18、座
目を覚ますと、腕の中に綾乃がいなかった。
今日は、1月2日。
慌てて飛び起きると。
どうやら、シャワーを浴びているらしい。
まだ朝の8時だぞ?
昨日は夜2人でゆっくり飲んで、久し振りに2人っきりの時間だったから、ゆっくり色々話をしたり・・・まあ、その後は・・・じっくり、姫はじめとか?
寝たの結構遅かったじゃねぇか。
完全に休みなのに、こんなに早くシャワーを浴びるって、普段の綾乃じゃありえねぇ。
どうしたんだよ?
とりあえず綾乃がシャワーを浴び終わるのを待つつもりで、コーヒーを用意する。
って、俺も結構寝不足だぞ?
コーヒーの缶を開けながら、あくびが出た。
大晦日に、日本音楽祭に出演し。
都内のホテルに泊まろうと言う俺の提案を、綾乃がきっぱり断り。
横須賀に帰ってきたのは、元旦朝方の4時頃。
家に着くなり、ブーツを脱ぎながら眠りそうになっている綾乃をかかえ、シャワーを大急ぎで浴びてベッドに入った。
俺も疲れからか、睡魔に襲われすぐに綾乃を抱きしめながら眠ってしまった。
だけど。
眠って3時間くれぇで、空気を読まねぇヤツから電話で叩き起こされた。
つまりは、お節料理を食べに来いと、ババアからの誘いで。
綾乃とゆっくり正月の朝寝を楽しもうと思っていたのに、お節料理に綾乃が食いついた。
テキパキとシャワーを浴びて、着替えやがった。
って、お前上機嫌だな。
はあ。
まあ・・・。
お前が、そんなに嬉しい顔すんなら、いいけどよ。
魚富士は、相変わらずクソ狭ぇと思った。
つうか。
6畳の部屋に、ババア、ノリオ、ヤスオ、浮気亭主、ケイタ、シュウ、そしてクソジジイ。
オイ、俺らの座るスペースあんのか?
「ほらっ、早く座んなっ。おとそ飲むよっ。」
「はいっ。」
おとそって・・・酒か・・・。
綾乃がここにも食いついて、俺の手を引っ張り、ぎゅうぎゅう詰めの居間に割り込んだ。
って、どこに座んだよっ?
やっと、1人座れるくらいのスペースじゃねぇかっ。
いや、別々に座れば座れねぇこともねぇけどよ。
つうかっ。
「ケイタッ、てめぇ、むこう行けや。」
綾乃と離れて座るなんてありえねぇし。
だけど、ケイタはガンとして譲らず。
「後から来て、何言ってんだっ。あ、綾乃ちゃんはここでいいから、なっ。今年もよろしくなー。」
って、やっぱケイタ、綾乃狙いじゃねぇかよっ。
冗談じゃねぇ、綾乃をケイタの隣なんて座らせられるかっ。
眉間にしわを寄せ、グッ、とケイタを睨みつけた。
って、俺がこんなにヤキモキしてんのに。
綾乃はのんきに、早く座ろうなんて言いやがって。
「あ?お前、お節料理が食べたいからって、俺と離れて座ってもいいのかよっ?」
自分でも大概、バカなちっせいことを言っている自覚はあるが。
だけどよ、綾乃の横に俺が座れねぇのは、我慢できねぇんだよっ。
クソジジイが肩を震わせてたって、シュウやヤスオが噴き出したって。
そんなんかまってらんねぇ。
ケイタが向こうに行けばすむことじゃねぇか。
「あー、でも。ケイタさん、シュウさんと久し振りなんですよね?じゃあ、隣でお話したいですよねー?」
綾乃が並んで座っているケイタとシュウを見比べながらそう言った。
「あ?じゃあ、俺達が別々に座んのかよ?」
不機嫌な声が出た・・・って、当たり前だろ。
だけど、綾乃はそんな事を気にするわけでもなく、少し首をかしげると、俺にケイタの隣に座れと言った。
じゃあ、綾乃は向こう・・・浮気亭主の横か?
って、浮気亭主、嬉しそうな顔すんじゃねぇよっ!
俺は、無理、と言い張ったが。
綾乃が。
「大丈夫です。丈治と離れませんから。」
と言い張り、無理矢理座らされた。
無理矢理が気に入らなくて、綾乃を睨んだが。
「・・・・・・・。」
その、睨みが・・・すぐに緩んだ、と自覚した。
何故なら、綾乃が。
座った俺の脚の間に座ってきたからで。
「私、此処に座りたいのですが、ダメですか?」
ダ、ダメなわけないだろっ!!
正月早々、俺は上機嫌になった。
まあ、周りからは冷やかされたが・・・そんなこたぁ関係ねぇ。
綾乃の気持ちは、すげぇ良くわかったし。
つまり、俺と片時も離れていたくねぇって、ことで。
ふ。
まあ?
俺も。
そうだけど?
「あちっ!!」
昨日の綾乃の行動を思い出してボーっとしていたら、コーヒーに指を入れてしまった。
まったく綾乃の可愛さは、回想だけでも凶器だ。
俺をこれ以上、どうする気だよ?
まあ、これは。
アレだな?
無駄に可愛さを振りまいて、俺を翻弄させたって罪で。
朝だけど。
お仕置きだな・・・。
さて。
どうするかな。
シャワーを浴び終えたらしく、バスルームのドアが開く音が聞こえ、俺は胸を躍らせた。
まずは、俺の足の間に座ったアレ、すげぇよかったから・・・まずは、座っての体位か?
ククッ・・・まいったな・・・。
俺、寝不足なんだけど?
とりあえず、コーヒーをごくりと飲んだ――




