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アナタと歩く英雄譚  作者:
第一章
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第六話 約束は守ろう

 東門に行くと、何故かその場に居たアリュラが手伝うと言ってきた。

 Eランクなのに手伝ってもらうのは申し訳ないし、受けるときに1人で申請したので彼女の分の報酬は出ない。

 完全なボランティアになってしまう。


「だから、手伝わなくても大丈夫だって」


「いいじゃない。ソラトのデビューだもの、見て楽しみたい。それに、また魔物に囲まれたらどうするの?」


 彼女は何かと理由をつけて、ついてこようとする。

 チートのせいだろう。

 彼女からの好感度はかなり高いと思う。


 当たり前だ、危険な状況を助けてもらい、なおかつギルドまで案内してくれて、登録時には金すら貸してくれた。

 俺の中で彼女の好感度が上がらなければ、人としてどうなのかというレベルだ。

 そして、それは同時に彼女からの好感度が上がることを意味している。

 

 イケメンや、ハーレム主人公たちはこうやって、簡単にヒロインをおとしていったのか。

 ただ、彼らは自分がどう思っているに関係なく、相手からの好感度はカンストする。

 やはり、主人公格における最強のチートは「モテる」ことだと思う


「へっへっへ。旦那ぁ、機は熟しやした。今夜はアツイ夜になりそうですぜ」


 ホルが本日、何度目かわからない悪人モードに入っている。

 こいつは俺のチートをからかって、今の状況を楽しんでいるだけだ。

 きっと、本音はそう思っていないと信じたい。


 ホルの戯言無視しつつ、東門を出ると、見晴らしの良い草原を進んでゆく。

 太陽の光も心地よく降り注ぎ、気分は上々だ。

 30分ほど歩くとエフラ草が一面に生える場所を見つけた。


 さっそく採取に移るために、持ってきておいた袋を取り出す。

 ちぎらないように優しく掴んで、土を払い、袋へ次々に詰めてゆく。

 ホルは引っこ抜くほどの力はないらしく、俺が引っこ抜いたエフラ草の土を払っては袋へと詰めてくれた。


「こんなもんかな」


「たくさん採取できましたねー」


 俺の持つ、エフラ草の入った袋はパンパンとなっている。

 思ったよりも早く集まったので、角シカを探しに周囲の探索を始めた。


「探索スキルなら、私が持っているけど?」


 アリュラが言った。

 エフラ草の入った袋を肩に担ぎ、辺りを見渡す俺はなんて滑稽だったんだ。

 欲しがっていた索敵スキルを、こんな身近な人物が持っているとは……


 考えてみれば、彼女のメインとなる武器は弓である。

 ならば、遠くから敵を発見や、観察できるスキルは持っていても不思議ではない。


「索敵、お願いします」


「りょーかい! 大船に乗ったつもりでいなさい」


 アリュラが無い胸を張る。

 思わず視線がいってしまうのは男としての本能であり、仕方のないことなんだ。


 アリュラが目を閉じ、神経を研ぎ澄ます。

 長く伸びた耳がピクピクと揺れる。


「見つけた。割と近いわね。ついてきて」


 彼女は森の中をどんどん進んでゆく。

 急いで後を追いかけた。


「ほら、あそこ」


 彼女の指差す方には角を持ったシカがいた。

 二人と妖精一匹で茂みに隠れて、気配を消す。


 角シカはとても俊敏な生物で、近距離で仕留めるのはちょっとしんどい。

 かと言って、魔法で攻撃すれば丸焦げで、必要な部位をはぎ取れなくなる。

