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アナタと歩く英雄譚  作者:
第一章
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第三話 初めての街

 森を徒歩で抜けるまでの間、アリュラは親切にも色々なことを教えてくれた。

 まず今、居るのはテクノス王国と呼ばれる国で、今から向かう街は『ミスオン』、別名『始まりの街』と呼ばれる場所らしい。

 名前の由来は周りの魔物の強さから初級冒険者が多く集まり、多くの冒険者がその街からデビューすることが多いから。


 知識ゼロの俺には願ってもない場所だった。

 そこの冒険者ギルドに行けば、初心者を多く相手にしているので詳しい説明が受けられるだろう。


 今はすっかり日が落ち、森は暗闇が支配している。

 火で野営の準備をして、干し肉やらの携帯食料で腹を満たし、あとは寝るだけの状態だ。

 眠気がなかった俺は見張りをやることにした。

 見張りといっても、起こした火に集めた薪を入れるだけの簡単なお仕事だ。


 ただ、何故か寝る番のはずのアリュラが俺の目の前に座っている。

 寝なくても大丈夫なのだろうか?

 ホルは俺が使う予定だった羽毛に身を包んで、爆睡中だ。


「寝なくていいのか?」


「ええ。私も眠くないの」


 彼女の笑みが火に照らし出される。

 少しだけドキッとしたが、薪を火に入れて誤魔化す。


「アリュラは冒険者なのか?」


「もちろんよ。Cランクだからまぁまぁってとこね」


 強いかどうかの基準がよく分からないが、それなりに経験があることには間違いない。


「なんでこの森に居たんだ?」


「依頼よ。あなたを助けたのは依頼の帰り」


 なんたる偶然。

 アリュラに助けてもらわないとどうなっていたか……本当に助かった。


「本当にありがとう。街についたら何かお礼をするよ」


「ふふ、楽しみにしてるわ」


 女性にプレゼントあげた経験など皆無だ。

 あとでホルに聞いてみよう、あいつも一応、女性だしヒントくらいはくれるだろう。

 いや、この場合はご飯でも奢ればいいのか?

 ダメだ、分からん。


「ソラトはなんで田舎から出てきたの?」


「そうだな……厳密に言うと、俺は自分の元いた場所に帰りたいんだ」


「どうゆうこと?」


「小さい頃に生まれた故郷から連れ出されてさ。その故郷に帰りたいと思って、飛び出してきたわけ。右も左も分からないくせに」


 ごめんなさい、真っ赤な大嘘です。

 そんな重い過去、俺にはありません。

 だけど、俺が異界人であると言うことは隠しておいたほうがいいだろう。

 それにまず、信じてもらえない。


「若いのに苦労しているのね」


 アリュラが金色の澄んだ瞳で見つめてくる。

 思わず見惚れてしまうほどの美しさだが、嘘を言った手前、彼女を直視することが出来ない。


「アリュラはもう寝なよ。寝不足は肌の天敵だよ」


「そうね。せっかくの気遣いだからそうさせてもらうわ」


 アリュラは俺に背を向け、横になった。

 薪が火に焼かれ、パチっと音が鳴る。

 それ以外の音は聞こえない静寂。


 ステータスでも確認しておくか。

 2人を起こさないように、小さく呟いた。


============================


名前:ソラト・アイバ

種族:人間

レベル:2

SP:3


筋力:62

生命:43

敏捷:64

器用:51

魔力:45


スキル

相思相愛:《ユニーク》

剣術:《1》

弓術:《1》

槍術:《1》

火魔法:《1》

詠唱破棄:《1》

生活魔法:《1》


============================


 

 レベルが上がっていた。

 アリュラが言うには、ステータスの値はレベルの上昇につき1~5の範囲でランダム上がるそうだ。

 SPはスキルポイントのことらしく、溜めてスキルのレベルアップに使うもよし、ステータスに当てて伸ばすのも自由。


 スキルのレベルはSPを振り込む他にも、使い込めば自然と上がってゆくこともできる。

 ポイントを振り込むか、熟練度として上げた方が早いかはスキルの種類にもよる。

 今回のSPは何も使わないことにしようと決めている。


 理由は新しいスキルの習得にも必要だからだ。

 スキルの習得方法は欲しいスキルを相手に見せてもらうと、対応したSPを払うことで習得できる。

 今の俺には確立された戦闘スタイルがない。


 索敵関連のスキルは、危険を早く察知するためにも欲しいし、ほかの属性魔法も使えるようになりたい。

 ようは、戦闘の幅を広げたいのだ。


 その上で、軸となるスキルを定めて自分の戦闘スタイルを確立する。

 武器として、ホルを使うのか、別に武器を買うのか。

 そこら辺もきっちりと考えないといけない。


 ホルの話だと、あいつの武器化も熟練度があり、使えば使うほど上がってゆく。

 さらにあいつ自身の体調などにも、武器の性能は影響される。

 安定しない点と、近くにホルが居ないと使えないなどの欠点がある。


 頼りにしているが、頼り過ぎは危険だ。

 ひとつの判断が命取りになる。

 今回のように誰かが助けてくれる保証など、どこにもない。

 

