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心鬼 〜シンキ〜  作者: 栗谷
第1章 始動
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第7話 崩壊

 最近、余り眠っていない。学校が終わった後は、すぐに大内を探しに村や町を回っていた。家に帰る頃には、既に深夜であることがほとんどだ。

 だが結局、捜索を始めてから10日以上たったいまでも、なんの手掛かりも掴めていなかった。



 学校での俺たちの会話は、とても少なくなっていた。

 夏絵は目の下にクマをつくり、滅多に笑わなくなってしまった。剣菱も、いつも元気だった姿からは想像も出来ないほど、静かに黙っていることが多くなった。

 苅部は一見いつも通りだが、表情はいつもにも増して暗い気がした。


 放課後、久しぶりにいつものメンバーで集まることにした。最近は控えていたのだが、いったんみんなで話し合ったほうがいいという結論に至ったためである。


 俺の机の周りに、それぞれが椅子を持ち合って集まる。当然、そこに大内の姿はない。

 とはいえすぐに会話が始まるわけでもない。というか、誰も彼もただ黙っているだけだった。

 夕暮れ時の教室は、窓から刺す消えかかりの日光に照らされて紅く染まっていた。いつもであればノスタルジックな気分にさせられるこの雰囲気が、今日に限っては不気味にしか感じられなかった。

 

 「私のせいだ」

 

 そんななか、沈黙を破るように、夏絵が俯きながら呟いた。

 

 「私が遊ぼうなんて言ったから、エレナちゃんは……」


 「なに言ってるんだよ夏絵。お前のせいなわけないだろ」


 突然の夏絵の呟きを、必死になって否定する。

 ああ、このままじゃだめだ。やっぱり、夏絵のやつ弱ってる。これが誰のせいでもないことなんて、それこそ誰にだって分かるはずなのに。

 

 「でも、あの日からなんだよ!? エレナちゃんがいなくなったのは!」


 夏絵が声を荒げた。初めて見る彼女の形相に面喰らってしまい、俺は言葉を詰まらせる。


 「私が、私が……ぁぁぁ」


 そして、遂に耐えきれないといった様子で泣き出してしまう。


 「っ……落ち着けって夏絵! お前のせいじゃない! なあ、剣菱?」

 

 「ああ、全くだね」

 

 「ほら、剣菱もこう言ってるし――」


 「お前のせいだ。夏絵」


 ……え?

 

 「剣菱、お前何言ってんだ」


 剣菱に向き直り、彼に詰め寄る。

 信じられない発言だった。なんでそんなことを言う?


 「何って、当たり前のことを言っただけだろ」

 

 「当たり前って……」

 

 「だってそうだろう! こいつが遊びになんか誘ったりしなけりゃ、こんなことにはならなかったんだ!」


 刹那、夏絵を睨みつけた剣菱が、大きな声でそう叫んだ。

 

 「お前っ……いい加減にしろ!」


 思わず怒鳴り声を上げてしまう。


 「どうしたんだよ剣菱! お前おかしいよ!」


 おかしい――そうだ、あきらかに剣菱はおかしい。

 ただ遊びに誘ったからという、そんな理由で夏絵が攻められるいわれがどこにあるというんだ。


 「おかしいのはお前の方だぜ真尋。どうしてこいつを庇う」


 剣菱は負け時とそう言い返してきた。

 向こうのほうからも詰め寄ってきて、剣菱もまた、いままでに見たことのない険しい表情でにらみ返してきた。

 ――本気だ。剣菱は冗談でこんなことを言う奴じゃない。

 剣菱は本気で、夏絵のせいだと思い込んでいる……!


 ――それに気がついたとたん、ふつふつと怒りが湧いてきた。

 どうしてそんなひどいことが言えるんだ。どうして傷ついている夏絵をさらに責め立てるような真似ができるんだ、お前は……っ!


 「夏絵の事ばかり言ってるけど、お前はどうなんだよ」


 「は? 何がだよ」


 「お前、関係無いって言ってたけど、本当は違うんじゃないのか? 大内と二人で話してただろ」


 そうだ。剣菱はあのとき、帰りのバスに乗るその直前、大内と小さな声で話をしていた。いま考えれば、やはりあれは不自然だ。


 「だ、だから……、関係無いって言ってるだろ」


 「嘘つくなよ!」


 ――関係ない、訳がない。

 あの時の二人は、いつもと雰囲気が全く違ったのだから。


 「嘘なんかついてない」


 「だったら教えてくれよ。あのとき何を話していたんだ」


 「っ……! うるせぇよ!」


 剣菱が俺の胸ぐらにつかみかかる。凄い力で首が絞められた。


 「真尋、お前、いい加減にしないと殺すぞ」


 俺も同じく、剣菱の胸ぐらを掴み返す。


 「上等だ。やってやるよ――」


 「そこまでよ」


 苅部が突然立ち上がり、俺たちの間に割って入ってそう言った。


 「そんな言い争いをしても、なんの解決にもならないでしょう」


 表情こそ変わらないが、その言葉には鬼気迫るものがあった。思わず、互いに俺たちは手を離した。


「くそっ……」


 剣菱はそう呟き、踵を返して教室の出口へ向かっていく。


 「おい、お前どこ行くんだよ」


 「関係ないだろ」


 そしてドアを開き、そのまま出て行ってしまった。

 だが、どうしても剣菱を追いかける気にはなれなかった。



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