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心鬼 〜シンキ〜  作者: 栗谷
第5章 終焉
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第14話 動員指示

 「要するに、ここは結界で囲まれた建物の中ってことか。じゃあ、さっきまで居たあの廃墟はなんだったの?」

 

 「結界の『入り口』の役目を担ってたんだと思います。詳しいことはよくわかりませんけど......」


 入り口、か。

 廃墟の中が別空間に繋がっていたって認識でいいんだろうか。

 正直理屈も何もあったもんじゃないと思うけれど、妖術ってのはそういうものなんだろう。

 今更驚くこともない。

 

 それに、大事なのはそこじゃない。

 大事なのは、何故入り口なんてもの(・・・・・・・・・・)が用意されているのか(・・・・・・・・・・)、だ。


 式流ちゃんの話から考えると、身内であれば結界の効果は適用されないはずである。

 俺が木野辺村拠点から普通に出入りできたのがその証拠だ。

 だったら、わざわざ入り口なんて用意する必要ないじゃないか。

 敵に侵入される確率が上がってしまうだけだろう。


 じゃあ、一体何のために入り口なんてものがあったんだ?

 

 「まあ、大体のことは分かったよ。説明ありがとね。式流ちゃん」


 まあ、分からないことは今はいい。

 そんなことよりも今は、ここから脱出することの方がよっぽど重要だ。

 ここは敵側の結界の中。何が起こっても不思議じゃないのだから。


 




 □






 

 「しかし遅いなあいつら。何やってんだ?」


 練磨がミカを呼びに行ってから、もうかなりの時間が経っていた。

 練磨の口ぶりからして、割と早く帰ってくるものだとばかり思っていたのだが。


 「途中なにかあったのかも......心配だな」


 「大丈夫ですよ。何かあったらすぐに連絡が来るでしょうし、大きな妖気の反応もありませんから」


 式流ちゃんはそう言って、俺の目を見る。 

 そしてそのまま視線を逸らさず、数秒ほど見つめられた。

 

 「真尋さん。こんな時に言うのもなんですけどーー私、本当に感謝してるんです」


 彼女は言う。


 「あの時は、本当にありがとうございました」


 「......霧海山でのことなら、礼を言われる筋合いなんてないよ」


 実際そうだろう。

 俺なんかよりミカや練磨に礼を言うべきだ。


 「違いますよ。確かにそれもありますけど、私が今言ってるのは、お兄ちゃんのことです」


 「練磨の?」


 「はい。真尋さんが説得してくれたから、お見舞いに来る気になれたんだって。お兄ちゃん言ってました」


 「あれは別に、練磨が変にくよくよしてるからさ。ちょっと檄を飛ばしただけで......」


 「そんなに謙遜しないでください。今私が兄と仲良く出来ているのは、全部真尋さんのおかげなんですーーあの、それで、私言いましたよね? お礼に出来ることなら何でもするって」


 俺がお見舞いに行った日のことか。

 確かに、そんなことを言われた気がする。


 「大丈夫だよ別に。本当にいいって、礼なんて」


 「......まだ、気づかないんですか」


 「え?」


 「......」


 気づかない?

 一体何に?


 「えっと、式流ちゃん?」


 呼びかける。

 しかし、彼女は俯いたまま押し黙り、反応を返さない。

 どうしよう。

 なにか気に障るようなことをしてしまったとか?

 

 「ご、ごめん。気を悪くさせたなら謝るよ。本当にごめん!」


 「......いえ、こっちこそごめんなさい。別に真尋さんが悪いわけじゃないんです」


 式流ちゃんは、どこか不器用な笑みを浮かべながらそう答えた。






 □






 「待たせたな。途中少し迷っちまって」


 式流ちゃんとの件から数分後、ミカを連れた練磨が戻ってきた。

  

 「お前ら、どんだけ迷ってるんだよ。おかげでこっちはーー」

  

 おかげでこっちは、式流ちゃんと気まずくなっちまったじゃねーか。


 「あ? おかげでなんだよ」


 「......別に。それよりさ、どうだったんだ? 施設の見回りは。出口とか見つかったのか?」


 話題を逸らし、ミカにそう話しかける。

 ミカは首を軽く横に振り、


 「いや。残念ながらそれらしいものは一つも見つからなかった。どうやら、先に進むしかなさそうだ」


 「そっか。まあ、予想はついてたけどな」


 ......黒火は多分、俺逹をここに連れてくることを目的に、俺逹の前に現れたのだろう。

 『死の世界にようこそ』なんて言っていた気もするし。

 わざわざ入り口なんかを用意したのも、それが目的だとしたら説明がつくんじゃないだろうか。

 まあ、兎に角、鬼使いが俺逹をここに誘い込んだことは確かだろう。

 とするならば、そう簡単に出口なんて見つかる筈がない。


 「てか迷ったって、それにしても時間掛かりすぎだろ。ここって、そんなに入り組んでるのか?」


 「ああ。予想以上に複雑な構造のようだ。分かれ道がいくつもあった」


 ミカはそう言うと、俺逹を見回した。

 そして、言う。


 「分かっているとは思うが、今のこの状況は鬼使いの罠によるものだ。一刻も早く、私たちはここから脱出しなければならない。しかし構造は入り組んでいる。集団で行動してたんじゃあ埒があかない。例によって例の如しーー二手に分かれよう。真尋は私と来い。練磨は式流と行け。いいか、ここは相手の本拠地だ。気を抜くなよ」







 □





 

 「雪乃様! こ、この式神は.......っ!」


 「分かっているさ雅。非常に機密性の強い、文章伝達専用の式神。密神童子みっしんのどうじだ。これを使役出来るのは、あの連中の中じゃ二人しかいない」


 雪乃は、その式神に記された文章を読みながら答えた。


 「ク、クク。そうか、そうかそうか。舐めたことしやがるあの男。我を誘っているつもりか」


 彼女はわなわなと震えながら、笑みを口から漏らす。

 しかしその笑みには、抑えきれないほどの怒りが含まれていた。

 否。

 含まれているのではない。

 それは、怒りから生まれた笑い。


 「ど、どうするのです雪乃様。内容からしてもこれは、とても私たちだけの判断ではーー」


 「どうする? 何を言うか。せっかく奴のほうから尻尾をだしてきんだ。これに乗らない手はない。それにどうせ、密神童子の持つ情報の全ては、我々以外の誰に伝えることも出来なかろう」


 「で、ではーー」


 「東京拠点全隊員に告げろ。総動員だ。殲滅対象は『鞍上雅美あんじょうまさみ』ーー○○区の廃墟を強襲する!」


 いい。

 これはいい機会だ。

 ずっと探し求めていた男が、自ら眼前に現れた。

 

 そのうえ、暫くは秋季も我々の動きを知り得ない。

 

 「クク、殺してやるぞ鞍上雅美。我が弟の仇めっ......!」


 


 


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