第3話 2年B組
校長先生の話は、予想よりもなんだか軽いものだった。
好きな色とか趣味とか、そういう話ばかり。
これじゃあ、ほぼ雑談だ。
その上、校長先生は中々の聞き上手らしく、気がつけば結構な時間話し込んでしまっていた。
誰かとこんな風に話したのは、随分と久しぶりな気がする。
まだみんながいた頃。
まだ何も、おかしくなってなかった頃。
それ以来だ。
「元気、出たかい?」
「え?」
校長先生が、突然そう言った。
「少し、元気がなさそうに見えてね。いや、余計なお世話だったか」
見透かされていた。
流石、校長という役職に就いているだけのことはある。
でも実際、校長先生と話して、気が少し楽になった。
きっとこの人は、とても優しい人なんだろう。
そう思った。
「ここが貴女のクラス――2年B組です」
校長室を後にした私は、堀川先生に連れられ、自分の新しいクラスの前にいた。
教室の中は、既に生徒でいっぱいだった。
今更になって、緊張感が私を襲う。
「私がまず中で、藤野さんのこと呼びますから。そしたら教室に入って来てください」
堀川先生はそう言って、教室に入っていく。
「はい、皆さん注目!」
先ほどまでざわついていた教室内が、一瞬にして静かになる。
「皆、もう知ってると思うけど、今日は転校生の子が来ています。それでは藤野さん、入ってきてください」
ああ、どうしよう。
震えてきた。
覚悟を決め、教室のドアに手をかける。
そして、教室の中に入り、クラスメイト達の前に立つ。
……凄い人数だ。
二十人近くいるよね、これ。
木野辺高校は、この半分の人数しか居なかった。
「藤野さん、自己紹介をお願いします」
クラスメイトの人数の多さに圧倒されかけたが、なんとか気を入れ直し、しっかりと前を見据えた。
「皆さん、おはようございます。木野辺高校からやって来た、藤野夏絵といいます。宜しくお願いします」