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1、瞳


多分、初めて会った時。

その瞳にヤられたんだと思う。

真ん丸で愛らしいが、海の底に心を置いてきちまったような、そんな孤独なをしていた。


そして、次に思ったのは。

こんなくすんだ所に、何で迷い込んできたんだと、不思議に思った。

お前のような上品な女が、この界隈にいるなんて・・・。


上等なナリをして。

清楚で、スラリとした肢体。

鼻筋がとおっていて、品のある口元。


そして、口調はやはり、教養を窺わせる綺麗な話し方で。

俺の周りの腐った環境では、到底お目にかかれない、そんな上等な女だと思った。


そんな女が、うちの店で買い物をしたいと言った。

一体、何を買うのか、こんな店で。

目の前に立つ上等な女が身につけるような、そんな上品なモノなんかねぇのに。


だけど・・・俺は言われるがまま、女を店に招き入れた。




店に入ると女は、少し居心地が悪そうに、そそくさと目についた商品を手にとった・・・って、絶対に似合わねぇだろ、それ。

しかも、ジーンズのサイズは明らかにデカすぎで。

信じらんねぇ、適当にも程がある。

俺はとっさに、シャーベットピンクのシャツと、白のジーンズを女に渡した。


女はその時、明るい品のあるブルーのスーツを着ていて、大人っぽさと上品さが際立っていたから。

それとは正反対のイメージを選んだのだった。


無理矢理、フィッティングスペースに押し込んだ。

だけど。

あんまり静かなんで、一瞬今の女が幻だったんじゃねえかって不安になって。

返事もまたず、カーテンをあけた。


その途端。

俺は・・・完全に、その女に堕ちた。


この女、上品なだけじゃねえ。

物凄く、可愛い。


そして女は、上品で可愛いだけじゃなく。

あり得ないと思うほど面倒くさがりやで、頼りない女だった。

それが、すげぇ、面白くて。

すげぇ、放っておけない気持ちに俺をさせた。


その気持ちは未だに変わることはなくて――




「結婚することになりましたが、このまま別居っていうのは・・・ダメでしょうか?」


突然、朝飯を食いながら、綾乃が恐る恐るあり得ねぇことを俺に言った。


「ああっ?ダメに決まってんだろっ!!今だって、お前と会えねえ時、俺がどんな気持ちか、わかってんのかっ!?」


もう、ダセぇのはわかってっけど、綾乃にぞっこん過ぎて1日だって離れてなんかいられねぇのに。


つうか、こいつ・・・。


「おまえ、単に、引っ越すのが面倒くさいだけだろっ!?」


俺の言葉に必死で首を横に振るが、その前にギクリって顔したな?


はあ・・・。


「ああーーー、しょうがねぇなぁ。俺が荷造りしてやっから。別居とか、言うんじゃねぇよっ。」


俺の言葉を聞いた途端、一転して綾乃の顔が明るくなった。


ホラ、やっぱり面倒くさかったんじゃねえか・・・。


「あ、でも。マンションは処分しないですよ?パパやママがこっちに来た時使うので。結局、私の荷物でいるものだけ運び出せばいいですし。あー、でも・・・ちょっと、家具は買わないといけないのかも。でも・・・・・丈治のマンションはクロゼットが作り付けだから、衣類は段ボールに入れておけば、いいですよね。」


はあ・・・。


新婚生活始めんのに、こいつ家具買うの面倒くせーから、段ボールで代用って・・・いや、これが、綾乃だ。


「はあ・・・任せてくれんなら、家具も俺がそろえる。」


もう・・・何も言うまい。

とりあえず、これで別居が免れるのなら。


本当にこいつ・・・俺がいねぇと、どうなるんだよ?