 弓を使ってみよう、アリュラもいるし、指導を受けながら使ってみるか。


「ホル。弓になってくれ」


「矢は出来ませんよ?」


「昨日、お前のベッドの素材買うとき、一緒に買ったやつがあるから大丈夫だ」


 腰につけた、東門に来る前に、アイテムボックスから出しておいた矢を指さした。


「し、仕方ないですね。アリュラさんの前で恥ずかしいですが、変態ソラトさんのお願いなら受け入れましょう」


「いいから、早くしろ」


「冷た!?」


 ホルの身体が光に包まれ弓の形へと変わる。

 それを手に取り、弦の張り具合を指で確かめる。

 少しだけ、引っ張り、離すとボンと音が鳴って弦がしなった。


『んん!! ソ、ソラトさん! そ、そんなとこいきなりやめて下さい!』


「そんなとこって、ここか?」


 今度は強めに弦を引っ張り、そして離す。


『あああぁ! ダ、ダメって言ったのに……優しさはないんですか!?』


「ほら、ササッと試し打ちするぞ。アリュラ、弓って初めて使うから色々と教えてくれ」


「わ、分かったわ」


 俺とホルのやりとりに少しだけ引いている気がするが、気にしない。

 右手で腰から矢を取り出し、射撃体勢になる。


「左手を真っ直ぐに、そう。狙いをしっかりと定めて、この距離なら真っ直ぐに狙い打てば当たるはず」


 アリュラのアドバイスを参考に狙いを定める。

 弓術スキルのせいか、矢の弾道予測がなんとなく頭に浮かぶ。

 しっかりと狙いを定めて、矢を放つ。

 矢はしっかりと、角シカの身体に突き刺さった。


「お見事ね」


「指導がよかったおかげかな」


 ホルの武器化を解除し、ナイフをアリュラから拝借する。

 ついでに剥ぎ取りのレクチャーもしてもらい、しっかりと角を剥ぎ取った。

 一応、これで依頼は完了。


 後は、帰り道に角シカがいれば弓の練習がてら、狩ってみよう。

 ホルには常時、弓に武器化をしてもらい、帰り道についた。

 道中で角シカを三匹も狩ることが出来た。

 弓を撃つ度に、ホルが変な声を出すので時々矢を外すなどのトラブルがあったが、こればかりはホルに慣れてもらうしかない。

 









 そんなこんなで、俺は高揚する気分を抱きつつミスオンの街に帰ってきた。

 山の向こうに沈む太陽とは反比例して、俺のテンションは上がる一方である。

 初めての依頼が上手くいったのだ。

 テンションが上がるのは仕方が無い。


 入り口近くの人から見られない場所で、ホルの武器化を解除してもらう。

 やはり、武器化できる妖精と言うのは珍しいらしく、アリュラから「人に見られない方がいい」と言われホルの武器化および、解除には細心の注意を払うことにした。


 ホルにそのことを伝えると「誰が来るか分からない場所で、アレするカップルのようなドキドキした気持ちです!!」と叫んだので、盛大にスル―した。

 この変態妖精はいつか性格の矯正が必要かもしれないと、本気で心配になってきた。


 美味しそうな匂いがする露店を抜けて、ギルドの建物へと入る。

 結果を報告するカウンターへ行くと、担当はまたネナさんだった。

 どうやら、ローテーションで持ち場を回しているようだ。


「また、どうも」


「い、いえ! たまたまです」


 ちょっと、他人行事のようで微妙な距離感のあいさつを彼女と交わす。

 それを見ていた、横いるアリュラが怖い顔でネナさんを見ているような気がするが、きっと気のせいだと自分に言い聞かせる。

 肩に乗っているホルが耳元で「修羅場ですぜ旦那ぁ。今日はどちらと夜を共にしやす?」とか言っているのでデコピンで肩から弾き飛ばす。

 