 強くなるしかない、この世界を生き残るため、一人でも戦えるくらいに。

 そして、絶対に元の世界へと帰るんだ。


 





 決意を新たにした夜は明けるのが早い。

 次の日は朝日とともに出発した。

 なかなか起きなかった、ホルはデコピンで強引に起こしたせいか、少しだけ不機嫌だ。


 歩くこと、半日。

 時々、魔物襲撃や休憩をして、ようやく街についた。



「おぉ! 街が見える!」


 異世界に来て、初めての街だ。

 俺は興奮と感動に胸がいっぱいだった。

 

「あれがミスオン。街についたらギルドに行かないとね」


「ようやく職につけるのか」


「ニート卒業ですね。あっちの方の卒業はまだですけどね。ププ」


 この妖精はいつも俺を煽ってきやがる。

 今度、武器化した時に木に擦ってお仕置きでもしてやろう。


「ホル。今度、死ぬほど武器状態で使ってやるからな。覚悟しておけ」


「いやぁぁあ! アリュラさん! 助けて! 犯される!!」


「こらこら、女の子をいじめたらダメよ」


 ホルがアリュラの背後に隠れてしまった。

 チッ、命拾いしたな。


 街に向かって歩くと時々、商人らしき馬車を引いた人や、剣や槍を背負った冒険者らしき人とすれ違う。

 すれ違うたびに適当に挨拶をしていると、街の入口についた。


 入口は街へ入るのが目的の人々が列をなしている。

 門番らしき鎧を着た屈強な男が、何やら質問をしてそれに答えて入ることを許可されている。


「何を聞かれるんだ?」


「犯罪歴と街に来た目的ぐらいかしら? あとは税金を払っておしまい。簡単だから、緊張しなくていいわ」


「犯罪歴……ホル。懺悔するなら今のうちだぞ」


「潔癖です! アリュラさんは知りませんが姦淫すらしたことのない乙女です!!」


「なんで私を引き合いのだすのよ!! それに私だってないわよ!!」


 2人の発言で周囲がざわめく、所々から処女という言葉が聞こえる。

 ホルは周りからは見づらいので、主に視線を集めるのはアリュラである。

 とんだ災難だ。


 そうしているうちに俺たちの番が来た。

 待っている間、ホルが「ダンナぁ、あの娘、処女らしいですぜ。グフフ」とか耳元で言っていたが、完全に無視した。


「お! アリュラさんじゃないか! お帰り!」


 アリュラは門番の男と知り合いのようだ。

 20代中盤くらいの男の笑顔は爽やかだ。


「メインさん。ただいま」


「後ろの人たちは?」


「依頼のあった森で会ったの。ギルドに登録に行くって言うから案内していたのよ。男の子がソラト、肩に乗っている妖精がホルよ」


「ソラトです。よろしく」


「ホルといいます」


「おう、よろしくな! 妖精持ちとは珍しいな。冒険者は危険も多いけど、上に行けばその分、見返りも多くなる。頑張れよ!」


 肩をバシバシ叩いて激励してくる。

 いい人そうだ。

 それとも、俺が爽やかな青年ということで好印象だから、チートの能力で俺のことを気に入ってくれたのだろうか?

