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16、急

くそう、結局こうなるんだよな。

日本音楽祭の出演を決めたことで、打合せとリハがガッツリ入って。

今日は日曜日で、久し振りに綾乃が休みだってのに。


すげぇ急いで、横須賀に帰ってきたのは、17時過ぎ。


はあ、夕飯は一緒に食えるか・・・。

いや。

まてよ?

その前に、綾乃を食うかな。

ここんとこ忙しくて、1週間御無沙汰だしな。


そう思ったら堪んなくなって。

駅から自宅へ向かう足が早くなる。


もう少しで家だ、 そう思っていたら。


「あっ。ジョ、ジョージ!!」


「・・・・。」


今のは、空耳だ。

何も、聞こえていない。

何も、見えいない。

そう自分に言い聞かせて、一層足を早めた。


「ジョージィ!!ま、待ってよー!!」


「・・・・。」


「ジョージってばー!!」


しつこい野郎だな。

今日はお前には用はねぇんだよ。

用があるのは、綾乃だけだっ!!


そう心の中で叫んで、足をさらに早めた。

だけど・・・。


「ジョージッ!!ジョージッッ!!ジョォォォォォジィィィィィィィッッッ!!!!!!!」


はあ・・・クッソ!


俺は、足をとめた。

何故なら駅前商店街の奴らが、一斉に店から飛び出してきたからだ。


そうだった。

ノリオはバカだけど、声だけはデカかったんだった。

確か、横須賀市の大声大会で、小4の時に優勝したんだった。


叫ぶ言葉は自由だったから、ノリオは。


「と、父ちゃん、浮気するなぁぁっっ!!」


って叫んで、優勝した。

つまり、横須賀中にノリオの父ちゃんが浮気している事を、広めたんだな。

ババアに恥じかかせんなって、ゲンコツされてたな。


それを思い出したら、これ以上ノリオを無視して余計な事を叫ばれないようにしないとまずいと、思い返した。

仕方がなく、言い訳をしながら振り返った。


「何だよ。便所に行きたかったんだよっ。」


とりあえず、腹をさすってみる。


「あ、ご、ごめんっ。じゃあ、うちにきてからトイレ行けば、いいいいしっ。」


何でお前んちの便所に行かないといけねぇんだよっ!


キレそうになってそう叫ぼうと思ったが、後が面倒なので。


「いい、うちで使うから。」


そう言うと再び歩き出した俺に、ノリオはとんでもない事を言い出した。


「じゃあ、トト、トイレへ行ったら、は、早くうちにきてよー?きょ、今日はっ、珍しくケイタ君休みみたいで、綾乃ちゃんとずっと、しゃ、しゃべってるから、お、俺つまんないしー。ジョージが来てくれると、お、俺つまんなくないしー。」


俺は、足をとめた。


え。

何だと?

今の会話だと・・・。


「・・・綾乃、『魚富士』にいるのか?」


「うんっ。」


ノリオの嬉しそうな顔を見て俺はゲンナリとした。


どうせ・・・綾乃の事だ。


「・・・ババアが飯にさそったんだろ?」


「あ、あったりーーー!!」


はあぁぁぁ・・・。


俺はため息をつくと体の向きをかえ、『魚富士』に向かって、駈け出した。




クソ狭ぇ玄関に入り。


「綾乃っっ!!」


愛しい嫁の名前を叫ぶと、居間の扉が開き。

そして・・・カマキリのような、キッつい、黄緑色の塊が俺の胸に飛び込んできた。


大好きなシャンプーの香りと。

かすかなババア臭が、俺の鼻をかすめた・・・。



はあ。

勘弁してくれっ!!

いつかの悪夢が・・・。





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