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アナタと歩く英雄譚  作者:
第四章
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第八話 英雄とは

 ニアミリア・ウルビエッタ。テクノス王国の王女にして、その血に『破壊の力』を有する少女。

 そんな彼女には3歳離れた兄が居る。

 騎士団に入り、腕も確かで人望も厚い。

 国を背負うべき人だと、誰もがそう思い、期待していた。


 ある日、そんな彼が遠征中に負傷を負ってしまう。

 まだ魔王討伐部隊に後の『魔王』、広瀬斗真が入るよりも前の事で、当時の兄は死の瀬戸際で戦っていた。

 そんな兄を見て、ニアミリアはどうしようもないくらいの不安を覚えた。


 着実に死へと向かい、魔法では治すことは出来ない、特殊な魔物にかけられた呪いは、兄自身がどれだけ抵抗できるかにかかっている。

 自分を含めた周りの人は、それを見ているしか出来ない。

 それが腹立たしくて、苦しんでいる人ひとり救えない、自分の無力さを恨んだ。


 当時、幼かったニアミリアは何を考えたのか、針で自分の指を刺した。

 小さく開いた穴から、血が一滴だけ溢れ、それ兄の口へと入れる。

 意味なんてない、ただ兄に元気になって欲しい。それだけだった。

 その時、何故自分の血を飲ましたのか、ニアミリア自身もよく分かっていない。


 ただその後、驚異的な回復を見せた兄が、助かった時の喜びは、今でもハッキリと覚えている。














 もうどれくらい泣いただろう。

 ホルはふとそんなことを思った。

 どれだけ泣いても、どれだけ呼んでも、もう彼は何も反応を示さない。

 

 この世界で自分を受け入れてくれた、たった一人の少年は死んでしまった。

 その歪で残酷な事実を受け入れることは、まだ出来なくて、嘘だと心が叫ぶ。

 自分にあるのは破壊の力だ、誰かを助けるための力は無い。

 救済者ではなく、破壊者なのだ、その事実を今は気が狂うほど憎んだ。


「千佳! 空人は!?」


「ソラトお兄ちゃん!」


「やっと、追いついた……」


 下層の魔物を殲滅し終えた真奈美が、テリーに乗って現れる。

 そして、魔物と交戦していた滉一とアリュラも合流した。

 みんな、生きていた。

 だけど、一番居て欲しい人はもう居ない。


「お姉ちゃん……ソラトさんが……ソラトさんがぁ……!!」


 千佳が泣きじゃくりながら真奈美の胸に飛び込んだ。

 いつもなら、優しく千佳を抱きしめる彼女も、空人の状態を出て放心状態だ。


「ソラトお兄ちゃん……? なんで寝ているの? なんで……」


「誰がこんなこと……」


 滉一とアリュラも同じく放心状態だった。

 現実をまだ誰も受け入れられない、そんな自分たちに上から声が送られる。


「そんなにその男の死が重要かい?」


 全員が首を上にする。そこには月光に照らされる眼鏡をかけた黒髪の少年。

 彼が空人を殺したのだろうか?


「斗真……あんたが空人を……?」


 真奈美の問いに斗真と呼ばれた男は、明るい笑みを浮かべる。


「そうだよ。僕が魔王だと知っていたから殺した」


 真奈美の拳が固く握られ、力を込めすぎて小さく震える。

 確かな殺意を込めて斗真を睨んだ真奈美は、ゆっくりと前へ。


「殺して……やるっ」


「一緒には行けそうにもない……か」


 魔王と名乗った男は、そう言ってため息。

 空人の死など彼にとっては取るに足らないことなのだろう。


「アンタって人はぁ!!」


 滉一が怒号をあげて、最上階に居る魔王に向かって飛び出す。

 それを合図に、テリーが真奈美とアリュラを背に乗せて後に続く。


「千佳! ネナさん! 空人を連れて逃げて!」


 真奈美の声だ。そうだ、戦えない者たちは逃げないとマズい。

 魔王との戦いだ、巻き込まれればタダではすまない、今すぐに逃げないと。

 だけど、何処に?


