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アナタと歩く英雄譚  作者:
第四章
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第七話 悪夢

「トウマ様が魔王……?」


 俺の背中に隠れるニアミリアが呟く。ベストラが教えてくれた、新しい魔王の名前は『広瀬 斗真』、魔王討伐部隊の隊長にして、真奈美の恩人の名前だった。

 何故、奴が異界人側を裏切り、魔王軍側についたのか……色々と可能性が考えられるけど今は、助かることだけを考えよう。


 相手は前魔王を殺した男。力は間違いなく俺よりも遥かに上だ。

 魔族たちの中に彼に従わない奴が居る理由は、人間だからだろう。

 力が絶対の魔族でも人間はまた異質で、邪険にされる対象なのだから。


 問題は奴が何故ホルの本当の名前である『神殺し』を知っていたか。

 魔王軍もあの破壊の力を欲しがっている、神殺しの力を奴らが知っていたら欲しがると思う。

 万物を破壊する、絶対的な力は戦時において、非常に魅力的に映るからだ。


 誰が『神殺し(それ)』を教えたのか……考えるだけで気分が滅入りそうだった。


「そうですよ、ニアミリア。僕が魔王だ」


 広瀬が両手を広げ、堂々と宣言する。

 俺が嘘ついている可能性だって、ニアミリアは考えたはず。

 違うと言い張れば、まだ逆転の可能性は残されていたのに、言い切ると言うことは彼には自信がある。


 ――目撃者は全員殺す、と言う自信が


「で、では……王都に魔物を呼んだもの?」


「僕だ」


「城の騎士たちと異能持ちの方々が仲良くなるよう、尽力していたのは?」


「真っ赤なウソだ。僕以外の異界人が調子に乗ると面倒だっただけだ」


「で、では……戦地で兄様を殺した魔物と言うのは……?」


「僕だ。後ろから奇襲で殺した」


 薄笑いを浮かべ、ニアミリアの脳裏に刷り込むように言葉を放つ広瀬を見て、ブチっと俺の中で何かが切れる音がした。


「ひろせぇ!!」


 込められる渾身の力を込めて床を蹴る。

 魔王との距離を一瞬で詰め、火属性を付加した槍を伸ばした。

 余裕の表情を崩さない魔王の目の前に、突然鉄の壁が現れる。

 その壁に槍が当たるとあっさりと弾かれ、折れてしまう。


 そして、鉄の壁が消えて、魔王が顔を出す。

 まずは一発。俺の腹に拳をねじ込む。


「がっ」


 肺の空気が一気に出て、目の前が霞む。

 魔王は次に首を掴み。俺の身体を持ち上げた。

 同じ異界人なのに、凄まじい力だ。

 首を掴む手を離そうにも、ビクともしない。


「異界人は真奈美以外、全員殺すつもりだったから、君が死のうと早いか遅いかだけだ。王都に居る異界人は殆ど殺し終わっている。後は、魔物にゆっくりと駆逐されるだろう」


 真奈美だけは助けるつもりだった? なんで……


「へぇ、こんな状況でもまだそんな眼が出来るんだ」


「真奈美を……どうする……気だっ」


 何とか出した声は酷く掠れていた。


「知っているか分からないけど、僕と彼女は昔恋人同士だった。君は知っているかい? 彼女の甘い蜜の味、甘い声の心地よさ……彼女は僕にふさわしい女なのさぁ!!」


 魔王が俺をニアミリアの居る方へと投げた。

 一瞬の浮遊感の後、背中に衝撃。床を転がりニアミリアの近くでその勢いが止まる。

 咳き込んで、肺の空気を入れ替える、そして魔王を睨むが、奴はそれを鼻笑いで一蹴した。


「君が『神殺し』と期待していたけど……こんなに弱いんじゃ違うようだね。なんで、こんな男と真奈美は居たんだか……」


「お前……真奈美が選ばなかったら、どうする気だ?」


 その問いに広瀬は一瞬驚き、そして当たり前のように言った。


「殺すに決まっているよ? 僕にひれ伏さない彼女に価値なんてないだろ?」


 さすが魔王様。強欲で容赦のない野郎だ。


「僕は選ばれた人間なんだよ! 君たちのような下等生物と一緒にしないでくれ!! 下等生物らしく、僕に跪け!」


 広瀬の手元が光輝き、手榴弾が一つ出て来る。

 さっきのロケットランチャーや鉄の壁と言い、こいつチートは物質を造る能力のようだ。

 だけど、ただの手榴弾ならさっきみたいに近づく前に破壊すれば……


 そう思い、広瀬が手に握る手榴弾を凝視する。

 そして、それが地面にゆっくりと落とされたことに驚く。

 な!? 足元で爆発すればタダで済むわけが……


 床に当たる。そう思った瞬間、黒い円形の穴が手榴弾を吸い込んだ。

 そして、俺とニアミリアの間にも同じ穴が出現する。

 次に何が起こるのか、直感で理解した。


「ニア!」


 呆然とする王女を強引に引き寄せ、覆うようにして抱きしめた。

 穴から出現するのは、広瀬が足元に落とした手榴弾。この穴は転移魔法で出現した穴だろう。

 魔王軍が転移魔法を使い王都に攻めてきた時点で、魔王の広瀬も同じ魔法を使える可能性を考慮するべきだった。


 そんな後悔ももう遅く、手榴弾は爆発し、背中に気を失うかと思うほどの熱さと痛みが走る。

 歯を食いしばり、小さなニアミリアを抱きしめる腕に力を込めて、意識を繋ぎ止めた。


