ウサギは生まれました
修正予定
未熟な彼の脳は未熟だからゆえに、自らの成長を促進した。
若い彼の体は、大海とも言える記憶の奔流に押し潰され、何度も脳死し再構築が行われる。
押し潰される。再構築する。記憶が甦る。
押し潰される。再構築する。記憶が甦る。
その繰り返しの果てに、未熟だったはずの彼の脳は、その大海を飲み干すように最適化され、脳死する度に許容量を増加させ、記憶の大海を吸収してゆく。
本来、脳というものの記憶領域に限界はない。いくら圧縮し忘れてしまおうとも、書き込まれた情報が全くゼロになるわけではない。
彼の脳は、その一度に刻まれる情報に悲鳴をあげていたが、それに耐えられるようになると一転して情報の飢餓に陥る。
彼は藻掻いた。手足を動かせる。動かし方を知っている。
彼は思考した。ここは、どこか。一体何があったのか。
彼は息をしようとした。その時、明確な死を感じ、気絶した。
その胎児は、胎内で突如として暴れた。
その結果、当然のように破水し、母体に出産を感じさせる。
周囲は出産の準備をする。母子ともに命懸けの行為だ。周囲の男たちは息を飲み、父親と思われる存在は憔悴し老年の助産婦に追い出される。
出産の準備が整い、妊婦がいざと思った、その時。
母親の勘というにもあからさまに、胎児の動きが止まった。あれほど感じていた正の存在がピタリと止まったのだ。
母親は恐怖した。自らの子が失われてしまったのではないかと。もはや、自らの子の産声は聞くことはできないのではないかと。
その不安を助産婦は理解していた。だが、どちらにせよ、胎児を母胎から出さないことには、母体にまで影響を与えてしまう。
老年の助産婦は、皺の寄った顔を叩き気合いを入れ直した。
結論から言って、胎児はするりと産まれた。
それも、何の問題もなく、出産時間にすれば短い方であった。それは安堵を感じると共に、不安の色を強くした。
更に言って、子供は産声を上げなかった。
その顔は静かに寝ているようで、母親の目に涙がたまっていく。
助産婦は懸命に、産まれたての赤子の背を叩いた。
幾回叩いたことだろうか、もう諦めようかと助産婦が思ったとき、赤子は似合わぬ咳を数回し、大きな産声を上げた。
母親と助産婦は目を見開き、外に追い出されていた父親とその他大勢が部屋に雪崩れ込んできた。
呆気に取られていた助産婦は、そのさまに一喝し、男たちは再度叩き出されたのだった。
彼の意識が覚醒したとき、その息苦しさに対して彼は反射的に咳き込んでしまった。
何かつっかえが取れたように彼が感じると同時に、口の中に布のようなものを突っ込まれるのを感じた。
それでも、まだ上手く息ができず、苦しさに声を張り上げた。
するとどうだろう、感嘆の声と何かが崩れ落ちるような音が聞こえ、恐ろしいほどに冷えた声が聞こえる。
口呼吸を行いながら、そっと目を開ける。
そこには、数多くの後足二本で立つウサギが何匹もいた。
そして彼は悟った。ここは記憶にある場所ではないと。




