第12話 露天商
夜の木野辺村は、異様なまでに暗い。
灯りが全くない。
まるで昼とは別世界の様だ。
ライトを持って来れば良かった。
まあ、いい。
犯人は日本刀を持っているかもしれないんだ。
真正面から戦ったって勝てる相手じゃない。
それなら、暗闇に紛れた方がいいだろう。
相手は日本刀を振り回し人間を喰らう化物。
油断はできない。
息を潜め、道を歩く。
暗闇に目が慣れ、少しずつ辺りが見える様になってきた。
その時。
「そこのキミ」
急に声を掛けられた。
驚き、そちらの方を振り向く。
そこにいたのは、地べたにあぐらをかきながら、広げられた風呂敷の上に何やらよく分からないものを羅列している、所謂露天商の様な男だった。
中途半端に長い髪に無精髭、わざと着崩したスーツを着ている。
30代前半といったところか。
「な、なんですか……?」
「こんな所で会ったのも何かの縁だ。どう? 一つ買ってってよ」
買えというのは、このガラクタの事か?
馬鹿馬鹿しい。
こういうのは相手にしちゃダメだ。
「悪いんですけど、そんな事してる暇はありませんから」
「はは、つれないねぇ」
「ていうか、こんな時間に外にいたら危ないですよ。知ってるでしょ? 村で起きた事件。悪い事言わないから、早く帰った方がいいですよ」
「いやいや、そんなこと言ったら、君の方こそこんな時間に何してるのさ」
「関係ないでしょ、あなたには」
「関係あるさ。地域の子どもを守るのが大人の仕事だからね。――前野真尋くん?」
――え?
「え、なんであなた、俺の名前……」
「なんで知ってるかって? そんなの当然さ。だって君は――」
男は、途中で口をつぐむ。
「ああ、いや、これは言っちゃいけない決まりだったよ。忘れてくれ」
「いやいや、忘れられる訳ないじゃないですか!」
「まあいいじゃないか僕のことは。それより、君のことを教えてくれよ」
そして男は、再び尋ねた。
「こんな時間に、何してるんだい?」
じっと見つめられた。
どこか、見透かされているような。
そんな気がした。
「べ、別に、ただの散歩です」
「ははっ、散歩? こんな時間に? 嘘はいけないよ。嘘は」
「う、嘘なんかじゃ――」
「当ててあげようか」
当てるだって?
何を言っているんだこの男は。
「無理ですよ。そんなの」
大丈夫。
当てられる訳がない。
エスパーじゃないんだから。
「人探し。違う?」
心臓がはねる。
「いや、それだけじゃないね。ポケットに入ってるそれ、一体何に使う気だい? ――まあ、大方予想はつくけどね」
何で。
何で分かる!?
「あ、あなた一体……」
「――それで君の親友の仇を取ろうとしているのなら、やめた方がいい」
そして、男は言う。
「それじゃあアイツは殺せない」
”アイツ”
男は確かにそう言った。