第13話 目覚め
「ここは......」
目が覚めると、薄暗い場所にいた。
見た限りではとても広く、しかし同時に閉鎖感があるようなーー
そんな場所だ。
先程までいた廃墟も同じく薄暗かったけれど、ここまで広くはなかったし、そもそも内装からして全く違う。
ここがあの廃墟と同じ場所だとは、到底思えなかった。
「真尋さん!」
「うわっ!?」
突然、なにか柔らかいものに抱きつかれる。
見るとそこにはーー
「し、式流ちゃん!?」
「よかった、本当に......」
式流ちゃんは安堵しながらそう呟くと、そのまま俺の胸に顔を埋めた。
おいおいおいおい。
なんだこれは、どういう状況だ!?
「えっと、式流ちゃん、その、ちょっと近すぎ......」
「え? ーーあっ! ご、ごめんなさい!」
俺がそう言うと、式流ちゃんは顔を真っ赤にして俺から離れた。
少し残念な気もしたが、あのままじゃあ平静を保てる気がしなかったので、まあ仕方がないだろう。
「真尋! 目ぇ覚めたんだな!」
その時。
俺が彼女に気を取られていると、突然、背後から誰かに呼びかけられる。
この声は多分、練磨だ。
「たっく、お前全然起きねぇから、マジで死んだのかと思ったぞ」
「悪いな。心配かけて」
練磨と式流ちゃんの反応から考えて、俺はかなりの間、気を失っていたらしい。
そしてそんな俺を、二人はずっと看ててくれたっていうわけか。
「いいよ。じゃあ俺は当主様を呼んでくるから、ちょっと待っててくれ。多分そう遠くへは行っていないはずだ」
練磨はそう言うと、急ぎ足で暗がりの方へと進んで行った。
呼んでくるということは、ミカの奴、得体の知れないこの場所を先に一人で進んだのか。
相変わらずマイペースな奴だ。
......なんだよ。
せめて、俺の目が覚めるまで待っててくれればいいじゃないか。
練磨と式流ちゃんはずっと俺の事見ててくれたっていうのに。
前から思ってたけど、なんかアイツ冷たくない?
ーーって、何を考えてるんだ俺は。
ミカは元からそういう奴だろう。
それに、二人が俺の様子を見ているのなら、別にミカが探索に出たって問題ないじゃないか。
寧ろ効率的だ。
そう。ミカは効率を重視しただけなんだ。
分かってるよ、分かってる。
なのに何で。
何でこんなに、イライラするんだろう。
「あの、真尋さん、大丈夫ですか?」
「え?」
「いえ、なんだかぼーっとしているみたいだったので......まだ意識がハッキリしないのかなって」
式流ちゃんは、じっと俺の目を見つめる。
本気で心配してくれているみたいだ。
本当に優しい娘なんだなと、そう思った。
「ちょっと考えごとしてただけだから、心配いらないよ。それより、今の状況を教えてくれないか? なんで俺逹こんな場所にいるんだよ」
そうだ。
今はミカのことよりこっちの方が重要だ。
改めて辺りを見渡し、確信を得る。
ここは気を失う前まで居たはずの、あの廃墟ではない。
どこか別の場所だ。
でも、じゃあ。
ここは一体どこなんだ?
「えっとですね、これはあくまで私の推測なんですけどーーここは多分、特殊な結界で囲まれた施設の中です」
「特殊な結界?」
「はい。結界というのはそもそも、囲んだ空間を外の次元と隔離する妖術なんです」
式流ちゃんは続ける。
「空間そのものを切り離す、と言えば分かりやすいでしょうか。勿論、全ての結界が同じ効果を持つという訳ではありません。ただ今回の場合は恐らくそれです」
「えっと......つまりどういうこと?」
「例えばーー私たちの拠点は巨大な結界に守られていますよね? あれは、ただ拠点の回りにバリアを張っている、という訳じゃありません。拠点結界は、拠点の認識そのものを不可能にするんです。私たち鬼狩りに属する者は拠点を認識することが出来ますが、そうじゃない人間にはそれが出来ません。実際に拠点がある空間には、ただの平原が広がっているようにしか見えないでしょう。多分、今私たちの居る場所は、拠点結界と同じ効果をもった結界の中ーーつまり、ここは鬼使いの拠点、もしくはそれに準ずる何かです」