第9話 病室
目覚めたとき、まず一番最初に目に入ったのは、見知らぬ天井だった。
ゆっくりと体を起こし、辺りを見回す。
どうやらここは病院らしい。
なんで俺、病院になんか――
その時、俺が見たあの光景がフラッシュバックする。
ああ、そうだ、思い出した。
血だまりの中にあった剣菱の死体。
俺はそれを見て倒れたんだ。
「…………」
未だに信じられなかった。
あの光景を現実として受け止める事が出来ない。
夢だったんじゃないかとも思う。
だが、あの時見た光景、吐き気を催す程の血生臭さは、鮮明に俺の脳に焼き付いていた。
「真尋!」
俺のことを呼ぶ声が聞こえ、そちらの方を振り向いてみる。
そこには、叔父さんと叔母さんがいた。
「目が覚めたんだね、よかった……」
叔母さんが、俺に覆いかぶさる。
叔母さんの目の下には、クマが出来ていた。
どうやら、随分と心配させてしまったらしい。
「私は、先生を呼んでくる」
叔父さんはそう言って、病室から出て行った。
「叔母さん、心配掛けましたよね。本当にすみませんでした」
「いいのよ。気にしないで?」
「……はい、ありがとうございます」
「私じゃなくて、夏絵ちゃんにお礼を言ってあげて。あの子、あなたが倒れた時、すぐに病院に連絡してくれたのよ? それに、あなたの事、ずっと見ていてくれたんだから」
「え、本当ですか?」
思わず聞き返してしまう。
「ついさっきまでここにいたのよ。ただ、流石にそのままってわけにもいかないから、一旦家に帰したの」
そうか、夏絵――
退院したら、絶対にお礼を言おう。
それから暫くして、医者がやって来た。
簡単な検査を幾つか受け、異常なしと判断された。
「これなら明日にでも退院できるよ」
「今日退院は出来ないんですか?」
「問題ないと思うけど、一応ね」
「そう、ですか」
本当は、今すぐにでも退院したいのだが、仕方がない。
それから、3人で談笑をしながら、時間を潰す。
叔父さんも叔母さんも、会話中昨日の事件については、一切ふれてこなかった。
知らない筈は無いだろうが、多分、気を使ってくれたんだろう。
本当に、優しい人達だ。
その時、病室のドアがノックされる。
「ああ、私が出るわね。はいはい、どちら様でしょう――え、ちょっと、何なんですかあなた、ちょっと!」
叔母さんがドアを開けると、スーツを来た男が一人、ズカズカと病室に入ってきた。
「前野真尋さん、ですね。私、こういう者です」
男は、胸から警察手帳を取り出す。
「警視庁捜査一課の光田です。どうぞ宜しく」
男はそう言って微笑んだ。