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14、計

東洋テレビ開局60周年記念セレモニーでの俺の演奏は、結構評判になった。


つうか、オープニングで演奏する曲はオリジナルでと依頼があったから、綾乃と出会った頃綾乃を思って作った未発表曲を披露したら、驚いた事にすげぇ反響があって。

急遽、暮れの音楽番組出演のオファーがきた。


げ。

それって、アレだろ。

暮れの一大イベントの、国民的大番組・・・。

6時間の放送枠で、リハーサルもすげぇ念入りにやるってやつだろ?

冗談じゃねぇよ。



「勘弁してくれ。出たくねぇ。暮れと正月は休む。」


夕方事務所に呼ばれ、来るなりその話で、俺はすぐにケイタに断った。


「ああっ!?お前、頭おかしいだろっ!?あの日本音楽祭だぞっ!?何、休むなんて悠長なこと言ってやがるんだっ!?頭腐ってんのかっ!?」


ケイタが、ブチ切れた様子で俺を怒鳴りつけた。


「腐ってねーし。大体人間の頭が腐るか、アホが。」


「アホはお前だろうがっ!!お前にとっちゃ、すげぇオファーなんだぞ!!お前、わかってねぇんだろっ!?」


ケイタは興奮したまま、紙を丸めて俺に投げつけてきた。

ヒョイと避けると、またカッときた様子で。

ガタン、と立ち上がった。


ぷ。

すげぇ、形相。

ウケる。



と、ニヤニヤ笑っていたら、突然ドアが開いた。


「まあまあ、木村君落着いて。」


「そうそう、ちょうど将君が来たから、皆でコーヒーでも飲みながら話そうか。」


会議室でケイタと2人で話をしていたら、船津社長と、船津五郎、瀬野将が入ってきた。

多分、ケイタの怒鳴り声が、外まで聞こえたのだろう。


クソ、多数で説得にかかるつもりだな。


俺は舌打ちをすると、灰皿を引き寄せ、煙草をくわえた。

瀬野将とケイタが嫌な顔をした。

船津兄弟は煙草を吸うので、同じように煙草をくわえた。

瀬野将が、すかさず空気清浄機のスイッチを入れる。


「相変わらず、神経質なヤローだなー?嫁さんは噂によると、ヘビースモーカーだって話じゃねぇか?」


クソジジイがそんなことを言っていたのを、思い出した。

将は俺の言葉に片眉を上げながら、ムッとした顔をした。


「レイの煙草の煙なら、気にならないんだよっ。愛があるかないかの違いだっ。」


まあ、言われてみるとそうか。

綾乃に惚れてっから、何でもやってやりてぇけど。

そうだよな・・・普通に考えたらあんなズボラな女、ドン引き以外の何ものでもねェよな。


「・・・まあ、そうか・・・。」


妙に納得して、つい将の言葉を肯定してしまった。

すると。


「ええっ!?」


阿呆ケイタが、驚愕の表情で俺を見た。


「何だよ、うるせぇな。」


いちいち反応すんな。

ケイタを睨みつける俺を、今度は船津社長がとりなす。


「まあ、アレだ。木村君には最愛の人がいないから、君たちの気持ちは分からないんだよ。紺野君、奥さんは今受験シーズンで忙しいんだろ?で、なかなか休みが取れないから、せめて年末年始はゆっくりしたいということで、スケジュールいれたくないんだな?俺もその気持ちよくわかる。俺も妻や子供たちと一緒に過ごしたいからなぁ。だから、うちの事務所は、家族持ちは正月スケジュール入れないんだよー。」


わかってんじゃねぇか。

だったら――

すかさず断ろうと口を開きかけたが、その前に船津五郎が携帯で話し出した。


「あ、綾乃さん?・・・どうも、船津です。社長の方じゃなくて、俳優の船津五郎です・・・・・・・いや、こちらこそ・・・。」


な、何か。

物凄ぇ、嫌な予感がするぞっ。

だけど、あの船津五郎クセモノだ。

ケイタのアホのように簡単にケリを入れたり、携帯を取り上げたりなんかできねぇ。


呆然としている間に。

どんどん、話が進み。

船津五郎が俺に携帯を差し出してきた。


電話にでたくねぇぇぇーーーー。


俺が電話を受け取るのを渋っていると。


「え、丈治、電話出ないのか?じゃぁ、俺が話していいか?奥さんだろ?ちょっと挨拶もしたいし。」


将がそう言って手を伸ばしてきた。


じょ、じょ、冗談じゃねぇぇぇぇぇっ!!!

