25、炭
木島が去った後、俺は酷く頭が混乱していた。
俺が見てきた、クソジジイは本当にどうしようもない男で。
母ちゃんとヤるだけヤって、遊びだったとはいえ母ちゃんが妊娠したのに、結婚もしなかった。
女には執着しねぇ癖に、信じられねぇくらい手が早い。
んで、ガキの頃から悪だったせいか、この街の繁華街じゃカオで・・・仕切っているようなもんだし。
本職のやつらだって、クソジジイには頭があがんねぇ。
母ちゃんが、酒におぼれて行くのも止めなかった。
俺にとっちゃ、父親と到底認められない最低の男だ。
何より、人を殺そうとして捕まった過去なんて――受け入れられるはずがねぇ。
だけど。
「浜田が殺そうとした相手は、俺の妻の親父・・・浜田の育ての親を殺したやつだ。それも、横須賀の土地買収を成功させるために、横須賀を仕切っていた叶の親父さん・・・妻の父親を闇撃ちしたんだ・・・酷い事件だった。」
広瀬のジジイがそう、説明した。
感情のない低い声だった。
混乱している俺を、綾乃は抱きしめて眠ってくれた。
いつもは俺が、抱きしめるのに。
その夜は、ベッドの中で綾乃は、俺を胸に抱いてくれた。
ガラガラガッシャーン―――
すんげぇ音で目が覚めた。
俺を抱いていたはずの綾乃がいねぇ。
急に不安になって、飛び起きた。
「ああっ、丈治!?起きてしまいましたかっ?」
俺がリビングに入ると、綾乃の焦った声がした。
つうか。
すんげぇ、焦げ臭いんだけど?
換気扇フル稼働させってっけど・・・。
テーブルの上を見ると・・・炭!?
いや、多分形状からして・・・ウインナーだったんだろうな。
いや、どうやったらウインナーをそこまで真っ黒にできっか、それが不思議なんだけど?
俺が無言で炭を見ていると、泣きそうな顔で綾乃が俺に謝ってきた。
いや、もうその顔だけで・・・可愛すぎてごちそうさん、なんだけど?
「た、たまにはっ・・・私も丈治に朝食くらいは作ってあげたくて・・・でも、ウインナーを焼いているうちに、ついでにコーヒーをセットしておこうと思って・・・でも、フィルターがみつからなくて、探すのに夢中になっていたら・・・何故か、煙が立ち込めてきて・・・匂いも臭くて・・・それでとりあえず換気扇を回したのですが・・・ダメみたいで・・・で、団扇で煽ごうと思ったら、洗ってあった鍋にパジャマの袖が絡まって、床に落ちてしまって、凄い音で、吃驚していたら・・・ウインナーが真っ黒になってしまって・・・最初に、火を止めておくべきでした。」
「・・・・・・。」
無言の俺に、かさねて綾乃がまた謝った。
「本当に、ごめんなさいっ。ウインナーが黒くなっただけじゃなくて・・・フライパンのテフロン加工まで・・・ベロベロっと・・・めくれてしまいました・・・これ・・・ボンドで、くっつかないでしょうか?ちょうど綺麗にめくれいているので、きちんと貼れば上手くいくかもしれません。」
「はっ!?」
俺が綾乃の言葉に驚嘆していたら、綾乃が引き出しをあさり始め・・・木工用ボンドを取り出した。
いや、それはダメだろ!
ボンドに熱を加えたら、普通に考えて溶けるだろ!
いやいや、その前に、それ木工用だし!
そうだった、こいつ・・・家事能力、皆無だった・・・。
結局。
フライパンは綾乃を説得して、捨てた。
勿論、炭化したウインナーも。
焦げた臭いがたまらなくて、換気扇を回しっぱなしにしたまま、俺達は『みのり』に飯を食いに行った。
もう、昼飯の時間だ。
『みのり』は今日から店を開けているはずだ。
「・・・・・・・。」
店の戸を開けた途端、物凄い後悔が俺を襲った。
何で、いやがるんだ、ここに。
「・・・・・・・。」
麦とろ定食を食っていたクソジジイも、何とも言えない顔で無言だった。
「ジョージ、どうした?そんなとこに突っ立ってないで、入れよ。あ、綾乃ちゃん!元日ぶりだね、改めて今年もよろしくね?」
シュウが入口に立ちつくす俺に怪訝そうな顔を向けたが、綾乃を見るなり満面の笑みで新年の挨拶をした。
つうか、1日に魚富士で会って挨拶しただろうがっ。
しかも、俺よりも綾乃、という態度をしやがって!
と、いつもなら、ムカッとするのだが。
今は、そんな事よりも――
目の前のクソジジイをどう対処していいかわからなくて、俺は踵を返した。
「綾乃、店変えるぞ。」
だけど。
ガシリと、腕をつかまれ。
「クソガキ。話がある。奥の座敷に来い。」
どうやらこのまま、サシで話をするらしい。
はあ。
こんなことなら、綾乃の炭ウインナー食ってればよかったぞ。
いや、食えねぇけど。




