第5話 木村智
昼休み。
私の周りには、人だかりが出来ていた。転校生というのはやはり、はじめの内は注目の的になるものだ。
色々なことを聞かれた。
最初は無難に好きな食べ物や映画、漫画のこと。だけど、本当に聞きたいことは多分違うのだろう。
見ていれば分かる。
聞きたいけど、聞きづらい――そんな雰囲気を、皆が醸し出していた。
そして、遂に耐えきれないといった様子で、一人が話を切り出した。
「ねえ、夏絵さんって、木野辺村にいたんでしょ? だったらさ、詳しく教えてよ。あの事件」
一人が言い出せば、後はそれに同調して、皆が堰を切ったように聞いてくる。
「同級生が行方不明になったんだよね?
「そういえば、今朝のニュースで、また人が死んだって言ってたよね!
「怖くなかった?
「犯人っぽい人見たりした?
「何か知らないの?
「ねえ、教えてよ、夏絵さん――
耳を塞ぎたくなった。
やめて。お願いだから、やめて――
「いい加減にしとけよ、お前ら」
突然、一人の少年が現れ、そう言った。その一声で、しゃべり続けていた皆が一斉に黙り込む。
「なによ……あ、あんたには関係ないでしょ」
「確かに関係ないけどさぁ、なんか、見ててイライラすんだよね」
そして、彼は私の方を見る。
「藤野夏絵だっけ? お前もさ、嫌なら嫌って言えよ」
「…………」
「だんまりかよ。つまんねぇな」
少年はそう言うと、そのまま教室から出て行った。
「あー、なんかゴメンね。夏絵さん。あいつ、いつもあんな調子でね、みんなから嫌われてるの」
「ねえ、あの人の名前って、なんていうの?」
「え? あいつの名前? あいつは木村智っていうんだけど……まあ、あんな奴ほっといてさ、話の続きを――」
木村智――そっか、さっきの彼、智っていうんだ。
放課後。ホームルームが終わり、皆がぞろぞろと家に帰っていく。
木村智の机は既に空席だった。
窓から外を見てみる。
……いた。木村智が、小さくだが見える。
「ねえ、夏絵さん! これから私たちトスガに行くんだけど、夏絵さんも行かない?」
「ごめんなさい、私、用事があるから……それじゃあ、また明日!」
少女からの誘いを断り、外に出る。そして、木村智を追いかけた。