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27、紙

情けねぇ事に。

最初に動いたのは、クソジジイだった。

呆然とする俺の腕をつかみ、立ち上がらせると。


パンッ――


クソジジイに一発、ビンタを喰らった。


「丈治っ!しっかりしろっ!」


ビリビリと痺れる、頬の感覚と。

クソジジイの腹に響く怒声に、我に返った。

シュウの襟をつかみ。


「どういうことだっ!?説明しろっ!」


そう、叫んだ。


「い、いや・・・ノリオがさっき配達にきてっ、新しい自転車を買ったって言うから・・・綾乃ちゃんと俺が表に自転車を見に出たんだけどっ・・・綾乃ちゃんが乗りたいって言い出して・・・で、この店の前の道を走りだしたんだ・・・で、綾乃ちゃんが危なっかしいから、綾乃ちゃんに慌ててノリオがついて・・・そこの、『森口楽器店』の所で突然、急に走ってきたワンボックスカーに綾乃ちゃんが連れ込まれて、止めようとしたノリオも一緒に・・・。」


シュウの説明に。

俺も、クソジジイも店を飛び出した。




久し振りに会った、森口のジジイは相変わらず無表情で、昔とあんま変っていなかった。

そして、クソジジイの顔を見た途端。

紙きれを渡してきた。


「綾乃ちゃん達を連れ去った、車のナンバーだ・・・。」


メモに書かれたナンバーは、姫路ナンバーだった――



「とりあえず、警察だっ!」


シュウがそう叫んで、ズボンから携帯を出すが、クソジジイがそれを止めた。


「シュウッ、待てっ!地元のヤツら使った方が早い。綾乃ちゃんにもしものことがあっちゃいけねぇっ!」


そう言っているうちに、地元の組・・・神崎組の頭がとんできた。

森口のジジイが先に電話をしていたらしい・・・ って、このジジイも昔クソジジイの舎弟だったらしく、横のつながりは俺もよくは知らねぇけど、いろいろあるらしい。

そうこするうちに、魚富士のババアも息を切らせてやってきた。


「ノ、ノリオとっ、綾乃ちゃんが、連れ去られたって!?」


近所のヤツらも結構見ていたらしくて、口々に状況を説明している。


「森口、お前この辺の様子店から見ておいてくれっ。神崎、車番の手配はしたか?とりあえず、『みのり』に戻るぞっ。状況を見ていたヤツは一緒にきて、説明してくれっ。」


クソジジイがテキパキと指示を出し、俺の腕をひっぱり、歩き出した。




店に着くと、シュウが『商い中』から『準備中』に札を変えた。

ぞろぞろと近所のヤツらも入ってきた。

確かに、車番は『姫路』で、ワンボックスカーだったという。

・・・姫路は兵庫県だ。

しかも、ワンボックスカーの中でも一番高級な車種・・・。

そうなると、思い当たるのは―――


「やっぱ・・・綾乃の芦屋の祖母さんさん絡みか?」


俺のつぶやいた言葉に、クソジジイが眉を寄せた。


「可能性は、高いが・・・決めつけるには証拠がない・・・昨日の件なら、綾乃ちゃんに危害はないと思うから、そこらへんはとりあえず安心できるが・・・そうでなかったら、ヤバイぞ。決めつけてかからないほうがいい。とにかく、心配をかけるかもしれんが、綾乃ちゃんの両親に電話しろ、で、芦屋の方に確認を取ってもらえ。」


