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アナタと歩く英雄譚  作者:
第四章
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第十三話 神殺しと魔王

 作戦決行当日。俺たちはニアミリアや国王様に見送られ、レッドドラゴン『シルヴィック』の背に乗り魔王城へと出発した。

 ニアミリアからの餞別も受け取り、準備はぬかりない。

 すでにギルド冒険者と騎士団の連合部隊は、魔王軍と戦闘を始めており、残りの魔王軍の将軍たちもそちらに居るとのこと。


 これで魔王城は手薄のはず。

 速やかに魔王を倒し、戦闘を終わらせる。

 それが今、集中するべきことだった。


 ドラゴンの背中は思った以上に快適で、眼下に広がる広大な大地に、まだまだ俺の知らない世界があるのだと実感する。

 風に吹かれ、心地い日差しを浴びて、空を駆け抜ける赤い龍。

 やっぱり、ドラゴンって男の子の憧れだよなと改めて思った。


「ソラトお兄ちゃん。こうして四人でいると迷宮調査の時を思い出すね」


「そうだな」


 滉一君の言葉に同調する。特命クエストで急遽編成された即席パーティ。

 まだ『神殺し』を使う前の俺と本物のチート持ちが三人とあって、俺は少しだけ劣等感に苛まれていた。

 そして主人公の素質を持つ、滉一君が羨ましかった。


 俺には無いモノを持つ彼が眩しすぎて。自分もあんな風に格好良く戦えたらなとかよく考えていた。

 主人公になるには、残念ながら生まれ持った素質的な何かがあると思う。これは本当にそう思う。

 だけど、英雄は名詞じゃないから、動詞だと思うから、俺は俺なりに行動を起こしてきた、


 俺は主人公じゃない。だけど、英雄にはなれると、誰かを救うことは出来ると今ではそう思う。

 だから、こうしてこの世界に来た頃は相手にすると思ってもいなかった魔王と、今から戦おうとしている。

 簡単な戦いじゃないってことは、重々承知している。だけど、誰も死なせたくない。

 出来るだけ、死ぬ人を減らしたい。そう思った。


 だから、決着は早めにつける。


「見えたわ」


 真奈美の言葉で全員が前を向く。

 荒廃した大地、その真ん中に佇む黒い城。あれが魔王城か。

 ベストラの話では結界に守られているから、それを突破しない限り話は始まらないとか。

 今の俺たちの前に、結界なんて意味がないんだけど。


「千佳ちゃん。テリーの準備は大丈夫?」


「我とチカにぬかりはない」


「は、はい! いつでも大丈夫です!」


 テリーはすでに戦闘用のサイズまで巨大化しており、その背中には千佳ちゃんを乗せていた。

 実は、テリーって好戦的でこの戦いを一番楽しみにしてるんじゃないかと思う。

 

 テリーのような落ち着きが欲しいと思って、俺も深呼吸して集中力を高める。

 魔王城への侵入方法はいたってシンプル。上空から降下し結界を突破、そのまま着地と言う方法だ。

 脳筋かと思うかもしれないが、少しでも早く魔王を倒し離脱するには、下から昇って行くよりも上から降りた方がいい。とベストラに魔王が居る場所が最上階と聞いた、真奈美の発言だ。

 ホントに、細かいことが大嫌い。いつも直球の彼女らしい豪快な作戦だった。


「空人。あたしはいつでもオッケー」


 黒のタイトなローブ。蒼い宝玉が装飾された杖を右手に真奈美が言った。


「僕もいつでもいけるよ」


 灰色のローブに身を包んだ滉一君が言う。彼は王都に来るまでの間にチートの力をさらに強化したらしい。

 正真正銘、勇者への覚醒。響きだけでカッコイイ。俺も覚醒イベントとか起きないかな。


「ソラトさん! 頑張りましょうね!」


 特等席となった右肩に乗るホルが両拳を握る。目が充血しているのは、昨夜あまり眠ることが出来なかったからだろう。

 枕元に置いた専用ベッドでいつまでもゴソゴソしていた。

 理由は、何となく分かる。

 

 神界に帰りたくないこいつとしては、戦いなんて行かなくていいと思っていてもおかしくない。

 それなのに、皆を鼓舞して俺に力を貸してくれる。

 今更、気を遣うのは野暮なような気もした。だから、何も言わない。

 

 今は、勝つことだけを考えるんだ。


 シルヴィックが魔王城のちょうど真上にたどり着いた。

 結構な高さだけど、これって大丈夫か?

