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アナタと歩く英雄譚  作者:
第四章
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第二話 王都にて

 王都。テクノス王国の中心にして、魔王軍との戦争で中核を担うその都で、一際目立つ城。白く化粧をしたかのような、白銀の佇まいは見る者を魅了する。

 そんな、城に居る兵たちは苦虫を食い潰したような表情を、いつも浮かべている。


 理由は、魔王軍との戦いで主力の『魔王討伐部隊』の異界人たちである。

 横暴、差別、偏見。

 力と権力を得た人間は、より暴力的で残忍になる。


 憂さ晴らしで殴られることは日常茶飯事。

 恋人や家族にも嫌がらせをされる者も過去には居るくらいだ。

そんな報告を王から言われ、『魔王討伐部隊』の隊長、広瀬 斗真(ひろせ とうま)は自室の机の上で頭を抱えた。


 愛用の眼鏡を外し、机の上に置いた。

 椅子の背もたれに体重を預け、豪華なシャンデリアが吊るされた天井を眺める。


城の一室に用意された斗真の部屋は、10畳くらいの大きさがあり、一人で使うには空間を持て余している。

 来賓用の高価なソファーや机を使うのは、同じ部隊に所属する異界人たちだけだ。

 メイドが用意してくれた菓子も彼らがすべて食べていく。


 斗真が隊長になって以来、王都の騎士団たちとの摩擦が減るように努力はしてきたつもりだ。

 しかし、過去から根付いていた習慣はすぐには消えない。

 今も斗真の目の届かないところで、兵たちに暴力を振るう輩がいるらしい。


(どうしたもんか……)


 立場が立場とはいえ、悩み事は自分たち討伐隊内部だけではない。

 最近、ギルドに現れたと噂される『ケルベロス殺しの冒険者』、魔王軍の将軍の一人、『マンファンを倒した冒険者』、この二つは同一人物が成し遂げたと言われている。


 勇者の滉一ではない、これだけは確かな筋から得た情報なので、間違いない。

 こっちの世界に来たばかりは、右も左も分からずオドオドしていた少年は今や『勇者』と呼ばれる、ギルド側最強の冒険者のうちの一人だ。

 その昔、一緒に来た幼馴染の姉によく怒られていたのが懐かしい。


(真奈美は……元気かな)


 今はギルドに所属し、違う道を進んだ彼女を思い出す。

 まだこの世界に来て間もない頃の彼女らと、一緒に戦っていた頃が懐かしい。

 自分の力を試したくて、討伐部隊に入った自分に彼女はついてこなかった。


(強情な人だ……)


 口が悪く、その気の強さから、自分の決めたことは絶対に曲げない。

 そのくせ、落ち込むときはとことん落ち込む、誰かに守って欲しいと思う所は女の子らしくて、その意外性に笑いが出る。


(言ったら、殺されるだろうけど……)


 斗真は椅子から立ち上がり、ベランダへと出た。

 朗報の予感がする、気持ちのいい快晴だった。


 今日はウルカグルから、殺人の容疑をかけられた冒険者が来る。

 早馬で伝わっているが、一人は真奈美でもう一人は無名の少年。

 真奈美を部隊に引き込めば、戦力は増大する。


 大魔術師の異名を持ち、『勇者・滉一』に並ぶギルド側の切り札。

 欲しいに決まっている。『全ての異界人を部隊に入れる』という斗真の目的は別にしてもだ。


(少年は何者だろうか……)


 黒髪であると報告では聞いている。

 異界人である可能性は高いだろう、異能(チート)を持つ異界人が現れると、とにかく噂になる。

 強い冒険者が現れた、異能を持つ者が現れた。


 噂は王都まで届き、王都にある異界人部隊の噂を聞きつけ、『魔王討伐部隊』を訪ねて来る者がほとんどだ。

 真奈美たちのように、ギルドに留まる者は今やほとんど居ない。

 ごく一部には、討伐部隊からギルドに流れる者もいるが……どの道長くは続かず戻ってくる。


 自分たちを訪ねない異界人。そして、最近の噂になる冒険者。

 彼がもしかすると、自分が求める『モノ』を持つ異界人なのだろうか。


(いや、今は考えることをやめよう……どの道……異界人は全員――)


