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心鬼 〜シンキ〜  作者: 栗谷
第1章 始動
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第13話 恐怖

アイツ。

今この男は、アイツと言った。


「お前っ、犯人を知ってるのか!」


だってそうだろう。

アイツなんて表現、知人でもなきゃできない。


「まあ確かに、君よりは知ってるよ? 色々と」


「教えろ。犯人は誰だ」


「それはダメだ。教えられない。そういう決まりなんだ」


「ふざけるな! 決まりがどうした、早く答えろ! もし答えないなら……」


俺は、ポケットからナイフを取り出し、男に向けた。


「答えないなら、殺すぞ」


「君、本気かい?」


「本気さ。これ以上ないほどにな」


――ああ、そうかい。

男はそう呟き、ゆっくりと立ち上がった。


そして、次の瞬間。

気がつけば、男はナイフを持つ俺の腕の手首を、右手で掴んでいた。


「え……」


余りに一瞬の出来事だった。

いつ動いたのかすら分からない。


「くそッ……放せよ……!」


振りほどこうともがく。

だが、男の力は余りに強く、ビクともしない。

今度は左手で、ナイフを握りしめる俺の拳を鷲掴みにする。

男はそのまま、俺の腕を勝手に動かす。

俺の握るナイフが、俺の首に向かっていく。

そして、ナイフの切っ先が、喉ボトケに触れた。


全身から汗が吹き出る。


「あ、ああ……」


叫ぼうにも、上手く声が出ない。


「……人に凶器を向けるってのはさ、つまりこういう事なんだぜ? 前野真尋君」


怖い。

今までに感じた事の無い恐怖。

殺される――


「今回はこれで許してやるよ。俺、優しいから」


男はそう言い、手を離した。

俺は膝から崩れ落ちてしまう。

全身の力が抜け、立っている事が出来なかった。


「殺された親友の仇討ち。いいねー、美しい友情だ。おじさん、涙が出ちゃう」


そう言いながら男は、俺の髪の毛を鷲掴みにして、かがみながら顔を近づけた。


「だが、そんなモノは只の偽善だ。お前の自己満足でしかない」


言葉が刺さる。


「そしてそんなお前の行き着く先は、破滅だ」


破滅。

その通りだ。

冷静になれば分かる。

俺に、犯人を殺せる訳がないのだから。


「悪い事は言わないから、もう帰りなさい。君が死んだら悲しむ人がいるだろう」

――それってさ、幸せな事なんだぜ?


そう呟き、男は去っていった。







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