ほっとけねぇ。

絶対に・・・。







「ふ、ふ、ふ、2人のっ・・・け、結婚が決まったお祝いと~、あ、あ、綾乃ちゃんのっ、か、歓迎ということでー、か、かかかんぱーい!」


いつものアホっぽい口調でノリオがグラスをかざし、声を張り上げた。


今日は土曜日。

綾乃は休みで、昼から俺の地元のダチが綾乃の歓迎会を開いてくれた。


まあ、アホな連中ばかりだが、ガキの頃からの仲間だし。

綾乃が俺のマンションに引っ越して来たからには、これから付き合うこともあるだろうし。

何かと知っておいた方がいいと思って、飲み会を開いてもらった。


場所は、『みのり』。

綾乃と初めて飯を食って、飲んだ店だ。

ここの板前のシュウは、俺の小学校からのツレ。

顔立ちの良さを利用して、女とは遊び放題の女ぐせの悪いやつだ。


綾乃が最初この店に来て、こいつにちょっと見とれたのを見た時、腸が煮えくり返るかと思った。

綾乃がトイレに立った隙に、綾乃に手ぇ出したら殺すぞと凄んで脅しておいた。


俺は体がデカいせいか、腹が立つがあのクソジジイに似たのか、喧嘩じゃ負けたことがねぇ。

俺の剣幕に、シュウがチビりそうな程、ビビった。

絶対に手を出さない、と約束させて、落ち着いた。

そんな俺を見て、シュウは。


「マジか!?マジに、惚れたのか?」


と、信じられない顔をした。


そりゃ、信じられないだろうな。

母ちゃんがあんなふうで、俺がある意味女に対して冷めているのは、こいつが一番知ってるからな。

今迄女とも、体だけの付き合いしかしてこなかったしな。

まあ、色々とうるせーから、地元じゃそういう女も作らなかったし。

あのクソジジイが節操ねぇから、親子どんぶりになりたくなかったってこともあったし。

地元の女のアピが結構ウザかったが、完全無視を貫いていたら、今はもう、だれもアピってこなくなったし。


今日は『みのり』は貸し切りだ。

つうか、休みになっている。

腹がたつが、ここはシュウが板前で店をしきっているが、オーナーは、クソジジイだ。

あのクソジジイは、ここら界隈の店を7店舗ほど持っている。

それも、はやっている店ばかり。

それで充分な生活ができるのに、何故か『TOP OF YOKOSUKA』に勤め続けている。

直接聞いた事はないが、母ちゃんがあの店にはクソジジイの思い入れがあるんだそうで。

まあ、別に関係ないけどな。


奥の座敷に俺と綾乃を入れて、5人がテーブルを囲んだ。

その中には料理を運びこんだシュウもいる。


「俺の嫁さんになる、綾乃だ。宜しく頼むな?」


ダチ達に、一応頭を下げる。


「「「えっ!?」」」


ダチが一斉に、驚きの声を上げた。

その声に驚いた綾乃が、コップ酒をひっくり返した。


「わ、わ、わ・・・・」


焦る綾乃が、お絞りでテーブルを拭くが、案の定畳に酒がこぼれ落ち・・・。


「動くな、綾乃……ったく、しょうがねぇなぁ。」


左腕を綾乃の胴に回しヒョイと持ち上げ、俺の左腿に綾乃の尻を乗せる。

そうして、綾乃が座っていた場所の畳をシュウから受け取ったタオルで拭く。


「す、すみませんっ。」


ショートカットからのぞく項まで赤くし、綾乃は恥ずかしそうに俯いた。

そのしぐさが可愛いのと、艶っぽいのとで、ダチ達が綾乃に思わず見とれた。


腹がたった俺は。


ガンッ――


と、テーブルを蹴った。


ダチ全員が飛び上り、綾乃もビクリとした。


「じょ、丈治?」


「ああ、お前にじゃねぇ。こいつらが、お前を驚かすから、ちょっと、な?」


そう言って。

ビビる綾乃をほぐそうと、俺は髪を撫でながらほほ笑んで見せた。

だけど。


「「「うえぇぇー!?」」」


と、ダチ達の気持ちの悪い雄たけびで、綾乃はますますビビった。






仕切り直して、ダチ達に自己紹介をさせた。


「お、俺、ノリオッ。そ、そこの、魚屋の息子っ。」


ノリオはバカで昔から有名だ。

少し吃音もある。

結局、高校へも行けなかった。

だけど、人懐っこく気のいいやつで、友達思いだ。

バカだけど。

時々『ネイビーブルー』の店番も頼む。



「俺は、ヤスオ。ノリオの双子の弟。『キャバクラチェリー』で、マネージャーやってる。よろしくな?綾乃さん。」


ノリオの双子の弟のヤスオは、母ちゃんの腹ん中で全部ノリオの栄養をとっちまったんじゃねぇかってほど、ノリオとは違う。

まず、頭が切れる。

で、背が160センチしかないノリオに比べて、ヤスオは俺よりは低いが180センチある。

体格もいい。

だから、俺とも中、高とまあそれなりに悪さも一緒に色々やってきたわけで。

とても育ちのいい綾乃には言えないが・・・。


そうだ、腹が立つことに、『キャバクラチェリー』もクソジジイがオーナーだ・・・。



「で、はじめましてじゃないけど。ここの板前のシュウです。最初に、綾乃ちゃんが店に来てくれた時に、ストライクでタイプの女の子だと喜んでいたのに、ジョージに綾乃ちゃんに手をだすなって、言われてさぁ。残念だったよ。でも、これも縁だし、これからよろしくね?何かあったら、何でも相談して?・・・って、ジョージが睨んでるからこれ以上はやめとくけど・・・。」


女ったらしのシュウが、ベラベラと優しい口調で綾乃に話しかけるからイラついた。

しかも、綾乃も綾乃で、そんなシュウの瞳をじっと見つめてやがる。

ムカついて、綾乃をこっちへ向けようとしたその時。


「おーやってるなー。」


そう言って、調子良く入ってきたカフェのマスターと。

ニヤリと笑いながら入ってきた、クソジジイ。


呼んでねぇし!


思わず舌打ちが出た。

だけど―――



「あ、浜田さん!」


綾乃が弾んだ声を出しやがった。

イライラが増す。

その上、可愛い瞳で嬉しそうにクソジジイを見つめやがるから。

俺は今度こそ本当にムカついて・・・綾乃の顔を持ち、無理矢理俺の方へ綾乃の瞳を向けさせた。


確かにダセェ事をしている自覚はある。

だけど、別に構やしねぇ。



クソジジイが喉の奥で、クッ、と笑い。


「相変わらず余裕ねぇなぁ、クソガキ。」


と、言おうが。

ダチ達が爆笑しようが・・・関係ない。




綾乃の可愛い丸いに、俺が映っている事を確認できたから――







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