クソジジイの言う事がもっともなので、俺は綾乃のお袋さんに電話をかけた。

綾乃の両親は昨日のうちに横浜に戻っていて、昨日祖母さんに挨拶にいけなかったので、今日祖母さんの宿泊先のグランドヒロセ銀座に訪ねる予定だったようだ。

昨日の祖母さんの事、木島の昨日の事などをかいつまんで話し、今日連れ去られた事を説明した。

綾乃のお袋さんはすぐに祖母さんに確認をとって、こっちへ向かうと言って電話を切った。



「綾乃ちゃん・・・ノリオが一緒で大丈夫なのかい・・・。」


ババアが、綾乃を心配してくれるが。


「ババア、ノリオ・・・薬大丈夫なのか?」


ノリオは持病がある。

定期的に、薬を飲んでねぇとマズい事になる。


「ああ、朝飲んだから・・・昼はまだだけど、今日いっぱいは持つと思うよ・・・。」


さすがのババアも、顔色が真っ青だ。

俺も、そうかもしんねぇ。

だけど、頭がうまくまわんねぇ。

綾乃が知らねぇヤツに車で連れ去られたって・・・言葉では、わかってるけどよ・・・。

何も、考えられねぇ・・・。


目の前にウーロン茶が出された。

見ると、シュウが皆に配っている。


「ジョージ、お前飯まだ食ってねぇだろ?とりあえず水分だけでもとれよ?」


シュウの言葉にハッとした。


「おいっ、シュウ!綾乃っ、俺が座敷に言っている間に、何か食ったり飲んだりしたかっ!?」


そう言えば、綾乃は昨日から何も食ってねぇ。

朝飯失敗して、此処に食いにきたんだし。


「いや、日本茶を出したんだけど・・・しゃべっていて、それにその後ノリオが来て・・・だからここでは何も、口にしてない。」


心の底から、後悔した。

ムキになって綾乃に飯を先に食うな、なんて言うんじゃなかった。

あいつはズボラなくせに、そういうところはやけに律儀だ。


「綾乃、昨日夕飯食ってから、何も食ってねぇ。朝から、大して水分もとってねぇし・・・。」


俺がそう言うと、店の中は一気にどんよりした空気になった。




その時、神崎組の頭の携帯が鳴った。


「・・・おう、どうだっ?」


電話に出るなり頭は、相手の言葉をせかす。


「ああっ!?鎌倉で見失った!?何やってんだっ!!このボケッ!!」


皆、頭の電話に聞き耳を立てていた。

鎌倉で、森口のジジイの控えた車番のワンボックスカーを見つけ、捜索している神崎関係のヤツらが追ったが、途中で巻かれてしまったらしい。





『みのり』から、知らない間に用意された車でクソジジイ、魚富士のババアと亭主で鎌倉に向かった。

ヤスオはジジイの用事でちょうど鎌倉にいたから、途中で合流すると連絡があった。

シュウには、残って留守番と連絡役を頼んだ。



クソジジイは、横のつながりで人を出し、例の車を鎌倉から出られないように見張らせているらしい。


「だけど、車を変えたら終わりだろ?」


「レンタカー屋も手配している。最初に『姫路』ナンバーを使ったってことは、こっちの車番の車を用意できなかったってことだ。ここらの車番以外の車も注意させている。だけど、レンタカーを使う可能性が大だ。鎌倉中をくまなく探させている。」


クソジジイがいつもより低い声でそう言った。


「・・・・・。」


俺は、それ以上口を開かなかったが。

さっきまで、頭がまわんなかったくせに・・・一旦みつけたワンボックスカーが鎌倉で姿を消したことで。

綾乃の身の危険の想像が具体的に頭の中を駆け巡り、気が狂いそうになっていた。

そんな俺を支えるように、肩をぎゅっと抱いたのは。

・・・・クソジジイだった。


「・・・大丈夫だ。絶対に、綾乃ちゃんは見つける。無事な姿でな・・・それに、ノリオが一緒だ。あいつは、バカだけどよ・・・根性あるから、綾乃ちゃんを守ってくれる・・・なあ、女将?」


クソジジイが魚富士のババアにそう問いかけた。


「あっ、ああ。ノリオは私の子だよ!?バカだけど、根性だけはあるんだよっ。」


ババアが震える声で、精一杯声をハリ上げた。

車は鎌倉に着き、とりあえず広瀬のジジイが用意してくれたグランドヒロセ鎌倉の広い部屋に入った。


そこには、顔色を変えた綾乃の両親が来ていた。

そして、絶望的な事を言った。


「氷室の叔母に単刀直入に聞いたのですが、今回のことは氷室の方の事ではないそうです!叔母は強引ですが、そういう事をする人間ではないですし・・・綾乃の事が可愛いので、綾乃に嫌われるような事はしません。」


「いや、でも・・・。」


昨日の木島のことを思い出し、なんとなく信用しきれない。


「そうなると・・・やっかいな、事、ってわけだ・・・。」


クソジジイが舌打ちをした。


部屋の空気が重くなった。

暫く、誰も言葉を発しなかったが。

廊下から聞こえてくる、声がだんだんと近づいてくるのが聞こえてきた。


「あーちゃんがいなくなったって、どういうことやっ!?」


ドアが開いて、荒々しく怒鳴りながら部屋に入ってきたのは。


「叔母様っ!!」


氷室の祖母さんだった。

綾乃のお袋さんが立ちあがった。

祖母さんの後ろには、広瀬のジジイ、戸田のジジイ、そして・・・森村比呂が立っていた。

興奮した祖母さんと違い、相変わらず冷静だ。

そして森村は、俺に1枚の紙を差し出してきた。


「今回の事は、氷室会長とは無関係です。車番が『姫路』でしたよね?氷室会長のところですと『神戸』です。こちらは関東ですので、そこら辺はご存じないかと思いますが。それに、人を攫うのに普通は、そんな足のつくような車は使いません。」



俺は、森村の示した紙に目をやった。




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