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2、甘


難しいかもしれないと思っていた綾乃の両親の結婚の許可が、意外にもすんなりともらえた。

何でも、親父さんが俺の全CDをもっている程ファンだったらしく、自己紹介も楽だった。

俺の両親が結婚をしていない事も、クソジジイに前科がある事も正直に話したが、綾乃に対する気持ちは誰にも負けない必ず幸せにすると必死で訴えた。

その気持ちが通じたのか、俺を信じるという親父さんのありがたい言葉をもらった。

その上、結婚式も俺達にまかせると言ってくれた。

ハッキリ言って、もっと何か言われるかと思ったのだが、あっさりとしたもんで拍子抜けしたのが本当の気持ちだ。


綾乃の両親は本当に忙しいらしく親父さんは無理して帰国してくれたようで、グランドヒロセ銀座で昼食を済ませると、トンボがえりするらしくそのまま空港へ向かった。

お袋さんも同じように、東京駅へ向かった。

帰り際、綾乃をよろしく頼むと涙ぐまれたが・・・。



ホテルの前で2人を見送ると、ホッとして俺は綾乃に話しかけた。


「とりあえず、どうすっか?まだ昼飯食ったばかりだしな、せっかく銀座まで出てきたんだし・・・。」


そういえば、俺達デートらしいデートもろくにしていないよな。

俺の問いかけに、綾乃が考え込むようなそぶりを見せた。


ん?どこか行きてぇのか?


そう思って、綾乃の言葉を待った。

だが、期待した俺がバカだった。


「お家に帰りたいです・・・。」


「あ?」


何だと?


ちょっと、キレそうになった。

何でだよ?デートしたいって思ってるのは俺だけかよ・・・。

心の中で、急激に不満が膨らむ。

確かに、俺が一方的に綾乃にベタ惚れなのは認めるが。


チラリと綾乃を見ると、眠そうな顔をしている。


だけど、そりゃねぇだろ?

昨日は俺達会わなかったんだぞ?


そう不満に思いながらも、綾乃の顔を見ると本当に、眠そうだ。


「眠いのか?・・・昨日あんま、寝てねぇのか?」


すると、綾乃が俺の腕に自分の腕をからめ、肩にポスンと顔をうずめた。


ドキン!とする。


前まではこいつはこんな事を自分からしなかったが、最近は甘えるようになったのか。

眠くなると、こんなことをする。


ま、まぁ。

嬉しいけど・・・。


つうか。


滅茶苦茶嬉しいけどっ!!


「・・・はい。来週から、夏休みの受験対策講習会が始まりますので、昨日は各講師に作成を任せていた資料の最終チェックをしていたんです。でも、結構ミスが見つかって・・・結局・・・徹夜になってしまって・・・直接ここに来たんです・・・だから―――「ああっ!?お前っ、何でそれ、早く言わねぇンだよっ!?帰るぞっ!!」


確かに、化粧してっけど、目の下にうっすら隈が見える。


無理したんだな・・・。


俺は綾乃が絡めた腕を外し、肩を抱き寄せると、地下の駐車場へと足を向けた。


エレベータから降り、駐車してある場所まで早く行こうと地下2階のエレベーターホールから出ようとした時。


突然、綾乃は足を止め、俺を見上げた。


その眠そうな顔・・・。

め、滅茶苦茶可愛いじゃねぇかっ!!


「丈治。」


「あ?」


「どっちに、帰るつもりですか?」


「・・・お前は、どっちがいいんだ?」


「私の、希望を聞いてもらえるんですか?」


まあ、横浜へ帰るつっても、却下だけどな。


「言ってみろよ。」


たまにはお前の口から、横須賀に泊まりたいって言わせてぇし。


「・・・どちらでも、いいです。」


んだよ、それ。

眠くて、考えるのが面倒くせぇんだろ。

はあ、しょうがねぇな・・・。


「だったら、俺ん――「でも、丈治に腕枕して欲しいです。というより、腕枕がないともう、ぐっすり眠れません。」


「・・・・・・。」


な、何だと?今、何つった!?

つうかっ。

もう、こいつっ!!!


「じょ、丈治!?」


いきなり抱きしめられて驚きの声を出す綾乃。


もう、可愛すぎて・・・キスしてぇ。


「俺がいねぇと、ぐっすり眠れねぇのか?」


「はい・・・早く、丈治のおうちに引っ越したいです。」


はあぁぁ、期待以上の言葉じゃねぇか。


「じゃあ、来週にすっか?引っ越し。」


善は急げだもんな。


「あ、私・・・塾の特別講習キャンプで、来週末は、奥多摩に泊まりです。」


「・・・・・・。」


はあ。

しょうがねぇなぁ・・・。


「・・・・丈治、早く丈治と一緒に住みたいです。」


「・・・・・・・。」


こいつ・・・絶対に、企んでいるだろ!


「丈治・・・私、丈治の腕枕がないと、もう――「ああっ、もうっ。しょうがねぇなぁ!来週、勝手に引っ越し俺がやっていいんだな!?」


「よろしく、お願いします!」


「・・・・・・・・・。」


結局、こうなるんだよな。

まあ、どっちにしたって、綾乃がいても片づけに何の役にも立たないだろうし。

それよりも、さ来週から帰るところは1つで、俺達の家になるんだよな。


ま、まあ?


引っ越し作業はしょうがねぇけど、それは・・・滅茶苦茶嬉しい事で。

想像しただけで、テンションが上がる。


チュッと、俺は綾乃の唇にキスをして、抱きしめていた腕をほどいた。

そして、手をつなぐ。


「俺んち帰るか。腕枕してやっから。夜は何食うんだ?」


そう言って、車にむかって歩き出す。


そう、まだ俺んち。

だけど、すぐに。



俺達の家になる――





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