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心鬼 〜シンキ〜  作者: 栗谷
第5章 終焉
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根堀保振 2

 「な、なんだこいつは!?」


 「そう驚くことないでしょう坂口さん。どうせただの心鬼ですよ」


 驚き腰を抜かした坂口に対し、保振が冷静に言う。

 

 「心鬼だと!? クソ、今すぐ増援要請を――」


 「必要ないですよ。呼んだところで、ただ死体が増えるだけでしょうし」


 保振は肩に差した抜き身の長刀を取り出し、片手でそれを構え、心鬼に向ける。

 長刀は彼女の身の丈を超えるほどの長さで、見た目からは想像も出来ないほどに重い。

 もちろん片手で構えるなどもっての外。

 それを軽々とこなせるのは、彼女の異常なまでの身体能力があってのことだろう。


 「一人で僕と戦う気? やめた方がいいよ。それこそ無駄死にするだけだ。だって僕は強いからね。この場にいる誰よりも」


 「心配してくれてるんですかぁ、優しいですね。二人の人間を一瞬で殺した鬼の言葉とは思えません」

 

 「――二人も、ころした……? ぼくが?」


 保振の言葉を聞いた心鬼は、小さく何かを呟いたあと、おもむろに頭を抱え、その場に跪いた。

 そして頭をばりばりと掻きむしりながら、言う。


 「ち、違う! ぼくのせいじゃない! こ、ころしたくてころしたんじゃない! 皇堂院さんが悪いんだ! ぼくは悪くない! ぼくは……」


 そして、押し黙ったのもつかの間。

 心鬼は突然立ち上がり、


 「そうだ、皇堂院さんだ! 彼女がどぉぉぉしても脳みそ食べたいって言うからぁ――仕方が無いじゃないかぁ! あははは!」


 「突然怒ったり笑ったり、オモシロイ方ですね。でも――」

 うざいので死んでください。

 

 瞬間、保振は足を踏み出し前進する。

 そして長刀を横に大きく薙いだ。

 彼女の攻撃は素早く、相手が”普通”の鬼使いであれば、今の一瞬で勝負は決まっていただろう。


 しかし、如何せん相手は心鬼。

 超反応で上半身を仰け反らし、刃を避ける。

 

 「はは! 当たんねーよノロマが!」


 心鬼は素早く体を起こし、体勢を立て直したかと思うと、空振りし隙の出来た保振の懐へと一瞬で潜り込む。

 

 「死ね!」


 そして、腕を保振に向けて突きだした。

 

 刹那、まき散らされる大量の血液。

 その返り血を浴びたのはーー


 「――――痛ってええええ!!?」


 「も~、そばで大声出さないでくださいよぅ。耳が痛いです」


 心鬼はその場に倒れ込み、転がりまわる。

 見ると、肩から先が無くなっていた。

 自身が腕を突き出した、あの瞬間。

 動きを読んでいた保振に切断されたのだ。


 「惨めで無様ですねぇ。死にかけの蟻か何かですか?」


 保振は煽るようにそう言い放つ。

 と、その瞬間、心鬼はぴたりと動きを止め、


 「……蟻? じゃあその蟻に喰われるお前は何なの? 虫の死骸か何かかな?」


 言って。

 その場から飛び起き、保振と十分な距離を取ると、口から何かを取り出す。

 そしてその何かを、保振の元へと投げ捨てた。


 「あー、手?」


 右腕――手首より先が無いそれを見つめながら、保振は小さく呟いた。

 心鬼の投げ捨てたもの。

 それが食い千切られた自らの手だと、今更のように気が付きながら。


 「手が……血が止まらない」


 「残念だったね。ほら、僕は再生するけど、お前は人間だろ? もう治らないよ、それ」


 心鬼は、既に再生した腕をぐるぐると回しながら言う。


 「痛いでしょ? 血の出すぎで死んじゃうんじゃない? あーあ可哀想に。でもまあ折角だし、脳みそ置いてってよ」


 「死んじゃう、ですか。うふ、うふふふ、えへへへへ」


 何がおかしいのか、保振は唐突に、素っ頓狂な笑いをあげる。


 「こんなに楽しいのは久しぶりです。”死”の恐怖……ああ、しばらく忘れていました」


 「それなら、実際に死ねばもっと楽しいんじゃない? 殺してやるからこっちおいでよ」


 「……はい?」


 相変わらず嘲るように言う心鬼を、保振は強く睨み付ける。


 「何も分かってないですねぇ。違うんですよそうじゃない。だって――死んだら意味がない」


 言って。

 保振はゆっくりと体の重心を下げる。

 そして、次の瞬間。

 保振の持つ長刀が、心鬼の腹を貫いた。


 「がっ……!?」


 なんだ、今のは。

 気が付いたら、刀が。

 ていうか、この女――

 一体いつ動いた!?


 心鬼は、自らの腹から刀が引き抜かれるまでの僅かな時間で、様々な思考を張り巡らせた。

 しかし結論が出ることはない。

 いくら考えても分からないのだ。


 そして、思考がまとまることのないまま、次の一閃が彼を襲った。


 「―――っ!!」


 今度は、先程切断された方とは逆側の腕が斬り落とされる。

 その後も保振の攻撃はやむことを知らず、心鬼はどんどん切り刻まれていく。

 そして、彼はあまりの連撃に耐えきれず、地に膝を付いた。


 「違う違う違うんですよぉ~、実際に死んだらダメなんですぅ~。てめぇが死ぬから意味があるんじゃね~ですかぁ。おら死ねよ死ね死ねぶっ殺してやる」


 「はは、なんだお前、僕より狂って――ぎゃっ!」


 保振は先程の笑顔を浮かべたまま、心鬼に長刀を突きつけた。

 何度も何度も。

 突いては引き抜き、突いては引き抜きを繰り返し、休むことなく串刺しにする。


 「痛いなぁ~手首が痛い。お前に喰われた手首が痛い。うふふふ楽しいですねぇ~」


 「あっ、あっ、あっ、や、やめて……」


 心鬼の体から、血が噴き出し続ける。

 再生するまもなく突きつけられる刃からは逃れることも出来ない。

 

 「サヨナラ化け物。来世で会いましょう」

 トドメです――


 保振はそう言って、頭上に長刀を掲げる。

 そして、それを振り下ろそうとした――

 その時。


 「待て保振」


 「……あー、何ですか坂口さん」


 坂口が保振を引き留めた。


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