「千佳ちゃん。ソラトさんを運ぶのを手伝って、あなたも」


 涙を拭いて立ち上がったネナが、千佳と翡翠色の髪を持った少女に声をかける。

 空人の手を握っていた少女は、少し戸惑い、遅れて手を離した。


「ホルちゃん。ソラトさんから離れて」


「いや……ですっ」


 嫌だ。離れたくない。

 彼が居ない世界に自分の居場所などない。

 何所にいったって、同じだ。世界は色を失って、また独りになる。


「嫌です! ソラトさんが居ないのに、ドコに行っても同じです!! ねぇ、ソラトさん……今から……皆を助けるんじゃ……ないんですか……?」


 どれだけ名前を呼んでも、返事が返ってこないことに、再び頬を伝う涙。

 彼の胸顔埋め、どれだけ泣いてもきっと収まらない。

 そんな自分に、少女が話かけた。


「もし……ソラト様がいれば……王都は救えるのですか?」


 嗚咽で上手く声が出ない。でも、自信を持って言える。


「救えますぅ……私たちなら……絶対にっ」


 火の海に王都がつつまれ、魔物が街を破壊している。

 目の前には魔王と言う絶望的状況でも、『神殺し』の自分とそれの契約者である空人の前に敵など居るはずもない。

 どんな敵でも勝ってみせる、そのための神殺し()だ。


「でも……私には、ソラトさんを救えないんですっ……何かを壊すことしか出来ないんですよぉ!」


 何が『万物を破壊する究極兵器』だ。目の前の大切な人も救えないくせに。

 声を出して泣きじゃくる、己を無力に行き場のない怒りを感じながら。


「なら……私がソラト様を救います」


 ホルはバッと顔を上げ、少女を見る。

 少女の言葉は本当だろうか、冷たくなった空人を救うことなど、出来るのだろうか?


「大丈夫です。任せてください」


 少女はそう言って、下唇を白い歯で噛んだ。

 口端から一滴の血が流れ、ニコッと微笑んだ少女は、穏やかな表情で眠る空人の傍で膝を曲げた。


「ソラト様……アナタが死ぬのはまだ早い……これだけ待っていてくれる人が居るのですから……」


 少女は眠る空人に優しく口づけを施した。


















 暗闇の中で最初に感じたのは、全身を駆け巡る暖かさだった。

 その温もりは喉を過ぎて、心臓に到達。そこから全身へと駆け巡る。

 指の先まで暖かさが行き届き、ピクっと指が動いた。


 徐々に灯る頭の灯に、意識が覚醒していく。

 そして、誰かの声が遠くで聞こえた。


「――さん!」


 どこかで聞いたことあるその声。

 不安そうな声だ。その人は泣いているのだろうか?

 徐々に蘇る記憶をたどり、誰の声だったかを思い出す。


 次第に輪郭を帯びた記憶に、浮かんでくるその人は、フワリと腰まで伸びたピンク色の髪を揺らし、可愛らしい笑顔を浮かべていた。

 俺の相棒で、この世界で最も信頼できる人。

 主人公じゃない俺に誰かを守る力を貸してくれた人。

 