 同性への好意というものが、何を指すかは曖昧で分からない。


「さて、街に入る証明書は一人あたり銀貨1枚だ。アリュラさんは持っているやつを出してくれ。妖精は無料だから安心してくれ」


 銀貨一枚を袋から出して、払った。

 渡された証明書に名前や犯罪歴を書く欄があったが、字がわからないのでアリュラに書いてもらった。

 証明書はひと月有効で、その間は街の出入りで税金を払う必要はない。


「ミスオンへ、ようこそ!」


 メインという、男は爽やかな笑顔で歓迎してくれた。


 そして、門を向けるとそこは中世ヨーロッパの街並みだった。

 石畳に、石造りの建物、日本家屋しか見たことのない俺には新鮮に思えた。


「ソラトさん! 見たことのない品があります!」


「持ってくるな! 戻してこい!!」


 犯罪歴はないと証明書に書いたはずなのに、いきなり犯罪者になるところだった。

 初めての街でホルも興奮状態だ。

 そのせいで思わず商品を手に取ってしまったのだと信じたい。


 今の残金は銅貨10枚と銀貨4枚。

 稼ぐ手段は今からだし、毎回変な品を持ってこられて、買う羽目になったらいくら金があっても足りない。


「さて、ホルも戻ってきたし、どうするのソラト? 先に冒険者ギルドへ行く?」


「宿……かな。拠点となる場所を先に確保したい」


 修学旅行などで宿泊施設に入るときのあのドキドキ感。

 俺はあの感じがたまらなく好きだ。

 それに、初めての街で初めての宿。

 なんとなく楽しみだ。


「分かったわ。いい宿知っているから、案内するわ」


 たくさんの露店が並んだ商店街を抜けて、ベッドマークを掲げた建物へとはいる。

 今回スルーした露店には、金に余裕ができたら来てみよう。

 

「いらっしゃい! 何名、って、アリュラちゃんじゃない! 街に戻ってきてたの?」


 この宿の女将さんもアリュラの知り合いのようだ。

 お袋と言ったらいいのか、恰幅を感じさせる、気前の良さそうな人だ。


「お久しぶりです、女将さん。二部屋お願いします。一週間で」


「りょーかい。それにしても、アリュラちゃんが男を連れて来るなんてねぇ~」


 女将さんが俺を見て、嬉しそうにニコニコしている。

 確実にこの人は勘違いしている。


「ち、違います! 案内してって、言われたから、しただけです!」


 アリュラは顔を真っ赤にして否定した。

 ホルが「ツンデレ、頂きましたぁぁあ!!」と耳元でうるさい。

 あと、なんでこいつは俺の肩に座っているんだ。


「ふ~ん……そんなこと言って、同じ宿に泊まるなんて大胆ね~、ホントに二部屋でいいの~?」


 アリュラと女将さんは親しいようだ。

 女将さんの怒涛の口撃にアリュラは一言も返せない。

 ここは俺がフォローして、誤解を解きべきか。


「女将さん、勘違いしないでくれ。俺はどちらかといえば巨乳派だ」


「小さくて悪かったわね! 女将さん、鍵!」


 アリュラは鍵を受け取ると、階段をドスドスと登っていった。「男なんて、胸しか見てないんだから」とか、聞こえたが気にしない。

 いや、気にしてはならない。

 大切なのは胸の話が、アリュラの前では禁句だと言うことを理解することだ。


 ……後でちゃんと謝っておこう。


「一週間で、銀貨3枚だよ」


 女将さんに銀貨を払い、鍵を受け取った。

 部屋を開けると、6畳ほどの広さにテーブルとベッドの置いてあるシンプルな作りだった。

 不満はない、周りを警戒する必要もないのだから、安心して寝られるだけでもありがたい。


「ソラトさん! 私はどこで寝れば!?」


「地べただ」


「乙女になんたる仕打ち!!? それでも男ですか!?」


「武器化して壁に立てかけてやってもいいぞ」


「視姦ですか!? 新手の方法で私を辱める気ですね!!」


 武器化してそれを見ることが視姦なら、戦闘中は視姦されっぱなしだぞ。

 しかし、ホルの言うことも一理ある。

 さすがに地べたは可愛そうだし、ベッドに入れてもいいが、寝返りをした際に潰したとかは後味が悪い。

 何より、口から妖精を出したくない。


「残りの金で材料買って、簡単なベッドでも作るか」


「ホントですか!? 出来れば羽毛も高いやつで、枕も高級なやつをお願いします!」


「破産するわ! それにそんなミニマムサイズないだろ!」


「大きくても、ええんやで?」


「どこでエセ関西弁を覚えた」


「笑いを取るときは関西弁だと、某掲示板に書いてありました」


「○チャンネルかよ!!」


 その後、ホルと二人で簡易ベッドの材料を買いに行った。

 その間、何故かホルは俺の肩に座りっぱなしだった。


 宿に戻ると、風呂上りのアリュラに何処に行っていたと聞かれた。

 着ていたバスローブの胸元が残念だなと思っていたら、「胸ばっかり見ないで!」と脇腹に右拳がめり込んだ。

 このままでは少し視線が下がれば、拳が飛んできそうだ。

 早急に何かお詫びをしなければと決意を新たにした。


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