将の大ファンの綾乃に、本人の声なんか聞かせられるかっつうのっ。

俺は電話を受け取ると立ち上がり、部屋の隅に行った。


「もしも――『丈治っ!?すごいですっ!!日本音楽祭からのオファーなんてっ。すごいすごいっ!!』


携帯の向こうから、綾乃の興奮した声が聞こえてきた。


「いや、だけど。出るとなったら、年末つぶれっぞ?年越し一緒にできねえぞ?」


そう言った途端、向こうでケイタと将の噴き出す声が聞こえ、睨みつけたが。

次の綾乃の言葉で、呆然となった。


『え、だって。船津社長から、当日会場で皆さんと一緒に関係者席に私も入れてもらえるって聞きましたよ?さっき電話があって。』


な、何だと?


「・・・電話、あったのか?」


嫌な、予感がする・・・。


『はい。今日、そちらの事務所の忘年会なんですって?私も今日午後から本社に来ていて、早い時間に終われるので、是非一緒にって誘って頂いて。丈治も出席だからって言われたのでお言葉に甘える事にしたのですが?』


な、何だと?

じゃあ、これ・・・計画的、ってことか?

固まる俺を余所に。



「おはようございまーす。もう、何で急に忘年会がきまったんですかー?私だって都合があるのに。ドタキャンして、大顰蹙ですよぉ。でも、俺様クール紺野の新妻ハニーちゃん見られるなら、しかたないっかー。」


肉食系女子、志摩アイナがやってきた。

あいかわらずの減らず口だ。


そして。


「おはようさん。何ぃ、紺野君の奥さんどこだね?噂によると、えらい、賢いって言っとったけどぉ。もしかして、氷室さんって、あの氷室秀さんの娘さんかね?」


禿げの政治評論家までやってきた。


何だ、これ。



『あ、丈治。タクシーが来たので、そちらへ向かいますね?ふふっ、楽しみですー。じゃあ、後ほど。』


綾乃の心なしか弾んだ声に、またまた嫌な予感が。



「いやぁ、紺野君の奥さんまでが将君のファンだとは・・・さすがだなぁ、『殿堂入り抱かれたい男NO.1』はー。」


社長の言葉に愕然とする。


綾乃、将がいるからあんなに弾んだ声だったのか?

クソッ。


あまりにも腹が立って、俺は。


「やっぱ、日本音楽祭、出ねぇから。」


そう言ってやった。

てめぇらの、計画に乗ってたまるかよ!


途端に、会議室の空気が凍った。


「いや、こ、紺野君?」


社長の焦った声。


「馬鹿じゃないの?せっかくのチャンスなのに。出たくても出れない人ばっかりなのに。自分の幸運に気がつかないなんて、ホント残念な男よねー。」


志摩アイナが吐き捨てるように言った。

やっぱ、この女、俺は無理だ。


「おまえっ、いい加減にしろよっ。」


ケイタが、怒鳴る。


RRRR――

と、そこへ着信音が響いた。


イラつきながら、メールを開くと。



『言い忘れました。後でもいいと思うのですが。どうしても今伝えたくて。私の『抱かれたい男NO.1』は浜田丈治です・・・じゃなくて、『抱かれたいオンリー1』は丈治です。綾乃』


絵文字も、改行もなく。

見た目、すげぇベタ打ちで、何の色気もねぇメールが届いた。

だけど―――


「・・・・・・・。」



綾乃・・・お前は。

きっと、無計画なんだろうが。



俺を。


どうする気だっっ――――!!!!!





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