 そうだ……俺はまだ彼女に言っていないことがある。

 今更、照れくさくて言うのも恥ずかしい。


 ――ありがとう。なんて、俺と彼女の関係じゃ柄でもない気がする。


 だけど……言わないと……俺を信頼してくれた彼女に応えるために。


「ソラトさん!!」


 彼女の声がハッキリと聞こえる。

 俺が待ち続けていた『ホル』の声が。





「起きろぉ! ヘタレぇ!!」


「誰が、ヘタレだこの野郎」


 目を覚まして最初の一言がホルへのツッコミって……

 身体を起こすと、すぐ傍に口端から血を流したニアミリアの姿。


「ソラト様……大丈夫ですか?」


「おう。助けてくれてありがとう」


 彼女が血を流している状況、そして俺が息を吹き返した事実。

 それらから推測されるのは、彼女の血は『破壊の力』ではなく過剰なまでの『治癒能力の向上』だ。

 おそらく、彼女の血を体内に取り込んだドラゴンが死んだのは、健全な状態では度の過ぎる治癒能力の向上により、身体が暴発した。

 しかし、死にかけていた俺にはそれぐらいの治癒能力向上が、妥当だったのだろう。


 瀕死の人は救えるが、怪我した人は救えない。

 彼女の力もまた、破壊しか出来ないホルのように歪だった。


「ソラトさんっ、ホントにソラトさんですよね……?」


 赤く腫れた目。頬には涙が通り過ぎた後。

 ヒドイ顔だ。久しく見た妖精の顔にそんなことを思った。


「当たり前だ。死んだ人間は話さないだろ?」


「もう! ホントに死んでいたんですよ! どれだけ……心配で……また、独りに……」


 ホルは俯き、肩を震わせた。

 そうか、こいつにとって俺は唯一の理解者なのか……それが居なくなると言うことは、こいつにとっては天涯孤独を意味する。


 ホルがそう思って、泣いてくれた事実を少しだけ嬉しく思い。

 口元が緩むが、手で隠した。

 そして、開いている方の手の人差し指でホルの頭を撫でる。


「もう泣くな。こうやって、帰ってきたろ?」


「はい……今回は許します……でも、次は私のいない所で勝手に死なないで下さい!!」


「りょーかい」


 笑顔でそう答えた。

 まだ、上手く力の入らない足元に気を付けて立ち上がる。

 心配そうな目で見て来る、ネナさんと千佳ちゃんと目が合う。

 さっきまで、広瀬が居た場所からは爆発音が聞こえて来る。


 千佳ちゃんとネナさんが居るってことは、滉一君も来ているのか。

 そして、魔王と戦っている。


「千佳ちゃんとネナさんは、この子を連れて隠れていて。巻き込まれと危ないから」


「はいっ」


「分かりましたっ」


 涙をぬぐった二人が返事をする。

 この二人も俺は泣かせたのか。

 どれだけ、心配されたんだ……なんか、情けなくなってきた。


「女を泣かせる男は最低です! 責任取って、ハーレムしてください!!」


 こんな状況でもホルは微塵もブレない。こいつの姿勢に対して、そろそろ尊敬の域に到達しそうだ。

 しかし、いつも通りアホなことを口にする、ホルに軽く人差し指でデコピンをする。

 指が当たった場所を抑えているのに、ホルは嬉しそうな笑みを浮かべた。


「いつものソラトさんで安心しました……」


「アホか。俺はいつも俺だ」


 本当に彼女たちを心配させてしまったんだと、少しだけ後悔と反省。

 しかし、すぐ次にするべきことに頭を切り替える。


 俺はいつも通り。だから、することは決まっている。


「ソラト様……」


「ん?」


 床にしゃがみ込むニアミリアが、上目遣いで俺に聞いて来た。


「王都は、助かりますか? また、何時もみたいに戻りますか!?」


 俺は主人公じゃない。

 そんなことは分かっている。だから、約束できないことを口にしてはいけない。

 だけど、俺が主人公(彼ら)に憧れたように、ニアミリアとって今の俺は頼るべき存在なのだ。

 

「ホル。魂の刻印(ルーン)、レベル(ツー)


「分かりました!!」


 ホルの翡翠色の光が俺を包み込み、右手の甲に『Ⅱ』の英数字が白い字で浮かび上がる。

 刀身は翡翠色、柄は黄金のいつもの剣を握り、一振りすると、光が散っていく。


「ニア」


「はいっ」


 自信がないとか、そうゆう問題じゃない。

 いつかのラノベで読んだことがある。


 ――英雄とは名詞じゃない。動詞だ……と。


 俺でも行動を起こせば、英雄になれるだろうか?

 いや、今はなるしかないのだ。それを求められている。

 だから俺は、ニアミリアに言った。


 力強く、自信を持って。


「王都は救って見せる。俺たちに任せとけ」


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