第6話 歪み
その日の授業は全くと言っていいほど頭に入らなかった。
朝に室伏から伝えられた大内の話が頭から離れない。
放課後、俺たちは言われた通り、職員室にいる室伏を訪ねた。
「待ってましたよ、3人共。あなた方は土曜日、大内さんと新野町にいたそうですね」
「ええ、4人で遊んでました」
「どんなことでも良いですから、何か変わったこととか、思い当たる節はありませんでしたか?」
「いえ、正直、なにも」
あの日の大内の様子を必死になって思い返してみたが、思い当たる様な節は無かった。
「藤野さんは、何かありませんか?」
「ごめんなさい、なにも……分からないんです……」
夏絵は今にも泣き出しそうだ。
「では、剣菱君は、何かありますか?」
「俺は――」
剣菱は突然、言葉を詰まらせる。
「どうしたんですか? なんでも良いんです。教えてくれませんか?」
「いや、何も知りません」
先程とは打って変わって、剣菱ははっきりとそう答えた。
暫く室伏と話し、教室に戻った頃には、既に6時を回っていた。
教室は人が誰も居らず、俺たち3人だけが残っていた。
だが、どうしても帰る気にはなれない。
俺が自分の椅子に座ると、夏絵と剣菱も近くの椅子にすわった。
朝に3人で話をする時の形だ。
だが、俺たちの間にいつもの様な会話は無かった。
「なあ、剣菱」
「なんだよ」
「お前、あのとき……バス停で大内と何話してたんだ?」
バス停を待っていたとき、大内と剣菱は何か話していたはずだ。
「それは関係ない」
「……そうか」
正直、納得がいかなかった。
だが、剣菱がそう言うのだからそうなのだろう。
これ以上の追求はするべきじゃない。
それからは誰一人話すことなく、沈黙が続いた。
それから更に3日が経ったころ、警察に正式に捜索願が出された。
村でも捜索隊が組まれ、必死の捜索が行われた。
俺たちも勿論大内を探した。
だが、一週間経っても、大内が見つかることはなかった。