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アナタと歩く英雄譚  作者:
第四章
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第九話 反撃開始


「勇者も居るなんて、今日はラッキーだ」


 目の前の魔王と呼ばれる男が、喜びの声を上げる。

 滉一は握った聖剣を魔王に振るが、ヒラリと躱され、何もない手応えに苛立つ。


「滉一! 前に出過ぎ!」


 真奈美の声が聞こえる。確かに後衛から援護をしている真奈美とアリュラに比べると、かなり魔王に接近している。

 だけど、空人を殺された憎悪から、今すぐにでも魔王を切りたい。殺してやりたい。

 その思いで頭がいっぱいで、冷静さを欠いていた。


「やりづらいな……」


 魔王はそう言って、大きく後方にバックステップし、滉一との距離を開ける。

 一度、仕切り直しのようだ。

 滉一の鋭い眼光に魔王が鼻を鳴らすと、その横に一体の魔物が降り立った。


「ベストラ。首尾は上々かい?」


「ええ。もうすぐ王都は陥落です」


 ベストラの答えに魔王は頷き、右手に白い光を集中させると、剣を精製した。

 そして、その剣をベストラに向かって振る。

 不意打ちの攻撃のはずが、ベストラは予想していたのか、宙を舞って回避した。


「魔王様? 随分とヒドイのではありません?」


「相葉空人に僕の正体を教えたのは君だね?」


 魔王の問いに、ベストラは高く笑った。


「アッハッハッハ!! 気づいていらしたのね!! そうよ……もう、私の身の心もあの人のモノなの……だから! 死んで下さいます?」


 ベストラが紅い爪を伸ばし、戦闘態勢に入る。

 滉一たちに空人と真奈美の居場所を教えてくれたこと、そしてさっきの言動からどうやらベストラは空人の味方らしい。


「死んだ男に尽くすのか」


「そうなのよねぇ……ここに来るときに見ちゃったんだけど。魔王様、ソラトを殺しんでしょう? だから、腸が煮えくり返りそうなの」


 ニコッと笑みを浮かべるベストラは、ある意味普通に怒るよりも迫力がある。

 対峙する魔王と魔王軍の将軍。その隙を見て、真奈美が魔法で魔王を爆破した。

 爆炎に包まれる魔王。立ち込める煙で魔王の姿は見えない。

 ベストラは、空中に難を逃れると、真奈美たちの方へ移動する。


「行き成りなんて酷いわね」


「アンタが気を引いてくれたおかげで攻撃できたわ」


 滉一は二人のやり取りに違和感を覚えた。

 前まであれば、人間と魔族と言う間柄、会うのは戦場ばかりで仲なんてよくなるはずもなく、二人の間にはピリピリした緊張が常に漂っていた。

 しかし、今の二人にはそれがない。


 もしかすると、ベストラは真奈美たちが拘束されている間に接触していたのかも。滉一はふとそんなことを思った。


 その時、爆炎の中から突然、一筋の白い光が飛び出す。

 その光はベストラの背中に生える羽を貫き、彼女を墜落させる。

 真奈美が爆炎を睨み、警戒心を抱くが、その後ろの空間が揺れて、一つの形になる。


「真奈美お姉ちゃん! 後ろ!」


 滉一の声が真奈美に届くよりも早く、魔王は彼女に蹴りを当てていた。

 吹き飛んだ真奈美が床に叩きつけられる。滉一は真奈美の身体を両手で支え、その勢いを止めた。


「ベストラ逃げて!」


 真奈美の必死の叫び。しかし、その思いもすでに遅いのか、魔王はベストラの首に長剣を当てていた。


「まさか。君が裏切るとはね」


 魔王の言葉にベストラは、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


「私はビッチなの。だから、男の鞍替えは基本よ♪」


「……なら、死ね」


 魔王が剣を高く振り上げる。滉一と真奈美ですら助けるのは間に合わない。

 アリュラは魔物との連戦、魔王との戦闘により矢を切らしてしまった。遠くからの狙撃も出来ない。

 三人は思う。また誰かを死なせてしまう……と。


 魔王の持つ剣が振り下ろされる。その瞬間、魔王の足元が翡翠色に輝く。

 そして、翡翠色の光は魔王を包み込んで天まで一直線に伸びる光となった。


「ベストラ。大丈夫か?」


 久しく聞くあの人の声。真ん中に着地した、翡翠色の剣を持つ黒髪の少年。

 死んだはずのあの人の右手の甲には『Ⅱ』の英数字が浮かんでいた。


「ソラトお兄ちゃん……」


 呆然とする滉一にその少年は笑顔で言った。


「反撃開始だ」




















「偉そうなこと言うんだね」


 上からの声。見上げるとそこには、俺とホルの攻撃から難を逃れた広瀬の姿があった。

 転移魔法だけじゃなく、空も飛べるのか。

 ただ、広瀬も無傷と言うわけでもなく、右腕を抑え服装はボロボロになっていた。


「ところで……君は何故生きている?」


「日頃の行い……かな」


 肩を竦めてみる。

 俺の様子を見て、広瀬が笑う。


「それにこの力。君が『神殺し』か?」


「試してみろよ」


 床を蹴り、広瀬との距離を詰める。

 剣を一振りすると、広瀬がそれを避けて急降下。海の方へと逃げる。

 空を自由に飛べる敵は厄介だ。『神殺し』の状態で無ければ。


 刻印魔法を発動させ、広瀬と同じように空に浮かび、宙を走る。

 広瀬の後を追撃し、一気に距離を詰めていく。


「おもしろい!!」


 俺の追跡に気が付いた広瀬が海面スレスレで急停止。こちらに向けて、転移魔法の穴を複数出現させた。

 その中からミサイルが直接出て来る。まるで発射台だな。


 そんなことを思いつつ、右手に握った剣に魔力を注ぐ。

 右手の甲に浮かぶ『Ⅱ』の文字が、白く輝きを増していった。


 そして、飛んでくるミサイルたちに向けて、剣を振るい巨大化した斬撃を魔力で飛ばす。

 翡翠色の斬撃はミサイルを全弾破壊した。

 斬撃はそのまま広瀬へと飛んでいき、海に直撃し水が大きな飛沫となって舞う。


 やったか?