 ――殺すのだから




















 こんな形で王都を訪れることになるとは思わなかった。

 腕につけられた手錠がよりいっそう、気分を重くさせる。

 馬車から降ろされ、隣を歩く真奈美の足取りは、俺よりも重い。


 リリアネットの屋敷で受けたダメージは、まだ回復しきっていない。

 本来なら、千佳ちゃんにでも治してもらった方がいいんだけど……

 あのクソ魔族、次会ったら叩き切ってやる。


 リリアネット殺し、衛兵を呼んだ魔王軍の将軍、ベスドラはいつの間にか姿を消してしまった。

 衛兵たちの包囲網を強行突破する手もあったが、当時の真奈美は衰弱しきっていて、まともに動ける状態じゃなかった。

  運ばれる馬車の中で魂の刻印(ルーン)が解除されるまで、刻印魔法で治療を続けたけど、完全に回復させるまでには至らなかった。


 衛兵に連れられ、歩くと三メートルくらいの大きさをした、門の前にたどり着いた。

 その門が上にスライドして開くと、灰色の煉瓦で造られた橋が架けられている。

 今になって気が付いたが、頬を撫でるそよ風に乗って潮の香りがする。


 橋の下は海になっており、塔に繋がっていた。

 囚人を収容する塔って所か。


 重い気分とは対照的に、心地よい日差しが降るなか、二人の衛兵に連れられ橋を歩く。

 塔の中にはいると、壁に掛けられたロウソクが照らす、螺旋状の階段を上って行った。

 階段を上り、誰も居ない左右に並んだ牢屋を過ぎて、さらに奥へと案内される。

 100人ほど入りそうな大部屋。円形に間取りをされた部屋には外からの日が差し込む、小さな窓が一つあるだけで、他は何もない。

 黒いレンガの敷かれたこの床で直接寝ると思うだけで、気分が滅入る。


「お前ら。討伐部隊と同じ国から来たのか?」


 衛兵の一人が話しかけてきた。

 討伐部隊と言うのは、魔王討伐部隊のことだろう。

 同じ国ってのは、日本の事か。


「仮にそうだとしたら何?」


「こうゆうことだよ!」


 衛兵の一人が俺の顔面を殴った。衝撃に身体が吹き飛び、床に叩きつけられる。

 口の中で血の味がする。どうやら切ったようだ。


「いきなり何しやがる!」


 衛兵の一人が衰弱した真奈美の身体を拘束し、もう一人が俺の背後に回り込み、太い腕で首を絞めてきた。

 これじゃ、身動きが取れない。


「俺たちは、てめぇらの同郷にヒドイ仕打ち受けてんだ……ちょっとくらい、手を出したって許されるだろ?」


 首を絞めて来る男がそう言って、クイッと目配せで真奈美を拘束する兵に合図した。


「クック……お前の身体を憂さ晴らしに使わせてもらうぜ!」


 衛兵が服の隙間から手を入れ、真奈美の身体を触り始めた。

やろう!


「暴れんじゃねぇ!」


 首を絞める男の力が増えて、身動きを封じられる。


「ゃだ……離してっ」


 真奈美が抵抗の色を示すが、衰弱しきった身体で男の力に反抗できるわけもなく。

 あっさりと、抑えられる。

 クソ! このままじゃ……


 そう思った時、またあの女の声が聞こえた。


「お兄さんたち。私といいことしない?」


 声の主はベスドラ。当然現れた魔族に驚き、男たちの動きが止まる。

 その隙にベスドラは投げキッスを男たちに投げた。


「あ……?」


「ん……?」


 衛兵の男たちが糸の切れた人形のように、床に倒れた。

 肩が動いていることから、殺したわけじゃなさそうだ。

 ベスドラは気を失った衛兵たちの身体を片手で持ち上げると、廊下に向かって投げた。


「これで邪魔者はなし! ゆっくり話ができるわね」


 ペスドラがペロッと舌をだし、真奈美の身体を持ち上げた。


「おい! 彼女をどうする気だ!」


「どうするって、こうよ」


 ペスドラがそう言って、真奈美の身体を俺に向かって投げる。

 俺が受け止められる勢いで投げてくれたのか、手錠で両手が拘束された状態でも受け止めることが出来た。


「大丈夫?」


「うん……」


 小さな返事。俺の服を掴む彼女の手が震えている。

 怖かった……よな。

 見知らぬ男に身体を触られたわけだし。


「あらぁ。嫉妬しちゃうわぁ」


 ベスドラが顔に手を当て、うっとりとした表情で俺たちを見下ろしている。

 こいつの真意は正直、分からない。

 俺や真奈美を殺すチャンスは、多分にあった。

 それなのに殺すどころか、二回も窮地を救ってくれた。

 そもそも、なんでこいつはここに居るんだ?