「ソ、ソラト様!?」


 ニアミリアが不安そうな声をあげる。手榴弾が近くで爆発したんだ、不安になるのも当然か。

 いや、この子は手榴弾なんて知らないか。

 そんなことを考え、次にここから逃げる方法を考える。


 背中から発せられる痛みのせいで、俺は動くことが難しい。

 だからと言って、このままじゃ確実に殺される。

 一か八……賭けるしかない……


 残った魔力を使って、火魔法を発動させる。

 部屋の床に向けて発動した魔法は、足場を砕き俺たちの身体を宙に投げた。


















 ニアミリアは目を開けた。経験したことのない浮遊感の後、衝撃。

 自分と床の間に入った男は、辛うじて生きていた。

 背中からは、魔王につけられた傷が高い場所から落ちた衝撃で悪化したこと、新しい怪我のせいもあって、血が溢れてくる。


 徐々に出た血は、赤い絨毯となって彼の下に敷かれる。

 今すぐ逃げないといけない。助かるにはそれしかない。

 だけど、ここは塔の屋根の上で、逃げる場所なんて何処にもない。


 そう思っていると、自分を命懸けで守った男は手を天に向け、軽く振った。

 火の玉が浮かび、塔の壁を破壊する。男は逃げ道を造ったのだ。

 塔の中に逃げ込めば、まだ可能性はあるだろうか。


「ソラト様、早く!」


 男に問いかけるが、彼は優しい笑みを浮かべ、自分の頬に手を当てた。

 血で赤く染まった手を。


「俺を……置いて……にげ……ろ……」


「嫌です! ソラト様も一緒にっ」


 涙が溢れて頬を伝う。

 彼の手にも当たる涙の温もりは、彼に届いているだろうか?

 嗚咽で声が出ない。城で孤独な自分の友達になった異界人。恐怖の対象でしか無かった異界人のイメージを変えた人。

 その人が微笑むと、その手は力なく離れた。


 その手を掴み、力強く握る。

 しかし、彼からは何も返ってこない。


「ソラト……さま……?」


「………」


 返事も返ってこない。

 目を閉じ、穏やかな表情を浮かべる彼の顔は、今すぐ目を覚ますのではと思うほど綺麗だ。

 しかし、それを彼が沈む血の海と、自分と彼の手についた赤い血が否定する。


 何をしたらいいのか分からない。放心状態のニアミリアの耳に入って来たのは誰かの足音。

 一瞬幻聴かと思うが、徐々に大きくなる音にそうではないと気がつく。


 音がするのは、彼が逃げ道にと外壁に空けた穴。

 そちらを見ると、黒い外套に身を包む、猫耳を持った美人の獣人と、真っ白な外套と白髪を持った少女が居た。

 彼女たちは急いできたのか、肩で息をしている。

 そして、空人と自分を見て目を大きく見開く。


「「ソラトさん!!」」


 二人が声を出して、彼に近づく。

 彼女たちは以前、彼が言っていた仲間だろうか。

 だとしたら、なんと申し訳ない事をしたのだろう。


 ――彼は自分を守るために死んだ


「ご、ごめんなさい……私を守るために……ソラト様は……」


「嘘……千佳ちゃん! 怪我は治せないの!?」


 獣人の女性の問いに、白髪の少女は首を横に振る。


「死んだ人には……もう……」


『きっと! ドッキリですよ!』


 どこからか声がした。そう思った瞬間、獣人が纏う黒の外套が光を放ち、妖精が姿を現す。

 桃色の髪を持つ妖精は、彼に近づき顔をペチペチと叩く。


「こんな所で寝ている場合ですか? 王都に魔物が押し寄せていますよ? 私たちの力を見せつけましょうよ!」


「………」


 彼は何も言わない。


「ホルちゃん……やめて……」


 獣人の女性が顔を覆い、嗚咽を漏らす。


「ほら。ネナさんが泣いちゃいましたよ? 美人を泣かせるのはダメだって前に言いましたよね……?」


「………」


 彼は何も反応しない。


「ホルさん……ソラトさんはもう……」


 白髪の少女が拳を固く握り、彼に背を向けた。


「千佳ちゃんも泣かせて……ダメな人ですね……」


「………」


 妖精がさらに強く、彼の頬を叩く。

 それでも彼は何も反応しない。そして、妖精は彼の胸ぐらをその小さな手で掴んだ。


「起きて下さいよ!! 起きて、また私に酷い仕打ちをしろよ!! このヘタレ!! 何、勝手に一人で女の子守って、かっこよく死んでるんだよ!! なんで……なんでぇ……私を置いて……」


 悲痛な叫び。それでも今の彼には届かない。

 とうとう妖精は、彼の胸に顔を埋め、泣き崩れた。


「また独り……私は……」


 嗚咽に交じってそんな声が消えた。

 この妖精が彼の言っていた相棒だろうか。

 彼の唯一にして、替えの効かない、絶対的信頼を寄せる相棒。

 『相棒が助けに来るから』、彼はそう言い張って、信じて待ち続けていた。


 彼にそこまで信頼される妖精が羨ましかった。

 二人をつなぐ絆が眩しすぎて……


 でも、その絆ゆえに妖精は泣いている。

 もう冷たくなり、動かなくなった彼の胸の中で。


 悪い夢なら覚めてくれと、心の底からそう思った。


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