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アナタと歩く英雄譚  作者:
第四章
42/51

第六話 魔王

 背中が熱い。焼けただれて皮膚が無くなったと思うほど熱かった。

 足場が無くなり、浮遊感が身体を包む。


 視線の先には、満月を背中に魔王と呼ばれた男。

 蒼白く降り注いだ月光に照らされた顔は、今はもうハッキリと見えない。

 ただ、勝ち誇ったように、吊り上げた口角だけが目に焼き付いた。


 腕の中で小さくなる、翡翠色の髪を持つ王女様がギュッと服を掴む。

 このまま落下しても、彼女だけは助けることは出来るだろうか……今のままでは二人とも死ぬか、一方が死ぬ。

 だけど、背中の熱さが、自分の命がもう長くないことを示している。

 

 死にたくない。だけど、助かりそうにもない。

 あぁ、これは悪い夢だと、夢なら覚めてくれと、誰かが言った気がした。





 時は滉一たちが王都に到着する少し前に遡る。





「魔王軍の将軍たちも来ているわ。お互い死ななかったら、また会いましょ」


 ベスドラがそう言って、姿を消した。

 彼女が使っていたのは、アクセルで魔物増大の原因となった転移魔法のようだ。

 当然、王都強襲のネタも同じものだろう。


 王都を滅ぼすつもりで魔物を送り込むのなら、途方もない数の魔物が必要となる。

 それを同時に送り込むための転移魔法の仕込みには、莫大な労力がいるはず。

 だから、魔王軍は王都などの大きな街を攻めることは出来ないと思っていた。


 ――すでに魔王が王都に潜り込んでいない限りは


「何この揺れ!?」


 真奈美が飛び起きて、周りを見渡すが、景色に変化はない。

 外が見えない以上、どれくらいの魔物が王都に攻めてきたのかは分からない。

 ベストラが言うには、魔王軍の他の将も来ている、向こうは本気だ。


「魔王軍が攻めてきた。今すぐここから脱出しないと」


 再び大きな揺れ。

 この塔に巨大な何かが直接ぶつかったような揺れと同時に、どこかでガラガラと外壁が崩れる音がした。

 魔物による直接攻撃か、魔法による遠距離攻撃か、どちらにせよ敵が入ってくる。


「とにかくこの手錠を何とかしないと」


 手に付いた手錠を見たとき、真奈美の手錠がガチャと音を立てて外れて落ちた。


「あ、魔法が使えるみたい」


 真奈美が呆気にとられ、呟いた。

 どうやらこの独房一帯に作用していた魔法が、先ほどの強い揺れで消失したらしい。


 自分の手錠を差し出し、真奈美がそれを魔法で解除する。

 久しぶりに両手が自由に使える感覚、ずっと拘束されていた手首の動きを確認していると、真奈美が独房の入り口を魔法で爆破していた。

 相変わらず、派手な彼女だった。


「ほら! これ使って!」


 真奈美が一本のロングブレードを投げ渡してきた。

 どこから取り出したのか、そんな疑問が浮かんだが、すぐに消える。

 独房から伸びる長い廊下には、衛兵たちの死体が転がっていた。この剣も亡くなった衛兵が使っていたものだろう。


 そして、衛兵の命を奪ったモノ達がこちらに気がついた。

 成人男性くらいの大きさに手には槍や剣を持ち、黒色の肌を持つゴブリン。

 

