町のはずれの祠
祠は町のはずれに立っていた。周りに人の姿は見えない。入り口は狭いが通路は奥まで続いており、最奥に何かしらの術式や魔法具が奉られていると思われる。
鈴華と霧奈は祠の前に立ち気を引き締める。霧奈の携えてる細剣がカチャリと音を立てる。
奉られているものが術式であろうと魔法具であろうとそれを狂わせた何かが中にある。万が一を考え二人は戦闘を覚悟していた。
祠の中は細い通路が続いてはいたが一本道で何かが襲ってくる様子もなかった。
しばらく歩くと急に視界が開けた。
丸い部屋の壁にはいくつもの松明が飾られ少し蒸し暑い。今まで歩いてきた道の他に通路は無く、どうやらここが最奥のようだ。そして部屋の中央には腰の高さの台座と祝詞が刻まれた石や木片が乱雑に散らばっている。
「術式、やっぱり崩れてる。これが原因みたいね。」
散らばった石のひとつを手に取り鈴華が口にする。
「直せるのか?」
「うん、基本の術式は残ってるから後は魔力の流れを整えるだけだから私にもできそう。」
そう言うと鈴華は散らばった石や木片を並べ始めた。
何をしているのかさっぱりな霧奈は周囲を警戒しつつ鈴華の邪魔にならないようおとなしくしていた。
「この術式は極夜を安定させるためのものみたいね。それが崩れたから極夜の時間が不安定になって時を繰り返すなんてことになったのね。」
鈴華は手を動かしながら一人で納得した。霧奈は耳に入った言葉を理解することは早々に諦めていた。
一刻ほどで鈴華の手が止まりふぅと息をついた。それに合わせたように術式がほのかに光り起動したことを示した。結局術式が崩れた原因が目の前に現れることはなく修復が完了した。霧奈はほっとしながらどこか物足りなそうに警戒を解いた。
「じゃあ町に戻ろうか。特に他の問題は無さそうだし。」
霧奈が歩き出そうとしたとき地面に違和感を感じた。
地震?違う。地面が盛り上がってきてる?
下に何かいる?
霧奈はとっさに地面を蹴り後ろに跳んだ。
その瞬間霧奈のいた場所の地面が浮き上がり巨大なサソリが姿を現した。その姿は砂漠にいるものとは比較にならない。2mをゆうに越えるその姿が鈴華と霧奈を見下ろした。
「そうか、お前が原因か!」
霧奈は細剣を抜き、鈴華は手を前に差し出し戦闘体制を取った。