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心鬼 〜シンキ〜  作者: 栗谷
第5章 終焉
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根堀保振 1

 東京拠点襲撃事件の際、東京組は敗れこそしたものの、その戦績は相当なものであった。

 殺害数約500体。

 これは、頭数の少ない鬼使いにとっては大ダメージである。

 その結果の一番の功労者は、当時東京拠点長であった山河雪花さんがせっかーーではない。


 東京組第一部隊隊長・根堀葉掘(ねぼりはほり)


 ハホリは天才だった。

 15歳にして隊長に上り詰め、16才になる頃には第一部隊の成績をその名の通り一番に昇格させた。

 東京拠点襲撃事件では、500の内の100体以上を彼女が一人で駆逐している。

 なお、東京拠点襲撃時点で彼女は17歳である。

 

 しかし、ではハホリ一人が功労者なのかと言えば、それもまた違う。

 一番がいれば、二番もいる。

 二番目の功労者は、ハホリの双子の妹。根堀保振ねぼりほふるだ。

 彼女は姉と共に、鬼使いを大量に虐殺した。


 さらには、ハホリの直属の部下である第一部隊員5名も、同じく功労者といえるだろう。


 しかしーー私は正直、彼女らの異動にホッとしている。

 雪乃様は第一部隊員全員を東京に残すべきだと仰っていらしたが......。

 彼女らは危険なのだ。


 これと言った根拠はないが、私の直感がそう告げていた。


 妹のほうーーホフルだけは、雪乃様の強い志願により東京に残留となったが。

 いつか彼女が雪乃様の首を掻く事態にならないか、今から非常に不安である。






 □





 

 「あらあら、これは酷いですね。全身細切れにされた上食い荒らされるとは。う~ん、これやった奴は挽肉が好きなんですかね?」


 東京○○区。

 そこのとある裏路地で、一人の少女が地面に散らばる肉塊を見てそう言った。 


 「無駄口を叩くな保振。今は調査中だぞ。集中しろ」


 少女ーー根堀保振の軽々しい態度が癪に障ったのか、一人の男が保振を睨み付ける。

 しかし、彼女には一切効いていないようで、


 「うふふ。勿論集中してますよ~。こんな”オモシロイ”現場、下手したらもう二度と見れないかもしれないし」


 と、爽やかな笑みを浮かべ、楽しそうにそう言った。


 「集中したところで何も分からなければ意味がないんだ。本来、”無所属”であるはずのお前がこの場に居られるのは、俺がお前の高い洞察力を買ってやったからなんだぞ? ”なにも分かりません”は絶対に許されない」


 「安心してください坂口さん。一応、気になる点は見つかっていますよ」


 「気になる点?」


 「この”肉山”、かなりの大きさです。ヒト一人分じゃ絶対に足りません。多分、私たちの考えている量より、もっともーっとたくさんのヒトが殺されてるでしょう。まあ、それは見れば誰でも分かりますよね。足っぽいのとか何本もあるし」


 彼女はおもむろに肉塊の一部を手に取ると、それをじっくりと見つめながら説明を続ける。

 そこには、一切の躊躇がなかった。


 「それでですね、一つ不自然なところがあるんです。坂口さん分かります?」


 「......いや、分からん。教えてくれ」


 「うふふー、分からないんですかぁそうですかぁ。それじゃあ教えてあげましょう。えっとですねぇ、さっきも言いましたけど、この肉山には”足と思われる”物体がいくつもありますよね? それだけじゃありません。足と同じように、腕とか胴体とか......ぐちゃぐちゃではありますが、一応判別はつくものが散見しています」


 「確かにそのようだがーーだから何だと言うんだ」


 「だから~、足りないんですよ。腕もあって胴もあって足もあるのに。あの部分だけが」


 あの部分ーー

 その言葉を聞いた坂口は、一瞬の間の後に、保振の言わんとしていることに気が付く。


 「頭部が足りない......?」


 「大正解です坂口さん。そう、見あたらないんですよ、アタマだけが。他はちゃんと残ってるのに。これってとっても不自然じゃありません?」


 「ああ。確かに不自然だ。し、しかし、何故お前はーー」


 ーー何故お前は、気が付くことが出来たんだ。

 まだ我々第一部隊が死体の調査を始めてから、10分と経っていないというのに。

 目を背けたくなるような死体の山を冷静に分析し、この短時間で”部位が足りない”ことに気が付くなど、まともな神経の持ち主では絶対に不可能だ。


 気持ち悪い。


 坂口は、率直にそう思った。

 しかし、それも当然であろう。

 

 無残な死体の山を、哀れむことも恐れることもなく。

 どころかむしろ、目を輝かせながら心底楽しそうに死体を調べる彼女の姿は、おおよそ『人間』のそれではなかったのだから。


 「気持ちの悪い女だぜ、まったく。なんで俺ら第一部隊がこんな奴の面倒を見なくちゃいけないんだ」


 「よせよ。聞こえるぞ」


 死体を調べる保振の後ろで、数人の男が会話をしていた。


 「いいじゃねぇか。どうせコイツは爪弾きモンだ」

 

 「ほんと、見てくれだけはマシだってのにな。どうして中身が狂ってやがる」


 男の言うように、保振の容姿は非常に美しいものであった。

 西洋人形のように端正な顔立ちで、肌は雪のように白く、淡い茶色の髪はふわりとやわらかい。

 薄紅色の唇はどこか官能的で、蠱惑的だ。

 それは、彼女を見た男の全てを魅惑するであろう、恐ろしいまでの美貌ーー

 ただし。

 その瞳は、恐ろしく真っ暗だ。


 「それにしてもよぉ、ほんとに誰の仕業なんだろうな、これ。一般市民を大量虐殺だなんて、いくら鬼使いでも異常すぎる」


 「まったくだな。はぁ、最近物騒すぎるよ。折角この前の襲撃事件を生き抜いたってのに、こんなんじゃいつ死んじまうかわかったもんじゃない」


 「分かるよ。お前は今死ぬんだ。僕に喰われてね!」


 瞬間、会話をしていた二人の首が落ちる。

 

 「あははは! 脳みそ置いてけ鬼狩り()共が!」


 「わあ、もう二人殺されちゃってる。元気のいい鬼ですねぇ~」


 保振は笑顔でそう呟いた。



 


 


 


 

 

 


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