 強そうだ。直感的にそう思った。


 ゴブリンは何度も戦った経験があるが、魔王軍のゴブリンは初めて戦う。

 しかも今、俺の手元には武器(ホル)が居ない。

 初めて握る真剣は、ホルよりもかなり重く、いつも通りに動けるか心配だ。


 10匹ほどのゴブリンが狭い廊下を一斉に駆ける。

 横に居る真奈美がゴブリンたちに向かって指を鳴らすと、彼女の周りに火の槍が六本浮かぶ。


「杖のない今の状態じゃ、威力の高い魔法は使えないわ。先手は打つからトドメはお願い!」


「りょーかい!」


 火属性を武器に付加する、『フレイム・エンチャット』を詠唱破棄で発動させる。

 魔力を帯びた長剣の刀身が紅く染まり、握った右手に力を入れた。

 用意の出来た俺を確認して、真奈美が火の槍を向かってくるゴブリンへと放つ。


 魔法が当たったゴブリンを基準に、爆発が起こり、周りのゴブリンも巻き込んでいく。

 ゴブリンたちが獣のような、悲鳴を上げて床をのたうち回る。

 倒せなくても無効化には成功したらしい。

 それらのゴブリンに素早く近づき、首を切り落としていく。


 いつもなら簡単に切れるのに、剣を握る手には相当重い手応えが残り、なんとか切断できる。

 魔法を付加した状態なのに、想像以上に悪い切れ味に心の中で舌打ちをする。

 すべてのゴブリンにトドメを刺し終える頃には、刀身が刃こぼれをしていて使い物になりそうになかった。

 しかし、武器は必要なので、剣を捨てて衛兵の死体から槍を拝借する。

 死体からの剥ぎ取りなんて、人に対してするものではないが、非常時の今はそんな悠長なこと言っていられない。


 下の階から足音と悲鳴が聞こえる。

 さらに、下から魔物が上がってくるようだ、倒さないといけない。

 だけど、今はそれよりも気になることがあった。


 王都は魔物の強襲を受けて混乱状態だろう。

 魔王は王都に居る。ベスドラに魔王の名前を教えてもらい、その確信を得た。

 ならば、魔王が混乱する王都で次にすることは? 優先して排除したいことは?


 出た答えは一つだった。


 下の階から新しくゴブリンが数体登って来る。

 

「真奈美。あいつら任せてもいい?」


「いいけど。あんたはどうするの?」


「ニアを助けて来る」


 ニアミリア。魔王を殺せる力を持つと言われる王女様。

 本人が言うには、以前ドラゴンに襲われ怪我をしたとき、傷口から出た血がドラゴンの体内に入ると、そのドラゴンはバラバラに跡形もなく居なくなったそうだ。


 『破壊の力をその血に宿す少女』、ドラゴンすら殺せるその力は、対魔王の切り札として安全を考慮し、この塔に幽閉された。

 本人が言うには、そんな大層な力じゃないらしいが、彼女のことを知っている魔王なら、混乱に乗じて彼女を狙うはず。

 自分を殺せる力を持つ者は、最優先で消さなければいけないのだから。


「はぁ……分かったわ」


 呆れる言う彼女は指を鳴らし、火の槍を生み出す。

 それをゴブリンたちに向かって放ち、一直線に飛んでいく魔法がゴブリンたちを炎上させ、活路を開いてくれた。


「今のうちに行きなさい! でも、絶対に無事で帰ってくること! 王女様を連れてね」


「あいよ。ありがとう! 恩に着る!!」


 炎上するゴブリンたちを飛び越し、螺旋階段を駆け上がる。

 まだ、魔物は上にはたどり着いていないらしい、上がって来ても真奈美が倒してくれるから、背中を気にする必要はない。

 最上階まで駆け上がり、ニアミリアの部屋の扉を蹴りで豪快に破った。


「ニア! 無事か!?」


 ワンフロアぶち抜きの広大な部屋は、机と彼女が眠るベッド以外何もない、生活感を感じさせない部屋だった。


「ソラト様!」


 泣き声のニアミリアが胸に飛び込んでくる。

 彼女の小さな身体をしっかりと抱きしめ、とりあえず彼女が無事だったことに安堵する。


「塔で何が起こっているのですか!? 魔物の叫び声と衛兵の人たちの悲鳴が聞こえて来て! それで!」


「一回、深呼吸して」


 出来るだけ優しい声で彼女に言葉の投げかけ、深呼吸をさせる。

 そして、ゆっくりと言葉を選び、今王都で何が起こっているのかを伝える


「落ち着いて聞いてほしい。王都に魔王軍が攻めてきた。ここに居たら危ないから、今からどこか安全な場所に逃げる」


 ニアミリアは何も言わず、ただ頷いてくれた。

 聡明な子だ。俺の言葉を素直に受け入れる彼女を見てそう思った。

 今この事態が彼女にとっては非日常で、受け入れろと言うには無理がある。

 

