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心鬼 〜シンキ〜  作者: 栗谷
第1章 始動
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第4話 新野町

 バスから降りた俺がまず一番最初に感動したのは、地面だった。

 アスファルトで舗装された地面に、思わず涙が流れる。

 ただこれだけで、ここまで感動するとは思わなかった。

 うん。歩きやすい。ビバアスファルト。

 思わず、アスファルトに顔を擦り付ける。


 「お前……なにしてるんだよ……」


 ドン引かれた。

 しかも剣菱に。

 なんだか凄くショックだった。



 ――新野町(にいのちょう)

 木野辺村から比較的近くにある町。町とは言っても、やはり人口はあまり多くない。

 しかし、木野辺村の住人からすれば、ここは大都会のようなものだ。実際、木野辺村に住む若い人は皆、休みの日はこの町に遊びに行く。俺たちもその例に漏れず、今現在こうしてこの町にやって来ているというわけだ。



 「それじゃあ行こっか!」


 「まずはどこへ行くんだ? 夏絵」


 「フードトスガ。この町のレストランだよ」


 レストラン。その名前を聞いたのは随分と久しぶりだ。

 都会に住んでいた頃は、5分歩けば1つ、レストランや食事処があったものだが。


 「トスガはハンバーグがめちゃくちゃうまいんだぜ。真尋」


 「ハンバーグか……いいな」


 思わず唾を飲み込む。

 ただいまの時刻は13時。昼飯を食べるにはちょうどいい時間だ。




 レストランへ向かう途中、この町の学校、新野高校を見つけた。さすがは町の学校といった感じで、木野辺高校とは比べものにならないくらい校舎が大きい。

 木野辺高校が異様に小さいだけ、というのもあるのだが――

 ただでさえ生徒の数が少ないのに、最近では、木野辺高校からこの新野高校へ転校してしまう生徒が増えているのだそうだ。

 このままではいずれ、木野辺高校は廃校になってしまう。

 夏絵は少し寂しそうにそう語った。




 レストラン内は、美味しそうな匂いが漂い、それが俺の胃を刺激する。

 そこそこ賑わっていたが、あまり待つことなく席に着くことが出来た。


 「真尋はなに食べる?」


 夏絵はご機嫌そうに俺に尋ねた。


 「そうだな……やっぱり、剣菱の言ってたハンバーグがいいかな」


 「おっ、真尋お前わかってんじゃん。やっぱレストランといえばハンバーグだぜ」


 それについては同意だ。珍しく意見が合うじゃないか剣菱。


 「じゃあ、私は……このサラダセットだけで良いや」


 「大内、それだけで足りるのか?」


 「うん。なんだかあんまり食欲が無くて……」


 「ははは。誤魔化すなよエレナ。ダイエットだろ? 最近少し太ったもんな。あっ、もしかして、胸が大きくなったのは太ったからか? 絶対そうだブフォ!?」


 俺と大内の会話に割って入り、またもセクハラをかます剣菱に、大内の右肘が炸裂した。

 うわぁ、剣菱のやつ涙目だ……。



 「そういえば、苅部って習い事とかやってるのか?」


 ふと、今日この場に来ていない苅部のことを思い出し、皆に尋ねてみた。


 「ミカはね、一人暮らしなの」


 既に食事を終えた大内が、俺に返事を返す。


 「一人暮らし?」


 「実質ね」


 「……実質?」


 「両親が仕事で忙しいらしくて、滅多に家に帰ってこないんだって」


 「……へぇ」


 確かに一人暮らしならば、たとえ休日と言っても、遊んでいられる余裕はあまりないだろう。

 両親がいない辛さは、痛いほどよく分かる。なんだか、苅部に対して少しだけ親近感を覚えた。




 食事を終えた後は街中を回り尽くした。

 買い物をしたり、カラオケに行って歌ったり――都会にいた時のことを少しだけ思い出した。

 空が赤くなった頃には、皆疲れきっていた。今はバス停のベンチで休憩中だ。

 隣には夏絵が座っている。


 「なあ、夏絵」


 「ん? なに?」


 夏絵は人の目を見て話すひとだった。いまも、まったく気にせず俺の目をまっすぐに見つめてきている。

 夕日に照らされた夏絵の顔があまりにまぶしくて目をそらした。


 「今日はありがとな。すごく楽しかった」


 「別にお礼なんて言わなくていいって! 楽しんでくれて良かったよ」


 夏絵は、微笑みながら俺にそう言った。それが堪らなく、愛おしく感じた。


 「……ていうか、あの二人は何してるんだ?」


 「ずっと話し込んでるけど、どうしたんだろうね」


 剣菱と大内が向こうの方で話していた。何やら真剣な雰囲気だ。

 まさか、マジ喧嘩か?



 耳を澄まして二人の会話を聞いてみる。

 盗み聞きのようで悪い気もしたが、好奇心には勝てなかった。



 ――小太郎くんは……て……よね?

 ああ、もち……だ。俺たち……ろう?




 よく聞き取れない。――まあ、いいか。

 別に喧嘩ってわけでもなさそうだし。


 そして、それからしばらくしたのちにバスが来た。やっぱり無人の貸切状態だ。

 席に座り、窓から空を眺める。夕日が綺麗だった。

 こんな幸せが、いつまでも続けば良いのに。


 ……なんて、そんなことを思っていた。



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