23、話
「改めまして、氷室家の顧問弁護士の木島孝と申します。氷室家は、綾乃さんの母上のご実家になります。ご実家は、氷室製薬を経営しております。」
席に案内された途端、そう言って木島は慇懃無礼に名刺を差し出した。
俺と、広瀬のジジイと、戸田のジジイ、青山のジイイに。
まあ、3人のジジイどもの素性はわかってるってことだな。
はあ、面倒だな。
だけど。
俺は、背筋を伸ばした。
「綾乃の夫の、浜田丈治といいます。」
そういって、頭を下げた。
お嬢の綾乃に、恥じかかせちゃなんねぇからな。
3人のジジイどもは何も言わず、そんな俺を見ていた。
通されたのは、窓側の席ではなく、奥のビップ席だ。
ここから外は見えないが、他の席からも見えない。
広めのスペースがとってあり、込み入った話をするにはもってこいの席だ。
クソジジイが俺達をチラリと見て、この席に案内しやがった。
いちいちその察しの良さが、鼻につきやがる。
「え、と・・・丈治、私・・・広瀬さんは先ほど紹介していただいたのですが、こちらのお2人は・・・前に偶然お目にかかりましたけど、お名前は存じ上げなくて・・・。」
綾乃が戸惑ったように、袴ジジイ2人を見た。
ほっとけと言おうと思ったが、すかさず。
「あー、綾乃ちゃん!俺のこと気にしてくれてたんだぁ?嬉しいなぁ。おじさんはねぇ、丈治のパパのお友達でねぇ、カッシーっていうんだぁ。よろしくねっ!」
「あっ、華清、お前ばっかずりぃぞっ。綾乃ちゃん、久し振りっ!!俺も丈治パパのお友達でっ、マコちゃんって呼んでねっ。綾乃ちゃんともお友達になりたいなぁ。」
「綾乃、アホは無視しろ。」
俺が呆れ返ってそう言うと、袴2人が打って変わった口調で反撃してきた。
「うるせぇっ、丈治!お前に言ってねぇダろうがっ!」
「丈治っ、お前、俺達にそんなデケェ口よくたたけるじゃねぇかっ?あぁっ!?」
まったく、うるせぇジジイどもだ・・・。
これ以上口を開くとますます面倒になると思い、一旦口を閉じたが。
「青山っ、戸田っ、うるせぇっ。出入り禁止にすっぞ?」
樽酒を、上手い具合にデキャンタに移し替え、江戸切子の綺麗なビールグラスと今日ふるまった桝も一緒に運んできたクソジジイが、ドスのきいた声でそう言った。
途端に、袴2人が静かになった。
だけど、広瀬のジジイが空気を読まず、マイペースで言葉を続けた。
「綾乃ちゃーん、青山も戸田もニックネームで呼ぶなら俺もー。松ちゃんって呼んでねー?」
で、案の定。
「広瀬、お前も帰りたいのか?」
クソジジイのドスのきいた声で、口を閉じた。
ビップ席がシン、とした。
でも、すぐに。
「えっ・・・うわぁ、嬉しいですぅ。浜パパ、ありがとうございますぅ。」
綾乃が、上機嫌に嬉しそうな声を出した。
って、やっぱ酒か。
クソジジイが、さっきの桝の中に江戸切子のビールグラスを入れ、そこへデキャンタを傾けたのだ。
綾乃の一番好きな、冷酒の飲み方だ。
喜んでいる綾乃を見て、俺も俺もとジジイどもも同じように酒をついでもらっている。
でも、さすがに木島まではそうではなくて。
「ウーロン茶を頂けますか?・・・それから、浜田ジョーさんも同席していただけますか?氷室家からの伝達事項がございますので。」
場違いな、冷たい声を放った。
やはり、氷室家の方は俺と綾乃の結婚に対し、反対だった。
今からでも別れて、芦屋の氷室の方にもどるようにと、昨日の婆さんのお達しだそうで。
はあ・・・俺のこと全否定じゃねぇか。
しかも。
一番俺の弱いところを、突きやがって。
「失礼ですが、浜田さんのお父様は、殺人未遂で前科1犯でしたね?」
やっぱ、クソジジイ・・・。
あんたは、俺の幸せまで壊すのか?