 ホルは床に激突する直前に空中で体勢を立て直し、再び俺の顔の高さまで上昇した。

 息は荒く、顔じゅうに汗をかいていた。


「こ、殺す気ですか!!? 走馬灯が見えましたよ!!」


「ネナさん。これが報酬です」


「気持ちのいいまでの無視!! 私の存在を認知してください!!」


 ホルの存在を意識から消し、カウンターの上に採取した素材を入れた袋置いた。


「確認するので、少々お待ち下さい」


 ネナさんがネコ耳をペタっと倒しながら頭を下げ、奥へと消えて行った。

 横を見ると、彼女の後姿を見送ったアリュラがジト目で俺を睨んでいた。


「そんな目で見るなよ……」


「別にー、もうギルド内で知り合いが居るんだなぁって」


 心なしか彼女の声には棘があるような気がする。

 アリュラはプイッと俺から逸らすように顔を正面に向けた。

 機嫌を損ねたようだ。


 だけど、俺にはその原因が分からない。

 女性ってホント難しい……

 周りに聞こえないくらいの小さなため息を思わず漏らしてしまう。


「お待たせしました。これが今回の報酬になります」


 いつの間に奥から戻ってきたネナさんが銀貨4枚、銅貨5枚を差し出してくれた。

 相場は知らないが、今の俺にとってはお金を貰えるだけでもありがたいと差しだされた硬貨たちをポーチに入れた。

 ここでの用事は全て終わったので、ネナさんに頭を下げ、アリュラと一緒にギルドを出た。

 

「ソラト、宿はこっちよ?」


「飯、行こうぜ。森で助けてもらったお礼をしたい」


 助けてもらった礼はちゃんとしなければならない。

 もちろん、ネナさんにも登録時に色々と世話になった恩があるが、この世界に来て一番初めに助けてもらったのはアリュラだ。

 だから、初めての依頼で手に入った報酬で何か礼をすると決めていた。


「女性を食事に誘う!? このまま、アツイ夜へとダイブするのですね!? もう今後、童貞とか言ってバカにしません!」


 ホルがまた耳元で何か言っているが、完璧にスルーする。

 断じて、俺にそんな邪な気持ちは無い。


「いいけど……あの受付の子は誘わなくていいの?」


 アリュラがジト目で睨んで来る。

 ネナさんにもいつか礼をしなければならないが、今はアリュラが優先だ。


「俺はアリュラとご飯に行きたいんだ」


 俺の発言にアリュラが顔を赤くして俯いてしまった。

 ホルが肩に座り「それはイケメンにだけ許された発言!」とか言っている。

 泣くぞ、このやろー


「ソ、ソラトがどうしてもって言うなら言ってあげてもいいわよ!!」


 アリュラが無い胸を張り、盛大に叫んだ。

 そんな彼女が何処か可愛らしく見え、笑みが出てしまう。

 しかし、笑えば胸に関することで、彼女に怒られるかもしれないと手で口元を隠した。


「じゃあ。行くか」


「しょ、しょうがないわね!」


 初めて女性を食事に誘い、上手くいったことに安堵しているとアリュラが俺の横に並んだ。

 そして、顔を覗き込んで来る。

 彼女の金色の瞳、長いまつ毛が視界に飛び込んできた。


 エルフだからかもしれないけど、やっぱり美人だよなぁ。


「ちゃんと、約束覚えてくれたんだ」


 少しだけ口角を上げ挑発的な笑みだった。


「約束?」


「一緒に火に当たっていた時、街に着いたら何か礼をするって約束してくれたじゃない。忘れているのかと思ったわ」


 あれか……確かに街に着いたら礼をすると言った、確かに言った。

 ただ、彼女の中でそれほど重要なモノになっているとは予想外だった。

 じゃあ、ネナさんも同じことを思っているのか?


「ソラトさん!」


 思考に浸っていた俺はホルの声で現実に引き戻された。


「なんだよ?」


「デート中に他の女性のこと考えるなんて、紳士のすることですか?」


 こいつエスパーかよ。


「なんで分かったんだ?」


「女性はそれくらい分かるもんです。ほら、アリュラさん先に行っちゃいましたよ」


 ホルに言われて前を見ると、先ほどまで横に居たアリュラがいつの間にか早歩きで前に居た。


「早く追いかけて、謝る!」


「分かったよ! 分かったから、耳元で騒ぐな!」


「私のハーレム計画に支障を出さないでください」


「ハーレムはしないって、言ってるだろ!!」


 ホント、女性って難しい。

 そんなことを思いながら、少し前を歩くアリュラの元へと駆けだした。


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