17、蟹
芋洗い状態とは、こういうものなんだと思った。
ババアんちの6畳の居間に・・・いや6畳といっても、テレビといつ買ったんだよって突っ込みたくなる程年代もんの茶箪笥があるから、もっと狭ぇけど。
そこに、ババア、さっさと座りやがったノリオ、仕事が休みのヤスオ、浮気亭主、んで何でいるんだかわかんねぇけどクソジジイと、ケイタまでいやがる。
しかも、ババアとヤスオ、クソジジイ、ケイタがデカいから、妙な圧迫感がある。
しかも今日は、こんな貧乏くせぇ居間に不釣り合いな、蟹鍋なんかやってやがる。
「ジョージ!いいところに帰ってきたねっ。ほら、あんたも早く食べなっ。今日は綾乃ちゃんが休みだっていうんで、浜田さんが蟹鍋しようって一昨日北海道に連絡して、蟹を送ってもらったんだ。今朝着いたんだよっ。」
ババアが蟹の足を大量に鍋にぶっこみながら、俺に笑顔を向けてきた。
「綾乃ちゃん、蟹好きだってこの間言ってたからな。ほら、綾乃ちゃん、新しいのむいたぞ?」
クソジジイが笑顔で、器用に殻から蟹の身を出して綾乃に見せる。
って、てめぇ、そんなキャラじゃねぇだろっ。
だけど、俺に抱きついていた綾乃が、すげえ嬉しそうな顔でクソジジイの横の空いていたスペース・・・多分今まで座っていたんだろう・・・に素早く座った。
え。
俺より、蟹か?
「ありがとうございますー。ふふっ・・・私、蟹好きなんですけど、殻から出すのが面倒で・・・あまり食べないんです。でも、浜パパが一緒だと美味しく食べられますー。」
な、何だとっ。
色々言いたい事はあるがっ。
「浜パパって、何だよっ。」
それが一番納得いかねぇ!!
そんな俺の考えをお見通しなのか、クソジジイが俺を見てニヤリと笑った。
「え、だって。浜田さんって、『お父さん』って感じじゃないですし。パパだと、うちのパパと混乱してしまうので・・・『ジョーパパ』でもいいのですが、丈治と紛らわしいし・・・だから、『浜パパ』にしました。いつまでも浜田さんでは、他人行儀ですし。」
「他人だろっ。『クソジジイ』で充分だろっ。」
俺がそう言うと、綾乃が眉をひそめた。
あ・・・このパターンはマズい・・・。
「丈治、今のは――「あっ、ジョ、ジョージ!クソッ、クソッッ!!したかったんだろっ!?あ、あんな急ぎ足でっ、べ、べ、べ、便所!!って腹抑えて、い、言ってたもんなっ!!」
綾乃が厳しい口調で言いかけた言葉を、ノリオが『クソジジイ』ワードで俺が便所へ急いでいたことを思い出したらしく、突然遮った。
途端にケイタが笑う。
「お前、腹いてぇのかッ!?早く便所行ってこいよっ!」
うるせぇよっ。
「やだよ、この子はっ。おご馳走の前で品がないねぇ。ジョージ!済ませたら、ちゃんと消臭スプレーしておくれよっ!!」
品がねぇのはババアだろっ。
「ククッ・・・クソガキ、とりあえず便所行けや。」
クソジジイは俺の行動がわかったのだろう、目に涙をためて肩を震わせている。
そりゃそうだ。
ガキの頃から腹なんかこわしたことがねぇのを、クソジジイは知っているからな。
ギロリとガンだけつけて、仕方がなく便所へ向かう。
はあ。
俺、何やってんだ・・・。
仕方がないから用を足して(小だ!)、便所を出る。
と、目の前には心配そうなカマキリ・・・いや、綾乃。
「丈治、大丈夫ですか?」
何だよ、蟹好きなのに心配して待っててくれたのか?
そうだよな。
やっぱ。
蟹より俺だよな・・・。
「大丈夫だ。心配掛けてごめんな?」
綾乃を抱き寄せる。
綾乃も俺の背中に手を回す。
ちゅ。
はあぁぁぁぁ。
やっぱ。
カマキリジャージだろうが、何だろうが。
綾乃は可愛い。
たまんねぇな・・・。
「愛してる。」
自然と口から想いがこぼれた。
綾乃が嬉しそうに俺の胸に顔をうずめ、スリスリとする。
甘えてんだな・・・可愛いじゃねぇか。
このまま家に帰りてぇけど、綾乃が蟹食いたいだろうし・・・仕方ねぇか。
俺は仕方がなく、芋洗い状態の中へ戻る事にした。
「丈治、本当に大丈夫ですか?」
綾乃が、もう一度心配そうに俺をうかがった。
「おう、大丈夫だ。」
そう答えると、綾乃はホッとした表情を見せた。
本当に、俺の事を心配してくれてるんだな・・・。
心の中が温かくなる。
だけど。
やっぱ、綾乃は綾乃で。
「よかったですー。今、浜パパが帰ってしまって・・・丈治の具合が悪いのならお願いできませんが、調子が良くなったのなら、蟹むいてくださいー。」
え。
何だ、それ。
綾乃が俺の胸に顔をうずめ、スリスリ・・・いや、嬉しいけど?
だけど・・・。
やっぱ。
やっぱ。
やっぱ。
俺より、蟹かよっっ!?
関東の小学校の入学試験時期についてご指摘があり、実際の時期とズレがあります。これは完全に、私の認識不足です。大変申し訳ありません。ただ、作中の時期を変更しますとストーリーがつながらなくなりますので、初めの設定どおり続けさせていただきます。ご理解いただけましたら、ありがたいですm(__)m