「お前……一体、何考えてんだよ?」


「何って。アナタを私の物にする方法よ♪」


 お前もかい。そう突っ込みたくなったが、リリアネットとは状況が違う。

 今、俺の手元にはホルは居ないから、ベスドラと戦うのは無理だ。

 もし、戦ったとした秒殺で終わる。それだけは間違いない。


「でも、勘違いしないでね。あの女と同じ手は使わない。アナタの本心で選んでもらう。じゃないと私のサキュバスとしてのプライドが許さないわ!!」


 両手を広げ熱演するベスドラ。

 よく分からないが、人質をとって脅すような真似をするのは彼女のプライドに触るようだ。


「人質を取らないって美学は分かった。だからって、お前がこの状況で真奈美に手を出さない、その保証はない」


 今の俺にベスドラから彼女を守る力は無い。

 だけど、精一杯の力を込めて、ベスドラを睨んだ。


「その女が居なくなれば、ライバルが減るかなぁって思ったわ。でも、私はその女に見せつけたいの」


「何を?」


「ソラトといちゃつく姿。そして、女としての完全勝利を収めて見せる! 殺すなんて、美しくないわ」


 よく分からないが、とりあえず真奈美に手を出す心配はないらしい。

 どこまで本当かは分からない、俺たちを油断させる罠かもしれない。

 だけど、この状況ではその言葉を信じるしか無かった。


「と、言うわけで。ソラト! 男女の熱い営みを始めましょう!」


「は?」


 意味の分からないことを言ってペスドラは、俺の服を掴む真奈美の手を払いのけ、俺と真奈美の間に割って入った。

 首に手を回し、豊満な二つの山を押し付けて来る。

 今まで嗅いだことの無い、甘い匂いが鼻孔に飛び込み意識を朦朧とさせた。

 やべぇ……これがサキュバスの魅了の力か……


「あ、あんた……空人から離れなさいよ……」


 真奈美が覚束ない足取りで立ち上がり、ベスドラを睨みつけた。

 ベスドラはそんな視線を鼻で笑うと、紅いマニキュアの塗られた人差し指を、小さな舌で舐めた。


「あらぁ? 状況を分かっていないのかしら? アナタを殺そうと思えば、いつでも殺せるのよ?」


「やって……見なさいよっ」


「クス、さっき犯されかけてビビってた小娘がよく言うわ。それに、ソラトは私を拒否できないわ。ねえ~、ソラト♪」


 ベスドラが耳元に口を近づけ、息を吹きかけて来る。

 ゾクゾクした悪寒が背中を走った。

 や、やばい! これ、我慢出来る気がしない!


 相手は百戦錬磨のサキュバスのお姉さま。そんな相手の責めに耐えられるような経験も皆無の俺には、刺激が強すぎる。

 目を固く閉じ、身体から湧き上がる衝動と戦う俺にベスドラが囁く。


「私、ハーレムは公認よ。でも、あの女だけはダメ……この状況でソラトがあの小娘を取るのなら、私殺しちゃうかも♪」


「ひ、人質を取るのは、び、美学に反するんじゃ無かったのか?」


「ただの切っ掛けよ♪ 一度私を抱いたらその男は魅了される……最初は本人からじゃないと嫌だけど♪」


「な、なるほど。強引に迫ったらそっちの勝ちってわけだ」


「でも、最初は求められたいの♪ 女ってそうゆうものよ♪」


 ペスドラが耳元から離れ、真奈美を見る。


「離れなさいよっ。このビッチっ」


「そのビッチに男を取られる気分はどう? それに、あなた達お互いキスくらいはしたことあるの?」


「あ、あるわっ」


 顔を真っ赤にして精一杯の声で叫ぶ真奈美に、ベスドラが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


「じゃあ。どっちのキスがいいか、比べられるわね♪」


 何を言っているか分からない。そう言おうとした俺の口は、ベスドラによって塞がれた。


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