第8話 剣菱
家に帰った後も、剣菱の事が頭から離れなかった。剣菱と喧嘩したのなんて初めてだ。
くそ、剣菱の奴……今思い出しても腹がたつ。
イライラする。ぶん殴ってやりたい。
……いや、落ちつけよ俺。
苅部だって言っていたじゃないか。今俺たちが喧嘩したところで、現在の状況がどうにかなる訳じゃない。
――それにだ、前野真尋。お前にとって、剣菱はそんなに嫌なやつだったか?
……違うだろ。
剣菱は、塞ぎ込んでいたお前を救ってくれた、誰よりも大切な友人だろ?
ああ、そうだ。あいつは俺にとって大切な友人。 いや、親友だ。
あいつは俺に、色々なものを与えてくれた。
自問自答の末、結論にたどり着く。
明日、謝ろう。
謝って、今度は冷静にしっかりと話し合おう。きっと剣菱にも、何か思うところがあったに違いないのだから。
ふと時計を見ると、既に深夜の1時を回っていた。
我ながら、随分と長いこと考えごとをしていたものだ。今日はもう寝よう。
そう考え、ベッドに潜り込んだ。
その時、突然携帯の着信音が鳴り響く。
「誰だよ、こんな時間に」
画面を見て相手を確認する。
――夏絵からだ。一体どうしたのだろう。
「もしもし、どうした夏絵」
『……真尋』
夏絵の声は、震えていた。ときどき、嗚咽の様な音まできこえる。
「……おい、大丈夫か?」
『落ち着いて聞いてね? 小太郎が……小太郎が――』
□
――剣菱が死んだ。
そう聞かされた俺は、すぐに夏絵から聞かされた場所に向かった。
途中、異様な人だかりを見つける。そしてその中には、呆然と立ち尽くす夏絵の姿があった。
「夏絵っ! どういう事だ! 一体、何があったんだ!?」
「分からないの。私には、もう、何も――」
夏絵は焦点の合わない目で答えた。
人だかりを押しのけ、強引に進む。そして、見つける。
血と臓物の海のなか、横たわる五つの死体。
その中の一つ。見覚えのある顔だった。
特徴的なツンツン頭、キリッとした眉の割には幼い瞳――だが、その瞳は既に、光を失っていた。
間違いない。それは、剣菱小太郎。俺の親友だった。
――あ
「うわああああああああああ!!」
地面が揺れる。意識が遠のいていく。
そして俺は、気を失った。