 着地した時の衝撃に少しだけ不安を覚えるが、ここまで来たらそんなことは言ってはいられない。

 腹をくくるしかなかった。


「じゃあ。行くぜ!」


 俺を先頭にそれぞれがシルヴィックの背中から降下する。

 目を開けることが困難なくらいの風が身体を切り裂いていく。

 右肩に必死にしがみつくホルを見て、少し笑いが出そうになった。早く武器化させないと飛んでいきそうだ。


「ホル! 魂の刻印(ルーン)! レベル(スリ―)!」


「りょ、了解です!」


 翡翠色の光に包まれ、右手の甲に『Ⅲ』の英数字が浮かび上がり、翡翠色の刀身、黄金の柄を持った剣にホルが姿を変える。

 剣を右手にしっかりと握り、魔王城に向けて一振り。

 俺を包んでいた光が散り、剣から発せられた翡翠色の斬撃は結界に直撃。何もない空間にヒビが入る。


「運命を切り裂く聖剣よ、我が災厄を振り払う王となれ、二連聖剣抜刀!」


 滉一君が呪文を唱え、両手に蒼色の魔力が集まり、それぞれの手に半透明の蒼色の刀身した、聖剣が握られる。

 聖剣の二刀流って、どこまでも勇者だな。


 滉一君はそのまま、結界のヒビの入った場所へ急降下。聖剣を突き刺した。

 パリィンと音を立てて、魔王城を囲む結界が崩壊する。そして、それを確認した真奈美が、魔王城の城壁を魔法で爆破し内部への突入口ができる。


 その中に入り、まずは俺と滉一君が着地。続いて真奈美が魔法を使ってフワリと舞い降りる。テリーは千佳ちゃんを乗せたまま、着地した。


 赤い絨毯が敷かれた長い廊下。奥には上へと繋がる階段があり、その反対には下に繋がる階段。

 そして、下に繋がる階段からは叫び声のようなモノが聞こえる。


「城に残っていた魔王軍ね」


 真奈美が声のする方を見て言った。

 全てを相手にするのは面倒だが、放っておいて魔王との戦闘中に乱入されても厄介だ。

 とりあえず、倒すしかないか。そう思った俺に滉一君が言う。


「ここは僕たちで食い止めるから、ソラトお兄ちゃんは先に行きなよ」


「そうね。その方がいいかも。時間をかければ、連合部隊の被害も大きくなるし」


「が、頑張ろうね、テリー」


「そうゆうことだ。我たちに任せて、貴様は行け。小僧」


 もう何を言っても覆りそうにもなかった。


「分かった。先に行く」


 俺は真奈美たちに背を向けて、上へと繋がる階段へと走り始めた。

 長い階段に徐々に息があがる。そして、一番上にある重々しい鉄の扉。

 その扉を剣で切り裂く、体育館くらいの大きさの部屋に、黒い煉瓦が敷き詰められた床。

 そして、奥にはギリシャ神話に出てきそうな神殿と、その前に置かれた椅子に座る魔王の姿。


 あの神殿がベストラの言っていた、魔神が祀られている神殿のようだ。

 椅子に座る魔王がゆっくり立ち上がる。


「君だけとはね。一人で戦う気かい?」


「結果がそうなっただけだ。それと、一つ聞きたいことがある」


「なんだい?」


「お前たちは神界に入る手段を持っているのか?」


「あるよ。でも、『神殺し』がなければ丸腰で行くようなもんさ。殺されるのは目に見えている」


 なるほどね。俺が望むモノはここにあるらしい。

 それを使えば元の世界に帰ることが出来るかもしれない。交渉すればこいつは使わせてくれるだろうか?

 いや、どうせ神殺し(ホル)と交換とかそんな所だろうな。

 それをホルはきっと嫌がる。


「なら、今ここで死んでも同じだよな?」


「分からないな。君が僕に剣を向ける理由が。死んでいった異界人は君の知り合いでもなかった。見ず知らずの他人の為に命を懸けるのかい? 綺麗事すぎて、吐き気がするよ」


「残念。建前上はそうだけど、本当の理由は俺の目的を果たす為だ。死んでいった異界人たちには悪いが、仇を取るつもりも無い。そいつらは俺の目の前で死んだわけじゃないからな」


 弔い合戦だとか、見ず知らずの人を理由に自分を正当化するつもりもない。

 守るためだとしても、一度剣を握ってしまい、『力』を求めてしまったから。

 

「なるほどね。魔王に立ち向かう勇者じゃないんだね」


「それは主人公たちの特権だ」


 切っ先を広瀬に向ける。

 魔王は口角を吊り上げ、叫んだ。


「いいだろう! どっちが自分の欲を達成できるのか! 話し合いが出来ないなら、武力で……昔からの習わしだよね」


「うるせぇ。御託はいいから大人しく負けろ」


「君は分かってないなぁ……神界の力を引き出せるのは君だけじゃないんだよ!」


 広瀬の身体に黒い魔力が急速に集まっていく。

 やばい予感がする。直感がそう告げた。

 広瀬に向かって、翡翠色の斬撃を飛ばす。卑怯とかどうとか言っている場合ではない。

 これは負ければ終わりの戦いだ。隙があれば攻撃するのは当然と言える。


 翡翠色の斬撃は広瀬に直撃した……はずだった。

 直撃をモノともせず、広瀬は立っている。いや、もう彼ではないのかもしれない。

 背中に生えた悪魔を連想させる羽。頭からは二本の角が生えており、身体は爬虫類のような鱗で覆われている。

 そして、黒髪と眼鏡の奥で動く赤い瞳。


 人の姿を捨てた魔王。そんな言葉が脳裏に過った。


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