 そう思った直後、顔の横に転移魔法の黒い穴が出現。

 中から現れたミサイルを、右手を前にして、障壁を展開し防ぐ。

 防ぐのは造作もないが、爆発のせいで視界が奪われる。


 広瀬は何処だ?


『上です!!』


 ホルの声で上を向くと、黒い刀身の剣を持った広瀬が迫って来ていた。

 振り下ろされる黒刀をホル()で防ぐ。いつもなら一刀両断に出来るはずが、その剣は切れない。


「この剣で切れない剣とはね」


 向こうも同じことを思っていた。

 鍔迫り合いでは、活路開けないと思ったのか、広瀬は一度距離を開ける。


「その剣……君も神界の力を引き出しているようだね」


「君も。だと?」


「そうさ。僕の剣、これは『堕ちた神』と言われる魔神様が与えて下さった」


 広瀬が手に持つ黒刀を下に広がる海に向かって一振りすると、海面が割れた。

 なるほど、あの剣もホルと同様、神界で造られた武器と言うわけか。

 だから、ホルの一撃でも破壊することが出来なかった。まぁ、ホルなら本気を出せば壊せるんだけど。


「その魔神とやらは、なんで『神殺し』を欲しがっているんだ?」


 切っ先を向けて、広瀬問う。人間ながら魔神に魅了された男は叫ぶ。


「再び神界へと出向き、復讐するためさ! そのための力が居る! かつて、神界を恐怖で染め上げた、無慈悲で残忍な兵器が!! そして僕はそこで唯一無二の存在となる!! 人が到達しなかった領域まで僕は辿り着くのさ!!」


 神界ではホルのことをそんな感じで捉えているのか。

 どこが無慈悲だ。感情豊かすぎて偶に鼻血を出すんだぞ。

 どこが残忍だ。俺が死んだと思って号泣するんだぞ。


 それにこいつは相当頭がイキ始めている。

 力を得て、ゲームのような世界で気が狂ったのか、それとも肥大化したプライドが勘違いさせたのか。

 どうだっていいか。俺には関係ない。


「熱弁どうも。たけど、俺には関係ないね」


「君には理解できないか……まぁいい。今日は引こう」


 広瀬の言葉を聞いた瞬間。加速して一気に距離を詰める。

 逃がすわけにはいかない。ここで倒さないといけない。


「魔王城で君を待つ」


 そう言った広瀬に翡翠色の斬撃を飛ばす。奴はそれを黒刀で切り裂き、転移魔法の穴を開き、その中へと消えていった。

 逃げられてしまった。これは俺の失態だ。


 だけど、今は反省するよりもやる事がある。


 再び空を飛び、真奈美たちが居る場所へと戻る。

 しかし、そこには千佳ちゃんとネナさん、それにニアミリアがいるだけで、他には誰も居ない。


「みんなは?」


「お姉ちゃんたちは王都の魔物を減らしに行きました」


 さすが、仕事の早いことで。

 塔の最上階からは王都が一望できる。

 大きな魔物は大体狩り終っているが、まだ爆発や悲鳴が聞こえている。


 これ以上の時間の遅れは、手遅れになりかねない。

 一気に終わらせてみるか。


「ホル。レベル(スリ―)


『わ、分かりました!』


 右手の甲に浮かぶ英数字が『Ⅲ』に変更された。

 これで大規模で威力の高い、刻印魔法を使うことが出来る。

 右手を床に当て、王都内の地面に魔力を流していく。同時に索敵スキルを肥大化し、王都内に居る魔物の位置を把握する。


 魔力を受け取った地面が翡翠色に輝き、王都全体が翡翠色でライトアップされる。

 王都全体に魔力を流し、全ての魔物も把握し終えた。

 同時に『万物を破壊する魔法』を魔物たちに打ち込む。


 身体にはかなりの負担になるが、今の状況ではそんなこと言っていられない。

 魔法を打ち込まれた魔物たちが、肥大化し光の粒子へと分解されていく。

 その様はまるで、光が天に昇って行くようだ。


 王都から聞こえる歓喜の声。

 とりあえず、王都での魔物を殲滅したことに、ホッとして息を吐いた。


「ソラト様ぁ!!」


 ニアミリアが後ろから抱き着いて来た。

 今は身体が結構きついので、倒れそうになるがグッとなんとか踏みとどまる。


「凄いです! ソラト様、ホントに凄いです!」


「ニアが居なかったら、死んでたけどな」


 お礼の意味も込めて、彼女の頭に手を置いた。


『やっぱり、ハーレムするべきです』


 ホルの戯言を華麗にスルーして、空を見ると微かに白みを帯びていた。

 夜間に発生した魔王軍の襲撃は、多大な犠牲を払い終結した。

 魔王討伐部隊は壊滅的被害を受けているはず、再編は可能だろうか。

 勝ったはずなのに、今後の事を考えると気が滅入るばかりだった。


「ソラト様」


 ニアミリアが服の袖をクイクイと引っ張った。

 彼女の指さす方には、水平線より顔を覗かせる太陽。

 風に揺れる海面がキラキラと光を反射している。


 神々しいまでのその光景は、気が滅入っていたことなんて、あっという間に忘れるほど美しかった。


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