 それでも、今どうするべきなのかを冷静に判断し、受け入れるのは彼女が王族の血を継いでいるかだろうか。

 逃げるためにニアミリアの手を握り、真奈美のいる下の階に戻ろうとした時、声が聞こえた。


「王女様を連れ行くのは困るなぁ」


 その声に背筋が寒くなり、逃げろと本能が叫んだ。

 ニアミリアの小さな身体を抱きかかえ、地面をける。

 その男から、距離を取ると間髪入れずにファイヤーボールを発動させ、六つの火球を男に向かって投げつけた。


 部屋に響き渡る爆発音。ニアミリアはその音に驚き耳を塞いでいる。

 そして、俺がその人物に攻撃したことにさらに驚く。


「ソ、ソラト様!? 味方に向かって何故!?」


 今は彼女の問いに答えている余裕はない。

 追加の魔法を発動させて、攻撃しようとした時だった。

 立ち込める煙を切り裂いて、ミサイルが顔を覗かせる。

 こちらの世界では見ることの無い物質は、一直線に向かってくる。


 避けるスペースを確保するために、フレイム・エンチャットを槍に付加させて、天井を突いた。

 人ひとり分が通れそうな穴を開けて、ニアミリアを脇に抱きかかえて飛ぶ。

 遠目に見える王都は、すでに火の海で建物を破壊するサイクロプスやゴーレムの姿が確認できた。

 

 ――王都は終わりかもしれない


 そんな考えが頭をよぎった。

 その時、眼下に広がる塔の屋上部分が吹き飛び、ニアミリアの部屋が空にむき出しとなる。

 そして、その男はこちらに向けてロケットランチャーを構えていた。

 狙いを定め、放たれたミサイルにファイヤーボールをぶつけると、ミサイルが空中で爆発した。


「結構、やるね」


 男が呟く。まだ余裕があるのか、ニアミリアの部屋に着地した俺たちには何も攻撃を加えてこなかった。

 同じ異界人特有の黒髪とこちらの世界で見るのは珍しい眼鏡。

 優しい顔立ちからは想像できないほど、この男は俺たちを本気で殺しに来た。


「ソラト様! それにトウマ様も! 今はお互いで争っている場合ではありません! 王都に居る魔物を排除しないと!!」


 争う俺たちをニアミリアが制する。

 彼女が言っていることは正しいし、今最も優先するべきは魔物の殲滅だ。

 俺と広瀬が同じ仲間なら、そうなるはずだった。


「王女様の言う通りだ。僕に彼女を預けて、君は討伐部隊と一緒に魔物を狩って来てくれ」


 平然とぬかす広瀬に少しだけ笑いが出そうになる。それをグッとこらえ、眼鏡の奥で動くこいつの黒目を真っ直ぐに見る。


「この子を殺そうとしている奴に渡せって? 笑かすな」


「え? トウマ様が……え?」


 混乱するニアミリアの身体を引っ張り、自分の後ろに隠した。

 そして、手に持った槍を広瀬へと向ける。

 広瀬は俺の言葉にため息をもらし、肩を竦めた。


「言いがかりもヒドイな。僕は魔王討伐部隊の隊長だよ?」


「その討伐部隊は何も意味がないよな。なんせ、隊長が討伐対象だから」


 俺の言葉に広瀬の肩がピクっと動いた。

 

「そうか……君は僕の正体を……」


 そう呟き、『魔王』は口端を吊り上げた。


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