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アナタと歩く英雄譚  作者:
第四章
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第五話 燃える都

「なんだよ……これ……」


 滉一は眼下に広がる王都の光景に絶句した。


「コーイチ。これはどうゆうことだ?」


 滉一たちを背中に乗せるレッドドラゴン、『シルヴィック』が滉一に問うた。

 赤い体躯に金色の瞳、力強い四本の腕に大地を抉る翼。

 王都への道中で遭遇したドラゴンは、覚醒した滉一との死闘の果てに負けを認め、見逃す代わりに千佳と新しく契約した魔物である。


 シルヴィックの怪我を治すのに時間がかかり、王都への出発が遅れてしまった。

 それでも、地上を移動するよりも安全に動けると判断し、怪我が治るまで待つことに。

 そして、その背中に乗せてもらい、王都まで来た。


 後は空人たちの居場所を突き止め、救出するだけである。

 眼下に広がる王都が、魔物の大群による襲撃を受けていなければ。


 同じく背中に乗るアリュラ、ネナも王都の惨状には言葉が出ないようだ。

 地上にはゴーレムや、オーガにサイクロプスの姿も確認できる。

 皆、肌が黒いことから魔王軍の魔物だろう。

 確かに脅威だ。しかし、疑問がある。


「魔王討伐部隊は王都に居るんですよね?」


「は、はい。そのはずです」


 滉一の肩に乗るホルの問いに、千佳が頷いた。

 そう。魔王討伐部隊の異界人は王都に常駐している。

 遠征に出ていたとしても、数人は王都に残るはずである。

 もちろん、王都が襲われた際に備えてだ。


 だから、眼下に広がる王都で魔物が暴れ回り、火の海に包まれているのは異常と言う以外なかった。


(二人は大丈夫だろうか……)


 滉一の脳裏に最悪の事態が思い浮かぶ。すでに王都は半壊状態に近い。

 救うには、全ての魔物を倒す必要がある。仮に滉一が全力で戦ったとしても、全てを全滅するには途方もない時間がかかる。

 当然戦いながら、空人や真奈美を探すことは不可能で、真奈美はともかく空人はホルが居ないと全力で戦えない。


 そんな状態でこの魔物が蔓延った王都を生き残れるのか。

 現実的な問題は難しいと言わざるを得ない。

 目的を達成するだけなら、二人を早く探し出して、王都を離脱することがベストである。


(だけど。そんなこと、ソラトお兄ちゃんはしないよね?)


 あの人はこんな絶望的な状況でも、きっと飛び出す。

 守れる者を守るために。


「シルヴィック! 僕たちを地上に降ろしてくれ!」


「正気か? 地上はすでに魔物たちで埋め尽くされているぞ」


「頼む」


「……了解した」


 シルヴィックが魔物の少ない、王都の外れに急降下。地上に居るゴブリンたちを火のブレスで攻撃した。

 僅かに生き残ったゴブリンをアリュラが弓でトドメを刺す。

 これで、降下場所の安全を確保した。


 滉一たちは全員シルヴィックの背中から降り、王都に目を移す。

 炎上する王都から、魔物の叫び声に交じって、悲鳴も聞こえる。

 爆発音や剣戟の音もするから、騎士団や魔王討伐部隊は全滅したわけではなさそうだ。


「テリー、準備は出来てる?」


「いつでもいいぞ」


 降下してから千佳がテリーに魔力を与え、戦闘態勢を整えていた。

 準備を終えた白犬は、鼻息が荒くやる気満々のようだ。


「じゃあ。テリーは千佳とネナさんを乗せて、ソラトお兄ちゃんと真奈美お姉ちゃんの探索をお願い。ホルさんはいつも通り、ネナさんを守るマントになって同行してくれ。ソラトお兄ちゃんにホルさんを託せばあとは何とかしてくれるはず。アリュラさんは僕と一緒に来てくれ。王都の魔物を一匹でも減らす」


 指示を受けた各々が動き出す。

 ホルが輝きを増し、黒いマントとなりネナを覆う。

 戦闘能力のない彼女をホルが武器化し、守ることで今までの戦闘も潜り抜けてきた。

 ネナと千佳がテリーの白い身体に跨り、白い体躯が王都へ消える。


 テリーの鼻があれば、最短で二人を探し出してくれと思う。

 この数の魔物を殲滅するのであれば、ケルベロスすら殺す空人の力が必要である。

 広範囲攻撃が可能な真奈美の魔法だって、この状況では必要で、ただ二人が生きていることを祈るばかりだ。


「コーイチ。我はどうする?」


「空の敵を殲滅してくれ。制空権は確保したい」


「承った」


 シルヴィックが砂塵を巻き上げ、夜の空へと飛んでいく。

 王都上空には、グリフォンやハーピーのような飛行タイプの魔物がいる。

 これを蹴散らせば、空からの援護が可能となる。

 そうなれば、魔物殲滅の可能性はまた高くなるはず。


(僕たちはまた無事に会えるのかな……)


 そんなことが頭に浮かんだ。


「コーイチ君?」


 弓を手に持つアリュラが不安そうな瞳を浮かべる。

 滉一は弱みを見せるな、と自分に言い聞かせた。


 今、彼女たちが頼るのは自分なのだ。勇者と言われる自分なのだ。

 堂々と振る舞え、弱気になれば聖剣の性能に影響する。


「なんでもありません。僕たちの出来ることをしましょう」


 自分に言い聞かせるように言った。

 アリュラと共に火の海となり、魔物が蔓延る王都へと入る。

 普段は人がにぎわう大通りには、動かなくなった民の姿に交じって、黒髪の異界人の姿も見える。

 その光景に歯ぎしりをして、滉一は惨状の中を疾走する。


 異界人たちを倒せる程の魔物の襲撃?

