔になった。


綾乃が、俺の胸に飛び込んできた。


「丈治っ・・・・!!」


ぎゅうぅっ、と抱きつき・・・すすり泣いている。


すげぇ、怖かったんだろう。


「お前・・・無事か?・・・何かされなかったか?」


恐る恐る尋ねると、綾乃は、首を縦に振り。


「わ、私は・・・何もされません・・でしたっ。ノリオ君が、守ってくれて・・・ノリオ君がっ、私をかばうために、な、な、殴られ・・・てっ・・・くぅっ・・・。」


ノリオには悪いが、その言葉で全身の緊張が、ゆるんだ。


「そうかっ・・・よかった!ノリオッ、ありがとうなっ?綾乃を守ってくれてっ!」


泣きじゃくる綾乃を抱きしめながら俺がそう言うと、ノリオはボコボコの顔で嬉しそうにほほ笑んだ。


「あ、あたり前っ。だって、ジョージだって、今まで、お、俺の事・・・いじめるヤツらから、ま、守ってくれたじゃんかっ。ず、ずっと、ジョージは俺の、ヒーローだったしっ。」


「・・・・・・・。」


ノリオがそんな風に思っていたなんて知らなかった。

確かにガキの頃、ノリオはバカで体も弱かったし、行動もトロかったからよくいじめられた。

だけど、ノリオは俺にとっちゃ兄弟のようなもんで。

ノリオをいじめるヤツらを懲らしめるなんて、当たり前のことだったのに。

そんなことに、一々恩なんて感じているんじゃねぇよっ。

だから、お前はバカなんだよっ。


なんとも言えない気持ちになって、戸惑っていたら。

やっぱ、綾乃だ。


怖い思いをして、泣いていたって、俺の胸から顔をあげて。


「ノリオ君だって、ヒーローですっ!!私を守ってくれて、ありがとう。とても、格好よかったです!!」


そんな、殺し文句をかましやがった。


その途端、ノリオは真っ赤な顔になって。


「俺っ、ヒーローになった!!か、格好いい、って!!」


と、神崎組や繁華街の連中に自慢して回りだした。

まあ、あいつらは、ノリオを可愛がっているから、笑顔でノリオによかったなーなんて言ってやっているが。

男2人を紐で縛りあげながら。


だけど。

クソジジイが、縛りあげられた男の髪をつかんで、顔をあげさせたところで、その空気も一変した。

俺も、そいつらをにらみつけた。



そして丁度そこへ、綾乃の両親や祖母さんを乗せた広瀬のジジイのリムジンが、到着した。





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