第2話 伝説
大内から聞かされた木野辺村の伝説は、中々衝撃的なものだった。
内容はこうだ。
今から300年程前、木野辺村では人が次々と食い殺されるという、恐ろしい事件が起こっていた。
村人達は、熊や野良犬などの猛獣が人を襲っていると考えていた。
だが、どうも様子がおかしい。
村の名だたる狩人達が結託して猛獣を狩り続けているというのに、全く食人被害は減らない。むしろ、最近になり更に被害者が増えている。
ここまでくれば、猛獣が犯人だとは思えない。
一向になくならない人食い事件。
村は混乱していた。
村人の中には、化け物や悪霊の仕業だと騒ぎたてるものまでいる始末だ。
このままではいずれ村人全員が殺されてしまうのでは。誰もがそう考えていた。
そんなある日、村に3人の男が現れる。
――”鬼狩り”
彼らは自らの事をそう名乗った。
彼らは言う。
「私たちに任せてください。僅か7日間で、全て解決してみせましょう」
村人達は、藁にもすがる思いで彼らを頼った。
正直、半信半疑だった。だが、彼らを頼る以外、残された手はなかったのだ。
そして7日間の時が経った。
それ以来、毎日の様に起こっていた食人事件は、まるで波が去った様に起こることがなくなった。
村人達は鬼狩りを救世主として崇めた。
だが、鬼狩りが村人達の前に姿を表すことはなかった。
そして、村人達の間にこんな噂が流れる様になる。
鬼狩りと名乗った彼らは、神の使いだったのではないか――
そして300年経った今でも、こうして伝説として、彼らの活躍は伝えられている。
……だが、この話はこれで終わらなかった。
事件が解決した後、数人の村人が行方不明になったのだ。
神が事件の解決の代償として攫っていったのか、それとも、ただの偶然だったのか。
それは今でもわからない。
――これが、木野辺村に伝わる伝説。
いやいや。
伝説っていうかこれ、ほぼ怪異譚じゃん! こえーよ!
大内から聞かされたこの怖い話の所為で、今日は一日中授業に集中することが出来なかった。俺は怖がりなのだ。
一緒に話を聞いていた剣菱や夏絵は、ただの伝説だし、本当に起こったことじゃないから気にするなと言っていたが、やっぱり怖いものは怖かった。
そして、放課後。
「やっと学校おわったぁぁ!」
剣菱が大きな声で叫ぶ。
「うるさい耳が腐るから叫ぶな」
大内が小声で呟いた。朝のセクハラの事、まだ怒っているんだろうか。
「もう、エレナちゃん。ちょっと小太郎が可哀想だよ?」
「ああ、夏絵は優しいなぁ……それに比べて、お前はいつまで小さいことで怒ってるんだよ! てか、俺は寧ろ褒めたんだぞ!? 感謝しグェア!」
夏絵に庇われ、調子に乗った剣菱に、遂に大内の鉄拳が炸裂した。顔面グーパンである。めっちゃ痛そう。
そしてそれを、薄っすらと笑いながら見ている苅部。剣菱が弄られているのが楽しいらしい。
まあ、分からなくもないよ。
「まあでも、大内と剣菱って、何だかんだ仲良いよな」
「仲良くない!」
二人は同時に、ハモりながら俺にそう返す。
やっぱ仲良いよ、お前ら。
「皆で町に遊びに行かない?」
放課後、夏絵が突然そう切り出した。
「ほら、みんなで遊ぶことってあんまりないし、真尋も、まだ町の方に行ったことないでしょ?」
そう言われてみれば確かにそうだ。この村に慣れるのに精一杯で、村の外はまだ見れていない。
「いいよ。町の方、行ってみたいし。案内してくれよ?」
「もちろん! それじゃあ、真尋は決定ね。他のみんなはどうする?」
「私もいく〜! 小太郎君が来なければだけどね」
「ざっけんなエレナ! 俺も行くぞ! 意地でも行く!」
剣菱と大内が夫婦漫才をやっている様にしか思えない。
なんだか少しだけ、剣菱が羨ましかった。
「ミカちゃんは、どうする?」
夏絵がうかがう様に聞く。
「ごめんなさい。とっても行きたいのだけれど、用事があるの」
「そっか……残念」
夏絵は、残念そうにしながら俯く。
「また誘ってね? 今度は絶対、行けるから」
苅部はそう言って、慣れない笑顔を浮かべる。その笑顔が、少しだけ寂しく感じた。