 そう考えるが妥当かもしれない、それでも滉一の中にある違和感は消えない。

 大規模な魔物との戦闘に関しては、王都に居る異界人たちは十分な経験を積んでいる。

 仮にもこれまで、魔王軍との戦争で戦線を維持してきた。


 そんな彼らが今になって魔物にやられる理由。

 桁違いに強い魔物が居るか、やられざるを得ない状況に陥った。

 考えられる可能性は、それくらいしかない。

 そうだとしても、チートを持つ異界人たちがこれほどまでに総崩れになるとは思えなかった。


 目の前に黒い肌を持った一角鬼(オーガ)の姿が見える。

 滉一が聖剣を発動させ、黒影となって、オーガとの距離を詰めた。

 片足を切り落とすと、バランスを崩したオーガは両手を地面ついて、身体を支える。

 そんなオーガの顔をアリュラが正確に射抜いた。


 力なく倒れるオーガの絶命を確認して、次に向かおうとした時、空から声が聞こえた。


「あらぁ? 勇者様が居るなんて予想外♪」


 顔を上げると、コウモリを連想させる羽を広げて、ベスドラがこちらを見下ろしている。

 今回、空人と真奈美の二人が王都に、連行される理由を作った張本人の顔が、王都に燃える火に照らされ影が出来る。

 妖艶で怪しい笑みに向かって滉一は叫ぶ。


「よくも二人を!」


「あれは事故のようなものよ」


 ベスドラは肩を竦めた。

 そして、言う。


「もしよかったら。二人の居場所を教えて差し上げましょうか?」


















「二人は近いぞ!」


 ネナと千佳を背中に乗せて、王都の火の中をひたすら走るテリーが言った。

 ホルはネナの身体を黒い外套で包み込んで思う。

 

 ――あの人は本当に無事なのだろうかと


 これだけの魔物の数だ。

 魔物とすでに接触している可能性は高く、武器を持たない空人が生き残れるかどうか。


(今は信じるしかない)


 ただ、彼の無事を祈るだけだった。

 テリーが海の上に掛けられた橋にたどり着いた。目の前にいるオークの群れは、海の上に建てられた塔への侵入を邪魔している。


「二人とも捕まっていろ」


 忠告の直後に千佳とネナを襲ったのは浮遊感。

 オークの群れの頭上を飛び越えて、テリーが壁の崩れた塔の二階部分に着地する。

 一階の入り口は固く閉ざされているが、オークたちは次々に押し寄せている。突破されるのは時間の問題だ。


「ソラトさんたちは、何処に?」


「テリー。分かる?」


 ネナが不安そうに呟き、千佳の問いにテリーは鼻の神経に集中した。

 砂埃や鉄、薬の匂いに交じって、真奈美の香りがする。


「真奈美が近いぞ」


 テリーはそう言うと螺旋状の階段を上り、上を目指した。

 衛兵の死体、ゴブリンなどの魔物の死体を超えた先に、真奈美の姿があった。

 囚人用の薄いTシャツとズボンの端が破れており、手足には擦り傷が多数見える。それでも生きていた。


「千佳!」


「お姉ちゃん!」


 千佳がテリーの背中から飛び降り、真奈美の胸へと飛び込んだ。

 再開を喜ぶ姉妹は微笑ましいが、まだ彼が居ない。


『マナミさん! ソラトさんは何処ですか!?』


「知り合いの女の子を助けに行った。テリー、匂いはある?」


「……下からだ。ただし……血の匂いもする」


 テリーの言葉に嫌な予感しかしない。

 その時、一階の入り口を破ってオークたちが中へと侵入してきた。


「あいつら! テリー、食い止めるわよ!」


「うむ! チカ、ネナ! ソラトの匂いはこの二つ下の階からだ。頼むぞ」


 真奈美がテリーの背中に乗り、螺旋階段の真ん中に空いた空間から、一気に一階へと飛び下りる。

 残された千佳とネナは、螺旋階段を降りて、二つ下の階へと向かう。

 鉄の扉を開けて、長く伸びた廊下を全速力で駆け抜ける。


「ホルさん。ソラトさんが居たら、武器化を解除してあの人の力になってくださいね」


 ネナの優しい声に、マントとなったホルが元気な声で答える。


『任してください! 私とソラトさんなら、王都の魔物を殲滅して見せます!』


「頼りにしていますね」


 そうだ。ソラトが自分の神殺し()を引き出せば、王都に居る魔物だって倒せる。

 今は空人に会って、魔物を倒すことだけを考えよう。

 

 千佳とネナは廊下の突当りの壁が崩れて、外に繋がっているこのことに気がついた。

 空人はそこにいるはず。そんな思いを胸に外へと飛び出した。

 塔から飛び出した地区の屋根上だろうか、そこには平行な足場があり、火に燃える王都の姿が一望できた。

 足場の真ん中に居る、翡翠色の髪と瞳を持った少女。

 彼女が握る手の先には、探し続けていた彼の姿があった。


 ――仰向けで血の海に倒れる、ソラト()の姿が


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