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心鬼 〜シンキ〜  作者: 栗谷
第5章 終焉
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第15話 心

 「また分かれるのか? でも、ここって敵地ど真ん中なんだろ? 流石に固まって行動しないと危ないだろ」


 二手に分かれようと提案してきたミカに対し、そう意見を言う。

 しかし、ミカの意思は堅いようで、


 「私たちがこうしている間にも、鬼神復活の準備は着々と進められているんだ。こんなところで油を売っている場合じゃない」


 と、強めの口調で言い返された。

 その表情からは強い焦りが感じ取れる。

 

 でも、やっぱり分かれるのはダメだ。

 多分ミカは今、焦りで周りが見えていない。

 だって、それで仲間が死んでしまったら意味がないだろう。


 「少し落ち着けよミカ。いくら早く出たいからって……お前は強いし、俺は再生するからまだしも、練磨たちは――」


 「大丈夫ですよ。真尋さん」


 その時だった。

 式流ちゃんにそう声をかけられる。


 「私たちは死んだりしません。これでも、結構強いんですから」


 「そうだ。あんま俺逹を舐めるんじゃねぇぞ。二手に分かれたところで、そう簡単にやられたりはしねぇよ。当主様だって、それが分かってるから言ってるんだ」


 続いて、練磨も。

 不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

 「俺たちは大丈夫だ。お前はもう少し仲間を信じろ」


 仲間を信じろ――

 ああ、そうか。

 練磨の言葉に気づかされる。

 なにもミカは、ただ焦っていたんじゃない。

 ただ効率だけを考えていたわけじゃない。

 二人を信じていたんだ。


 「それじゃあ、俺たちは右から行きます。当主様もお気を付けて」


 言って、練磨と式流ちゃんは歩き出した。

 躊躇のない、堂々とした歩みだ。


 「なあ、練磨、式流ちゃん」


 思わず、その背中を呼び止める。

 

 「なんだよ。まーだ分かれることに文句あるのかよ」


 「いや、そうじゃなくて――」


 そうだ。

 大丈夫だよ、この二人なら。

 だからこそ、言おう。


 「――また、後でな」


 俺がそう言うと、練磨は鼻で笑いながら、


 「おう。また後でな」


 と言って、ひらひらと手を振った。

 そして、式流ちゃんも、


 「ええ、それではまた後で。さっきの話の続きもしたいですし。今度はちゃんと――伝えますから」


 と、そう言って微笑んだ。


 

  






 □






 


 長い廊下をミカと二人で進んでいた。

 辺りはやけに静かで、それが不気味さをかき立てる。

 その上、どこからか冷気が漏れているのか肌寒い。

 とかく沸き続ける不安感を紛らわすつもりで、歩きながら”のび”などをしてみたのだが、やはりほとんど効果はなかった。


 それに、だ。

 今の俺を不安にさせているのは、なにもこの不気味さだけではない。

 心に引っかかっていることがいくつかあるのだ。


 「あのさ、ミカ」


 俺の手前を歩き続けるミカに、そう声をかけた。

 

 「なんだ」


 「ここに飛ばされる前の話なんだけどさ……謝っておきたくて」


 「謝られるようなことをされた覚えはないぞ?」


 いや。

 そんなことは、ない。

 だって、今俺たちがこんな状況に陥ってしまったのは、他でもない。

 俺の所為なのだから。


 「あの時――お前が黒火にトドメを刺そうとしたとき、俺が止めていなければ、こんなことにはなっていなかった」


 そう。

 これが”引っかかっていること”の一つだった。

 黒火の策略。

 それは、俺の所為で成功してしまった。

 俺が止めていなければ、ミカは間違いなく黒火を殺していただろう。

 殺せていただろう。


 ミカはふと歩みを止め、俺の方をなにも言わずにただ見据えた。


 「殺したら困るのは俺たちだ、なんて言ったけどさ……本当は、可哀想だって思ったんだ」


 同情してしまったのだ。

 同情して、見逃して。

 結果、俺たち全員が、まんまと敵の策略に嵌まってしまったんだ。


 「分かってるんだ、鬼使いに情けをかける必要なんかないって。本当、自分の甘さが嫌になる」


 本当に情けなかった。

 ついこの間まで、剣菱の仇を取ると意気込み、敵対する者は誰であろうと容赦しないと。

 本気でそう思っていたというのに。


 「そうだな。確かにお前は甘い。正直、戦いには向いてないだろう。だが――」


 言って、ミカ少し俯き、


 「お前は、それでいい」


 「――え?」


 それは、あまりに意外な言葉だった。

 予想していた言葉、そのどれとも違う。

 

 「人が人である所以は、心だ。心があるから人は人でいられる。だからこそ、心鬼は人たり得るんだ」


 心鬼は人だ――

 少し前に山河さんに言われた言葉を思い出した。


 「今の言葉は受け売りだがな。まだ幼かったころ、山河にそう言われたんだ」


 ミカは続ける。


 「でもそれは裏を返せば、心を失った人は人じゃないと――そういう意味にも取れるんだ。私は時折、自分が本当に人なのかどうか、分からなくなる」


 「ミカ……」


 「真尋、お前は人だよ。だから、そのままでいいんだ」


 ミカはそう言うと、前に向き直り、再び廊下を歩き出した。

 その背はどこか寂しそうに見えて、切なそうに見えて。

 俺はそっと目を逸らした。

 


 


 




 □








 それから、しばらく歩き続けた後、俺たちは遂に一つの扉を発見した。

 扉は異様なまでの存在感を放っており、どこか忌ま忌ましさまで感じられる。


 「どうやら、出口ってわけじゃなさそうだな」


 「だが、引き返すわけにもいかないだろう。覚悟を決めろ」


 ミカはそう言って、扉の取っ手に手をかけた。

 そして、おもむろに押し開いていく。


 完全に開ききったとき、俺たちの目に飛び込んできたのは、一つの人影。

 

 「ようこそ私の部屋へ。待っていたわ。貴方たちを、ね」



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