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24、罪

俺は・・・綾乃の芯の強さというものを目の当たりにして、今更ながらかなわねぇと思った。

いつも、面倒くさがりでボーッとしている綾乃を、放っておけない、俺がいないとダメなんだと思っていたが。

それは、とんでもない思い上がりだった。


もう、ダメなのは・・・俺だ。

綾乃がいないと、ダメなのは、俺だ――




「失礼ですが、浜田さんのお父様は、殺人未遂で前科1犯でしたね?」


木島が放った言葉に、広瀬のジジイも、青山のジジイも、戸田のジジイも・・・そして、俺さえも息を飲んだのに――


「それが、どうかしましたか?」


静かな声で、綾乃が応えた。

静かではあったが、その声は凛としていた。


まさか切り札だと思っていたであろう自分の言葉に対して、動揺もみせない綾乃の応対が信じられないという表情を、木島が見せた。

だから。


「そ、それが、どうしたって・・・あーちゃんっ!?君は正気でそんな事を言っているのかっ!?」


木島の方こそ、感情があらわになった。


「落ち着いて下さい。私は自分の心で、丈治を選んだのです。そして、今とても幸せです。浜田の父も私は大好きです。前科の話は結婚の前に、直接浜田の父から聞いていました。でも私は、浜田の父が、理由もなくそんな事をする人だとは思いません。それに、刑期を終えて罪を償っています。あえて、いまとりあげる話ではないと思いますが?」


淡々と、でも、しっかりと木島の目を見つめて綾乃は言葉を発した。

たじろぐ、木島。

だが。


「そうは言っても、人を殺そうとしたことには変わりはない。それに、氷室家の人間として、あーちゃんにはつりあう相手じゃ・・・いや、家柄じゃないだろう?もう少し、氷室家の人間として分別を持つべきだ。」


木島の言っている事は、かなり融通がきかねぇ事だと思いがちだが。

だけど、俺は世間というものを知っている。

この街じゃ、クソジジイは繁華街を仕切っているような立場で、誰も何も言わねぇが。

まっとうな世間じゃ、これが当たり前の反応だ。

実際、俺はずっとその事で悩んできた。


いくら俺が頑張ろうとも、必ずクソジジイや母ちゃんの事は俺の後ろについてくるわけで――


俺が唇をかみしめていると、突然、クソジジイが口を開いた。


「・・・木島さんっておっしゃいましたね?確かに、俺の経歴はおっしゃるとおりです。消そうと思っても消える罪ではないです。だけど・・・綾乃ちゃんのご両親にはきちんと俺の口から真実をお話して、結婚を許してもらっています。丈治は、俺なんかと違って、まっとうな男です。親の口から言うのもなんですが、才能もあります。綾乃ちゃんも大事にしています。俺の事が問題といわれるのなら、俺は丈治と縁を切って、2度と姿を現しませ――「浜パパッ!!そんな悲しいこと言うのなら、私もう絶交しますっ!!」


クソジジイが、木島に向かって真剣な様子で話をしていたが、それを綾乃が遮った。

そして、俺の横からクソジジイの所へ駆け寄り、あろうことか綾乃がクソジジイに抱きついた。


「おいっ!」


俺の批難の声も聞いちゃいねぇ。


「私、本当に丈治と結婚して、この街にきて・・・幸せなんです。でも、浜パパもいるからより幸せなんです。ずっと、皆で幸せに暮らしたいです。私、ずっと今まで1人ぼっちでさびしかったのですが・・・ここへ来てからは本当に楽しくて・・・それに、蟹鍋また食べたいです・・・蟹の殻むき、浜パパが一番上手です。」


やっぱ、綾乃だ。

狙ってねぇだろうし、真剣に物を言っているんだろうが。

蟹の殻むきと言った瞬間に、3人のジジイが噴き出した。

クソジジイは、困った顔をして綾乃を抱きとめてやがる。

俺としては、もう限界だ。


「エロジジイ、いつまでくっついているんだよっ。いいかげん、返せや。」


強引に綾乃を引っ張って、俺の腕の中に戻した。

そして、俺は木島に改めて向き直った。


「綾乃のご両親にはきっちり承諾をもらったうえで、結婚したんだ。保証人には、綾乃の母親になってもらっている。それに俺達は立派に成人している。とやかく言われる筋合いはない。これ以上話をすることもない、帰ってくれ。」


かなりの、殺気をこめてそう言い放った。

木島は青ざめた表情で、今日はこれでしつれいしますと告げ、立ち上がった。


「タカちゃん・・・まさか、あなたが家柄とか、つりあうとか、分別、なんて言うと思わなかったです・・・もう、私の知っているタカちゃんではないのですね。」


綾乃が、俯きながらぽつりとそう言った。

木島は、綾乃の言葉に口を歪めると。


「子供の頃のままの気持ちでいられるのなら、一番いいけれど。それじゃぁ、何も幸せはつかめないんだよ、特に、俺みたいに何もない男には。あーちゃん・・・。」


静かにそう言った。

その時、青山のクソジジイが突然、名刺を木島に差し出した。


「青山流、家元、青山華清あおやまかしんだ。丈治の親父とは友人だ。何か文句があるなら、俺に言えよ。」


青山のジジイの突然の行動と言葉に、木島が戸惑いを見せた。


まあ、本来の姿を示したからな、結構な迫力がある。


「いえ、ご友人とおっしゃいましても、これは、浜田さんの事ですから・・・。」


そりゃそうだろう、クソジジイの犯した罪の事を言っているんだし、いくら名のある青山のジジイがしゃしゃり出てきたってそれとこれは別の話だし。


と、思っていたのだが。

俺は、次の言葉に固まった。


「あ?浜田には、借りがあんだよ・・・浜田があん時ヤってなかったら・・・きっと、俺がヤってたからな――」


ずっと、クソジジイのくだらねぇ行いだと思っていた事は。

俺が知らなかっただけで、何か事情があったんだと・・・今更ながら、気がついた。




―――私は。浜田の父が、理由もなくそんな事をする人だとは思いません―――


綾乃、さっきそう言ったよな・・・。





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